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2018-10-25 (Thu) 23:55

札幌市電が上下分離方式を導入する方針 2020年度に公社へ委託


2017年12月16日、山鼻線石山通電停にて撮影
札幌市内で製造された「道産電車」の240形246号車

2015年12月に都心線4丁目~すすきの間が開業して以降、山手線や大阪環状線、名古屋市営地下鉄名城線のような環状運転を実施している札幌市電。
ループ化の実現により乗客は増加しましたが、以前より抱え続ける累積赤字が解消されず老朽設備の補修費用も捻出しきれない苦難に直面しています。
そこで札幌市は2020年度を目途に市電の経営を上下分離方式に切り替え、人件費をカットする事によりスリム化を図る方針を示しました。

上下分離方式とは鉄道・空港・港湾などの運輸事業において、「下」に当たる施設の保有・管理と、「上」に当たる交通事業の運営を分離する経営方法の事です。
鉄道の場合は線路・電気・建築・機械設備・車両の管理が下部主体、列車の運行が上部主体に該当します。
前者が後者へ運行に必要な施設を貸し付け、後者は公道を使うバス会社・運送会社のように輸送サービスの企画・運営を行うという訳ですね。
過去の事例を見るとイギリス国鉄やDB(ドイツ鉄道)などヨーロッパで上下分離方式を採用する鉄道が
多いですね。

京王電鉄 京王井の頭線
JR北海道 札幌市電 札幌市交通局 札幌市交通事業振興公社 業務委託 上毛電鉄 JR東日本

日本における上下分離のパイオニアとなった上毛電鉄の700形(元・京王3000系)
2016年10月30日、大胡列車区の見学時に撮影

我がOB会が2016年10月に貸切乗車会を敢行した上毛電鉄も、実は日本国内における上下分離方式の先駆けとして1998年より、地元自治体が施設・車両の保守費用を公費で賄う「群馬型上下分離」の支援を受けています。
「群馬型上下分離」は1999年より同じ群馬県内の上信電鉄も対象となり、県外でも並行在来線分離により2001年5月に設立された青い森鉄道が日本の第三セクター鉄道として初の上下分離方式を適用しました。
その後も上下分離の鉄道会社は少しづつ増えており、例を挙げると福井鉄道は福武線再構築事業の一環として2009年2月より沿線3自治体(福井市・鯖江市・越前市)が福井県の補助を受けて鉄道用地を有償で取得し、福井鉄道に無償で貸し付ける方式を取っています。
三陸鉄道も鉄道事業再構築を目指し2009年12月に鉄道用地を沿線自治体に無償譲渡し、北リアス線・南リアス線の2路線とも上下分離方式に移行しました。
近鉄が廃止を示唆した内部線・八王子線も沿線の熱意により、四日市市が施設を保有する公有民営の四日市あすなろう鉄道として2015年4月に再出発しています。


運転士 運転手 札幌市電 業務委託駅 路面電車

2017年12月16日、一条線西4丁目電停にて撮影
市内の不動産会社「くきつ」の広告ラッピング車、210形213号車

札幌市が今回提言したのは公設型上下分離方式で、この場合に下部主体としてインフラを保有し維持費用を負担するのは公的機関で、上部主体として交通事業を担うのは公的機関が設置した外郭団体を含む外部の業者です。
札幌市交通局の公式サイト上には本件に関するプレスリリースが出ていませんが、報道によると札幌市交通事業振興公社が市電運行の委託先に指定されています。
札幌市交通事業振興公社は札幌市が50%出資(1988年11月の設立時点では100%出資)する一般財団法人で、当初は定期券発売所やパーク&ライド等の運営を行っていましたが、2000年4月より市営地下鉄の駅業務を受託するようになり、2008年4月には3路線全49駅の業務委託化が完了しています。
一方、市電の業務については乗車券類の販売を除いてノータッチだった公社ですが、まさか電車の運行を担う事になろうとは10年前は思いもよりませんでした。
道新の報道を下記に引用しましょう。

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札幌市電 「上下分離」へ
20年度 市の公社に運行委託

 札幌市は、市営の路面電車(市電)の運行を別の事業者に委託する「上下分離制度」を2020年度中に導入する方針を決めた。市営地下鉄駅の管理業務などを行っている一般財団法人・札幌市交通事業振興公社に委託する方針。人件費を抑制して経営を安定させる狙いだ。
 22日開かれた市議会決算特別委で市が明らかにした。市交通局の渡辺寛也事業管理部長は「上下分離で経営効率化を図る。施設整備は市が担うことで路面電車を活用したまちづくりに関与できる」と強調した。来年2月開会予定の定例市議会に関連議案を提案する。
 上下分離制度では、旅客を運ぶ事業者と、施設や車両を保有・整備する事業者に分離し、それぞれが経営する。市は14年度に策定した市交通事業経営計画(14~18年度)の中で、平成30年代前半に上下分離制度を導入する考えを示していた。
 札幌市の市電は15年12月のループ化で、乗客は増えたものの、累積赤字(17年度末)は4億1400万円。市は老朽化した施設補修や人口減少で長期的な増収は見込めないと判断した。
 公社は市が50%出資し、理事長は市交通局長が務める。同公社について市は「技術や機能を確実に継承でき、緊密な連携が図れる事業者」と説明した。
 国土交通省によると、全国の路面電車で上下分離方式を導入しているのは富山市のみで、宇都宮市が22年度の開業を予定。札幌市が申請すれば3都市目となる。(久保吉史)

出典:『北海道新聞』2018年10月23日付 朝刊第4面 総合
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「路面電車として3都市目と書いているけど、同じく上下分離方式の福井鉄道は路面電車に含めないの?」という疑問はさておき。
市電の運行を札幌市交通事業振興公社が受託すれば、当然ながら電車事業所の従事員も公社に転籍する事になりますね。
2018年現在の札幌市電には電車事業所担当課長(旧・電車事業所長)を筆頭に、電車業務係長(他社局の乗務区長に相当)、電車技術係長(他社局の検車区長に相当)、助役、主任、検修員、運転士(職制上は「運転手」と表記)といった職員が勤務しています。
ほとんどの職員は交通局が独自に採用した現業公務員ですが、電車事業所担当課長については札幌市に採用された地方公務員でしょうね。
何処の交通局も部課長クラス・非現業(本庁舎の企画・管理業務担当)は自治体が直接採用した職員を充てており、例えば総務局、健康福祉局、水道局、区役所といった所から交通局に異動する場合もあれば、交通局からそれら他部門に異動する場合もあるといいます。




2017年12月16日、山鼻線石山通電停にて撮影
「不動産のビッグ」の広告をラッピングした210形214号車

気になるのは公社移管後の運転士の処遇。
交通局が公開している資料『札幌市交通事業経営計画[平成26~30年度(2014~2018年度)]』p.11によると、2014年6月時点で路面電車運転手の総数は63名。
このうち正職員が30名なのに対し、1年ごとに契約が更新される非常勤職員は33名と僅かに上回っています。
同資料p.9を見ると非常勤運転士の採用が開始された1998年は4名でしたが、16年間で更に29名も増加した訳ですね。
もちろん不安定な地位ですから、この間に転職した職員も多かったでしょう。
非常勤では助役への登用もありえませんからね。
しかも35歳未満(15名)と40~44歳(3名)は非常勤しか在籍せず、35~39歳も15名中14名が非常勤。
正職員の運転士は30名中25名が50歳以上(うち60歳以上は3名)で、札幌市営地下鉄の乗務係が陥った高齢化の問題を市電も抱えている状況です。
地下鉄の方は後進の運転士を育成するべく2012年度から正職員車掌の募集を再開し、東豊線ワンマン化までに若い乗務員達が運転士として一人立ちしました。
しかし市電の方は長らく非常勤の募集しかしておらず、しかもお役所ゆえ正職員に登用される可能性はありません。

「でも流石に公社移管後は正規雇用になるだろう・・・現に地下鉄駅員だって入社後1年間は契約職員だけど大半は正職員に登用されている訳だし・・・」

そう思っていたらほぼドンピシャ、翌24日の道新が非常勤運転士を正職員として雇用する旨を報じています。
下記に記事を抜粋しましょう。

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札幌市電、20年度「上下分離」へ 運転士の身分保障図る
正職員として採用 ベテラン、若手 技術継承期待

 札幌市が市営の路面電車事業(市電)について、施設は保有しながら運行を民間事業者に移管する「上下分離制度」を導入する方針を決めたのは、累積赤字が続く市電事業のコストを抑えつつ、運転士の7割を占める非常勤職員を正職員として雇用するためだ。移管先は市の第三セクター「札幌市交通事業振興公社」を想定する。非常勤の運転士を公社の正職員として雇用し、身分保障することで、他社への運転士流出を防ぐ狙いもある。
(久保吉史)

 市電の累積赤字は昨年末で4億1400万円。市は、経済界などに市電廃止論もあるため今後もコスト増は回避すべきだとの立場だ。一方、現在71人いる運転士のうち、40代以下の49人は全員、1年契約の非常勤職員。人件費抑制のため正職員採用をストップしているためだ。だが非常勤職員は身分が不安定なため、将来的に他の交通事業者に移る懸念があるという。
 市は、上下分離導入を2020年度と想定しており、導入後、非常勤職員は希望に応じて公社の正職員として再雇用する考え。公社の正職員は、市の正職員の待遇とは大幅に異なるものの身分は保障される。市正職員の運転士は身分を保証したまま公社に派遣する方針で、ベテランと若い世代の職員間の技術移転が進むことも期待できるという。
 市は12月の定例市議会で新制度導入後の長期的な収支予測、安全管理体制などを報告し、来年2月開会予定の定例市議会に関連議案を提案する予定。
 一方、市議会には、さらなる効率化のため、市電運行の移管先は公社ではなく、JR北海道など民間事業者にすべきだとの声もある。22日の市議会特別委で、細川正人氏(自民党)は「経営が厳しいなら民間に引き継ぐべきでは」と指摘した。ただ、市によると、他の交通事業者に市電運行の意向を調査したところ、希望する事業者は公社以外にはなかったという。

出典:『北海道新聞』2018年10月24日付 朝刊第15面 地域の話題(札幌版)
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しかしまあ、非常勤運転士については正規雇用化で身分は保障されますが、はっきりと「市の正職員の待遇とは大幅に異なる」と書かれています。
札幌市交通事業振興公社は予てより待遇が悪いと言われており、地下鉄駅員の基本給は月給145,000円と安く、年1の昇給額も雀の涙で中途退職が相次いでいると聞きます。
それで公社は慢性的な人手不足が続いているそうですから、市電の人材流出もはたして防げるか心配です。
これは都電の話ですが、2017年度採用サイトで紹介された運転士の経歴を見ると、地方の路面電車運転士からの転職とありましたから、札幌市電の運転士が他所の鉄道事業者に移る可能性だって考えられる訳ですよね。
一方、現行正職員については公社職員となるのではなく、交通局からの出向という扱いになるんですね。
交通局と公社とでは待遇に格差があり、現行正職員からの紛糾を治めるために落としどころを作った訳です。




札幌市電・札幌市営地下鉄の運転士の年齢構成を示した表
『北海道新聞』2018年10月24日付朝刊第15面より引用

当該記事には札幌市交通局の運転士の年齢構成をまとめた表(2018年10月現在)も掲載されており、これと先述の交通局資料(2014年6月)を見比べると更に正職員運転士の減少(30名→22名)、非常勤運転士の増加(33名→49名)が生じている事が分かります。
市電での非常勤の割合は実に7割、これは流石に看過できない状況です。
一方、市営地下鉄は3路線合わせて208名の運転士が在籍し、2012年からの育成の甲斐あって全て正職員となっています。
市電についても将来的に苗穂・桑園方面への路線延伸を構想している以上、真剣に後進の育成に取り組んでいかなければならないでしょう。




記念すべきループ化試運転の開始日、車体側面に横断幕を付ける職員達
写真の全員、電車事業所の管理職である
2015年11月11日、一条線西4丁目電停にて撮影

委託がらみで他に気になるのは、職制を表示する制帽の識別線ですね。
全国各地の鉄道事業者がそうであるように、札幌市交通局でも管理職の制帽に金色の識別線が付いています。
課長は太金線1本+中太金線1本、係長・主査は太金線1本+細金線1本、助役・主任は太金線1本で表示します。


制帽 識別線 札幌市交通事業振興公社

進出する8000形を見守る管区駅長
2016年2月12日、東西線大通駅にて撮影

これが札幌市交通事業振興公社になると金線は一切使わず、代わりに銀線で職制を表示します。
西武鉄道、京急、小田急、江ノ電など関東私鉄の多くは銀線を主任制帽に使い、京王に至っては主任(営業主任・信号主任・乗務主任)は銀線2本、その配下の指導職(指導営業掛・指導信号掛・指導車掌・指導運転士)は銀線1本としていますが、公社では主任とか関係なく銀色の識別線を使います。
表示の仕方ですが駅務課長(各線に1名ずつ配置)は太銀線1本+中太銀線1本、駅務統括係長・管区駅長・主査は太銀線1本+細銀線1本、助役・主任は太銀線1本となります。
交通局が金線、公社が銀線・・・と識別線を色分けしているのは、同じ管理職でも元請けである交通局の方がヒエラルキー的に上位である事を暗に示しているのでしょう。
札幌市電も公社への移管が為されると、管理職は地下鉄駅のように銀線入り制帽を被るようになると思いますが、はてさて・・・。


(文・写真:叡電デナ22@札幌市在住)


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最終更新日 : 2019-07-02

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