タタールのくにびき -蝦夷前鉄道趣味日誌-

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2018-09-12 (Wed) 19:01

黄色・橙色の腕章を付けた国鉄の営業担当駅員「旅客掛」



以前に車掌区の乗務掛・車掌補・車掌(乗客案内)が着用した腕章を取り上げたので、今回は駅員が着用した腕章を紹介しましょう。
上の写真にある「旅客掛」と書かれた黄色い腕章と、「旅客案内」と書かれた橙色の腕章は駅員のうち、駅構内で接客に当たる掛職が着用したものですね。
「旅客案内」の腕章については、首都圏や京阪神で採用された押し屋のアルバイト(旅客整理係学生班)も着用する事があったといいます。


国鉄 営業関係職員の職制及び服務の基準 駅従事員 指揮命令系統図


さて、黄色い腕章にも明記されている旅客掛という職種を見ていきましょう。
国鉄時代の駅員の代表的な職名として、しばしば「出札掛」と「改札掛」が挙げられています。
出札掛は窓口で乗車券類を販売する駅員、改札掛は改札業務に従事する駅員という訳ですが、実はこれら職名は1962年7月の職制改正を以って消滅しています。
この時の職制改正は駅(操車場・信号場を含む)、車掌区を対象とした「営業関係職員の職制及び服務の基準」の制定を伴うもの。
手職が全て廃止されて掛職に改正されたほか(例:駅手→駅務掛、連結手→構内作業掛)、後の職制改正もこれを下敷きとして実施されました。
同改正では出札掛、改札掛、乗客掛(ホームやコンコースにて旅客の接遇等を担う駅員)の3種を統合し、新たに旅客掛の職名を定めています。
下記に国鉄当局が規程した旅客掛の職務内容を記しましょう。

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乗車券類の販売、受払及び保管、乗車券類の検査及び収集
旅客、荷主及び公衆の案内、駅構内の整理並びに遺失物の取扱い、その他これらに附帯する業務

出典:日本国有鉄道「鉄道公報 昭和37年8月17日総裁達第363号」
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この旅客掛に加え、運輸掛、構内掛といった複数の掛に跨る職務内容を一まとめにした掛職を「統合職」と言います。
国鉄職員局の内部組織・国鉄職制研究会が編纂した書籍『国鉄における職制の構造』(1978年/鉄道研究社)によると、統合職の担務指定については発令行為をせず、その運用を駅長に一任するものとしています。
旅客掛で例えると出札担当、改札担当、乗客担当を完全に振り分ける駅もあれば、ローテーションを組んで旅客営業に係る全ての業務を回せるようにする駅もあったようです。

JR北海道 JR東日本 JR東海 JR西日本 JR四国 JR九州 JR貨物
国鉄 旅客掛 腕章


この職制改正に伴い導入されたのが、赤いフェルトで「旅客掛」と表示した黄色い腕章。
元は乗客掛が黄色い腕章を着用しており、旅客掛の腕章についても駅構内での旅客案内に従事する乗客担当のみ着用しました。

旅客掛は職制改正前の出札掛、改札掛、乗客掛、小荷物掛、貨物掛など営業関係掛職の出面が6人以上の駅に対し、先述したとおり出札掛、改札掛、乗客掛を統合した上で配置されています。
ちなみに出面とは1日当たりの出勤人数の事で、「でづら」と読みます。

一方、出面が5人以下の駅では、営業関係掛職を全て統合し「運輸掛」としました。
運輸掛は職制改正前の駅務掛、予備駅務掛についても同様の統合職であったため統合の対象としています。
参考までに運輸掛の職務内容を記しましょう。

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旅客掛、小荷物掛、貨物掛及び配車掛の職務
特に命ぜられた場合には駅長の代理

出典:日本国有鉄道「鉄道公報 昭和37年8月17日総裁達第363号」
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「駅長の代理」は特殊日勤勤務の小駅に限定されており、特命を受けた場合には運転取扱業務を担当する点も旅客掛と異なります。
なお運輸掛を配置する駅でも、小荷物掛、貨物掛については業務上必要とする場合、そのまま配置できるものとしました。

運輸掛については専用の腕章があったのか不明。
書籍や博物館の展示などで昔のローカル線の駅を撮影した写真を見る限り、黄色い腕章を付けた駅員の姿は確認できませんでしたね。





これは鉄道ファンの間でよく知られた話ですが、出札、改札、貨物取扱いなどの業務に従事するには登用試験の合格が必須条件でした。
そして駅長、助役の指揮を受け、営業担当の各事務掛職を指導するのが営業掛(分割民営化後の営業主任)という訳ですね。
一応、営業掛の職務内容も書いておきましょう。

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旅客掛、小荷物掛、貨物掛、配車掛、運輸掛及び警備掛の指導並びにこれらの者の業務(業務の分担を特に命ぜられた場合には、主としてその業務)の計画及び処理

出典:日本国有鉄道「鉄道公報 昭和37年8月17日総裁達363号」
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そんな事務掛職の登用試験ですが、実際に出題された問題が『運輸界』という雑誌に掲載されています。
この『運輸界』は今は無き中央書院が発行していた鉄道情報誌で、国立国会図書館の蔵書を見る限りでは少なくとも1948年1月~1993年6月の45年半に渡り出版されていたようです。
私の手元にある『運輸界』の1965年2月号(通巻:第18巻第2号/定価100円)には、東京鉄道管理局が1964年12月4日に施行した「掛職登用試験」の問題が掲載されており、その内容は旅客掛と配車掛の登用に関するものとなっています。
試験内容は常識、運輸、珠算の3科目により構成されており、常識と運輸は各50分、珠算は40分の回答時間が設定されています。

まずは常識の問題を見てみましょう。
内容は国鉄の組織に関する知識や職務内容、国語、算数などを問うものです。
問題の一部を下記に抜粋します。

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1 職制及び服務の基準に定める旅客掛、配車掛のおもな職務内容を述べなさい。
 (1) 旅客掛
 (2) 配車掛

2 東鉄で定めた旅客関係の重点的実行目標を列記しなさい。(11.12.1月分)

3 営業関係職員であって、接客業務に従事する者が心がけねばならないことを述べなさい。
(営業関係職員の職制及び服務の基準)

4 次について知ることを空欄に記入しなさい。
 (1)精勤乗車証
       平素勤務に精励であると認めた場合、次の区分により交付する。
          種   別          月間交付日数               分割交付できる回数
    (イ)在職6箇月以上の者      (        )            (       )
    (ロ)在職3年以上の者        (        )            (       )
    (ハ)在職10年以上の者       (        )            (       )
 (2)運賃用の職員家族旅客運賃料金割高証の交付枚数は、次による。
          種   別          年間交付日数 
    (イ)在職10年以上の者       (        )   
    (ロ)在職3年以上の者         (        )  
    (ハ)在職1年以上の者        (        ) 

・・・(以下略、第8問まで続く)・・・

出典:中央書院『運輸界 1965年2月号(第18巻第2号)』p.127
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続いて運輸の問題。
こちらは具体的な業務の知識を問う内容です。
先述したとおり配車掛の試験を兼ねているので、旅客掛に直接関わる問題のみ抜粋しましょう。

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1 旅客が普通乗車券を使用して旅行を開始した後、途中で任意に旅行を中止して前途の不乗区間に対し払いもどしの請求をするときはいかなる条件が必要ですか。

2 旅客の取扱いをする場合必要な規程類の名を一つずつ(二つ以上あるものはおもなもの)あげなさい。
 (1) 営業関係の規程類で
   イ 公示されたもの (                )
   ロ 総裁達のもの  (                )
   ハ 支社長達のもの (                )
 (2) 連絡運輸関係で公示されたもの (                 )
 (3) 帳表取扱関係で総裁達のもの (                 )

3 次の文は旅客及び荷物営業規則の抜萃であるが、(    )の中に適当な語句を記入しなさい。
 (1) キロ程を用いて運賃・料金を計算する場合の1キロメートル(    )の数は、1キロメートルに切り(    )る。(8条)
 (2) 期間を計算する場合は、その(    )は時間の長短にかかわらず(    )として計算する。(9条)
 (3) 列車等に乗車船する旅客は、その乗車船する(    )の客車又は船室に有効な(    )を購求し、これを(    )しなければならない。(13条)

4 往復乗車又は連続乗車する場合の普通旅客運賃は、どのように定められているか説明しなさい。

・・・(以下略、第7問まで続く)・・・

出典:中央書院『運輸界 1965年2月号(第18巻第2号)』p.125
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そして最後は珠算。
その名の通り算盤を使った計算問題ですね。
加減算10問、乗算20問、除算20問の計50問から成ります。
こちらについては省略させて頂きます。

では抜粋した問題の解答を見ていきましょう。
まずは常識から。

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1 次の通りである。
 (1) 旅客掛――①乗車券類の発売、受払及び保管 ②乗車券類の検査及び収集 ③旅客、荷主
   及び公衆の案内、駅構内の整理並びに遺失物の取扱い ④その他これらに附帯する業務
 (2) 配車掛――①列車の組成準備 ②旅客車及び貨物車の記帳 ③その他これらに附帯する業務
 <参考>(1)、(2)とも「営業関係職員の職制及び服務の基準」第7条に定められている。

2 次の通りである。
 (1) 増収対策を意欲的に推進する。
 (2) 通勤時における客扱いの万全を図る。
 (3) 年末・年始における旅客・荷物輸送の万全を図る。
 <参考>昭和39年10月31日付東鉄局報に営業部長通達として掲示されている局限りのものではある
       が、自局のこういった何々運動、何々旬間というものについては気を付けておかなければな
       らない。

3 次の点に心がけねばならない。
 (1) 服装の整正、容姿の清潔
 (2) 旅客及び荷主との応対に際しての言語及び態度
 (3) 業務処理の正確且つ迅速
 (4) サービスの向上
 <参考>根拠規程は設問にあるが、その第14条に定められている。解答は文章でだらだらと書くより
       は箇条書きにした方が見やすく、採点のとき有利である。

4 次のように記入する。
 (1) (イ) 10日 2回    (ロ) 15日 3回    (ハ) 20日 4回
 (2) (イ) 40枚    (ロ) 20枚    (ハ) 10枚
 <参考>(1)は鉄道乗車証規程第37条に定められている。交付日数は第1項に、分割交付回数は
         第7項によればよい。(2)は職員家族旅客運賃料金割引規程第16条第1項第1号に規程
         されている。

出典:中央書院『運輸界 1965年2月号(第18巻第2号)』p.126
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続いて運輸の解答です。

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1 次の条件が必要である。
 (1) 乗車券の発売日(前売の乗車券については、通用開始の日)から2日以内であること。
 (2) 前途の乗車船しない区間が、300キロメートルをこえる場合(乗車変更の取扱いをしたため300
   キロメートルをこえる場合を除く。)であること。
 <参考>旅規第274条第1項に定められている。

2 (1) イ 旅客及び荷物営業規則
     ロ 旅客及び荷物営業細則
     ハ 旅客営業補則
  (2) 連絡運輸規則
  (3) 運輸帳表取扱手続
 <参考>国鉄職員として知っておかなければならない常識的なもの。日ごろからよく注意しておくこ
       と。

3 (1) 未満、上げ   (2) 初日、1日   (3)等級、乗車券、所持
 <参考>設問に抽出条文が掲げられてはあるが、これも常識的なものですぐ書き込まれるようで
       なくてはいけない。

4 次のように定められている。
  (1) 往復乗車する場合の普通旅客運賃は、片道普通旅客運賃を2倍した額。
  (2) 連続乗車する場合の普通旅客運賃は、各区間ごとに計算した片道普通旅客運賃を合計した
    額。
  (3) 往復乗車又は連続乗車をする場合の割引の普通旅客運賃は、各区間ごとの割引の片道普通
    旅客運賃(割引の適用がない区間については、無割引の片道普通旅客運賃)を合計した額。
 <参考>旅規第90条に定められている。

出典:中央書院『運輸界 1965年2月号(第18巻第2号)』p.124
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実は同じ『運輸界 1965年2月号』には、米子鉄道管理局が1964年12月8日に施行した「運輸掛等試験」も掲載されています。
こちらは鉄道一般、旅客、貨物、運転の4科目からなり、各60分の解答時間が設定されています。
流石に小駅で一通りの業務を処理できるスキルが求められるだけに、旅客掛よりもボリュームのある試験問題です。
興味のある方は国立国会図書館で『運輸界』をお読み頂くか、古書店の在庫を探してみて下さい。





さて、黄色い旅客掛の腕章ですが着用期間は5年弱と短く、1967年3月を以って「旅客案内」と表示した橙色の腕章に更新されました。
文字も従来のフェルト貼り付けではなく、緑色の刺繍で表現するようになりました。
この腕章は旅客掛のみならず、主に大学生アルバイトで構成された旅客整理係学生班も着用しました。

庶務係 動車運転係 交通保安係 運転主任
営業管理係 輸送管理係 営業係 運転係 輸送係 運輸指導係 運輸係 構内係 構内指導係


新腕章の制定から6年後の1973年8月、駅を対象に大々的な職制改正が実施される事となりました。
この職制改正では「掛」を全て「係」に改めた上、旅客掛、小荷物掛、貨物掛、運輸掛と分かれていた営業担当駅員の職名を「営業係」に統一する、配車掛を営業から外して「輸送係」とし営業・輸送・運転の3本柱を構築するなど、業務の円滑化・体制強化が図られています。
ただし労使間で調整が難航したため、全駅一斉ではなく徐々に改正を進める事となり、最終的に1975年4月を以って新職名への移行が完了しました。
営業係の乗客担当は引き続き「旅客案内」の腕章を付け、ホームやコンコース等で旅客の接遇に当たりました。





最後に営業担当駅員の職名の変遷図を載せましょう。
管理職(駅長・助役)や運転取扱業務に従事する構内関係駅員(運転掛・操車掛・信号掛・構内作業掛など)、機械操作担当の駅員(重機掛・諸機掛など)、庶務掛は省略しました。
なお、逓信省令第37号により「鉄道係員職制」が制定された1900年8月から、駅を対象とした最後の職制改正が実施された1976年9月(昭和51年11月8日総裁達第22号)に至るまでの流れを示しています。


(文・写真:叡電デナ22@札幌市在住)


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最終更新日 : 2019-07-02

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