タタールのくにびき -蝦夷前鉄道趣味日誌-

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2017-12-02 (Sat) 22:10

苗穂工場で開催!車両ブレーキ講演会・現場見学に行く【1】



苗穂工場構内の北海道鉄道技術館を管理・運営するJR北海道文化財団は、ごく稀に同技術館においてJR北海道の現職社員を講師に招き、車両技術に関する講演会を開催しています。
この講演会は苗穂工場の現場見学とセットになっており、現場の検修員(車両係・車両技術係・車両技術主任・検修助役)が如何にして車両を保守し、日々の安全輸送を支えているか、深く知る事が出来る大変有意義なイベントです。
毎年9月に開催されている一般公開と同様、部外者が検修場に入場できる希少な機会でもあります。
ところがJR北海道文化財団は見学者の殺到による現場の混乱を忌避しているのか、広報活動は財団公式HPに小さく告知を載せ、北海道鉄道技術館でのポスター掲示(2週間前を目途に貼り出すらしい)に留めるのみ。
JR北海道の公式HPでは一切の告知が為されず、鉄道雑誌や新聞等に広告が打たれる事もありません。
故に講演会の存在そのものが全然認知されておらず、ブログやHPで話題に出す鉄道ファンもほとんど見当たらない状況です。
まあ、鉄道ファンでも財団の存在を知らない人が多く見受けられますし、HP上の短い告知では気付きようもないでしょうね・・・。

JR北海道 国鉄 函館本線 苗穂工場 工程管理科 部品科
JR北海道 国鉄 函館本線 苗穂駅


去る2017年11月25日には、「いがいと知らないブレーキの仕組み」と題した講演会が開催されました。
講演会の情報をキャッチしたのは、この2週間の技術館公開日。
2年前の夏場にも電車モーターに関する講演会に参加しましたが、やはり今回も参加しなければと鉄研関係者に連帯を呼びかけました。
参加者は計4名で、OB会員は私(叡電デナ22)だけ。
あとは現役生が3名で、鉄研会長を務める3年生のトワイライトエクスプレス君、1年生のキハ281君とE233SOBULINE君です。
本当はOBカトウさんも参加される予定だったのですが、当日に都合がつかなくなり断念。
代わりに道庁で開催されたパネル展「北海道の鉄道 過去、現在、未来」に、後で同行する事になりました。





鉄道技術館の玄関ホールにはパイプ椅子がズラリと並び、正面にパワーポイントを映写するプロジェクターとスクリーンが用意されていました。
D51形816号機の煙室扉の手前では、パワーポイントを操作するノートパソコンがスタンバイ。





予定通り13:40、講演会がスタート。
案の定、参加者はまばらで空席が目立ちます。
まずはJR北海道文化財団の事務局職員から挨拶があり、続けて苗穂工場の若手社員2名にバトンタッチ。
講師を務めるのは工程管理科の小野寺さん(右)と部品科の山中さん(左)で、お2人とも所属部門こそ異なるもののブレーキの検査・修理に関わる仕事をされています。

苗穂工場の組織体制は5科からなる計画科と3科からなる生産科に二分されており、実際に現場で検修を行うのは生産科です。
計画科には経理・資材管理・労務管理を担当する総務科、検修計画を立てて現場に指示を出し、各運転所との業務窓口を兼ねる工程管理科、札幌交通機械や札幌工営など外注先の工事管理や予備品管理・出場検査を担う品質管理科、車両開発・車両改造設計・性能試験を担う技術開発科、工場内に約1000台ある機械・器具の管理・修理計画を担う設備保全科が属しています。
小野寺さんは工程管理科の所属ですから、ブレーキを含めた各種部品の検修計画を策定する立場という訳ですね。
服装も現場で働く山中さんとは異なり、工務(保線・建築・電気)・駅輸送(操車・信号扱い)と同じ開襟タイプの作業服を着込んでおり、その内側にワイシャツとネクタイを着用しています。

一方、山中さんが所属する部品科は生産科に該当します。
生産科には車両の解体・組立てや台車の取り付け・取り外し、車体修繕などを担う組立科、組立科で取り外した台車や空気部品、電気部品、走行装置の検査・修理を担う部品科、ディーゼルエンジンやコンバータの修繕を担う内燃機科が属しています。
生産科は計画科の下部組織に当たり、計画科には幹部候補生の総合職が多数在籍しているそうです。
各科には管理職として科長が1名ずつ配置されていますが、本社・支社の課長と全く同じ読みなので音声だけ聴くとややこしいですね。
科長の下には中間管理職の助役も勤めています。





前半は工程管理科・小野寺さんが、鉄道車両のブレーキについて概要を解説していきます。
まずは自動車と鉄道車両のブレーキの違いを説明。
一般的な乗用車のブレーキは油圧を利用して作動します。
ブレーキペダルを踏むと、ブレーキブースターが踏み込む力を倍増させて、マスタシリンダから油を送ってブレーキピストンを起こします。
するとブレーキパッドがディスクに押し当てられ、ブレーキを作動させるのです。
マスタシリンダに貯蓄されている油はピストンに繋がるパイプを往復するため、基本的に給油をする必要はありません。

一方、鉄道車両のブレーキは油圧ではなく、空気圧を利用して作動します。
空気圧縮機で作られた空気は、「空気ダメ」と呼ばれる大きなタンクに貯蓄された後、空気配管や空制弁に送られていきます。
ブレーキをかける際はブレーキ弁の操作により、作動させたい分だけ空気ダメから空気を捨てる事になります。
空気圧が減ると制御弁が感知し、ブレーキシリンダを動かしてテコを制輪子(自動車で言うブレーキパッド)に押し当てる事によってブレーキがかかります。
配管やタンクの空気はブレーキをかける度に捨てているので、次第に空気圧が減っていき最終的にブレーキが作動しなくなる恐れがあります。
このような事象を防ぐため、空気圧縮機を頻繁に動かして空気を補充しなければなりません。





鉄道車両のブレーキは大まかに分けると4種類。
・空気ブレーキ
・電気ブレーキ
・機関ブレーキ
・留置ブレーキ

空気ブレーキは非常に高い圧力の空気を利用して、必要に応じブレーキシリンダに空気を送る事によって作動します。
この方式に当たるのは自動ブレーキ、直通ブレーキ、電気指令式ブレーキの3種類。
自動ブレーキは空気の圧力を捨てる事で作動するもので、逆に直通ブレーキは空気を配管へどんどん送り込む事で作動します。
電気指令式ブレーキは電気の力を使って、各空制弁に信号を送って作動する仕組みになっており、最近の車両はほとんどが電気指令式を採り入れています。

電気ブレーキはモーターを発電機として使用して得られた電力を、他で消費して作動するという方式で電車に搭載されています。
モーターは中の配線をスイッチで繋ぎ変えると、回転する力で発電する事が出来ます。
そこで得られた電力を抵抗器を通して熱として逃がすのが発電ブレーキです。
昭和時代に製造された抵抗制御車は発進・停止の度に発熱を繰り返し、それこそ東京・大阪の地下鉄では運行間隔の短さもあってトンネル内に熱風が吹きつけ、夏にとてつもなく暑くなるばかりか、冬ですら温かく感じるという状態が続いた時期がありました。
地下鉄車両の冷房化が地上の鉄道に比べて遅かったのは、冷房装置もまた発熱するため、抵抗器とのダブルパンチでトンネル内が更に暑くなる事が懸念されたからですね。
対して、抵抗器を使わず架線に電力を逃がす事で、走行中の他の電車がその電力を利用できるようにしたブレーキを回生ブレーキと言います。
回生ブレーキは消費電力の削減に効果があるほか、発電ブレーキが抱えていた発熱の問題を克服しています。

機関ブレーキはAT車が搭載しているようなエンジンブレーキを指し、エンジンの抵抗によって作動する方式です。
エンジンの回転数が上昇する事によって抵抗を生み出し、ブレーキがかかります。
この一種である排気ブレーキは排気管のマフラーに弁を設けて、排気を邪魔する事によって圧力を生み出し作動します。
排気ブレーキはトラックやバスにも使用されています。

留置ブレーキは自動車で言うサイドブレーキの事で、車両が勝手に動かないよう長時間の留置で使用します。
単に留置ブレーキと呼ぶ場合は、車両の床下にあるコックを扱う事でブレーキシリンダに空気を送る方式を指す事がありますが、人力でハンドルを回してワイヤーを引っ張り制輪子に押し当てる手ブレーキも留置ブレーキに該当します。





これらのうち空気ブレーキは更に種類があり、救援ブレーキ、耐雪ブレーキ、直通予備ブレーキの3種類が挙げられます。
救援ブレーキは主に電気指令式ブレーキを搭載している車両が装備しており、JR北海道では721系以降の運転台に左手操作式ワンハンドルマスコンを採り入れている車両が該当します。
電気指令式ブレーキは車両の電源が落ちると非常ブレーキがかかるようになっているのですが、苗穂工場では検査入場のために札幌運転所、苫小牧運転所、旭川運転所などから、電源を落とした車両が機関車や営業列車に牽引され回送されてくる事が度々あります。
そんな時に非常ブレーキがかかってしまうと牽引しようにも全く動じなくなってしまうので、車両を安全に運べるよう空気圧で動かすブレーキ(救援ブレーキ)を使って非常ブレーキが作動しないよう回送しているという訳です。

耐雪ブレーキは寒冷地の鉄道に無くてはならない装備。
冬場は車輪と制輪子の間に挟まった雪が走行中の寒気で急激に冷却され、氷の幕を作ってしまう事があります。
すると、かけたいブレーキ力を全く得る事ができず、停車すべき駅でオーバーランを起こすどころか、遮断機が下りていない踏切に進入するなど大きな事故に繋がる危険性を孕みます。
こうしたリスクの芽を摘むための機能が耐雪ブレーキで、運転台に設置されたスイッチを押すと常時軽くブレーキがかかった状態になり、車輪と制輪子の隙間を無くす事で着雪を防ぎます。

直通予備ブレーキは常用ブレーキ(普段使用しているブレーキ)が全く動作しなくなってしまった時に使用します。
専用のスイッチを押すとタンクから空気が一斉に送られて、非常のブレーキがかかります。





ブレーキ装置の設置例も紹介されました。

789系の場合は常用・非常ブレーキと救援用ブレーキ、2つの箱に分けて床下に設置しています。
こちらの常用・非常用ブレーキは電気指令式ブレーキで、電源を落として車両を移動させる際には救援用ブレーキを使う事になります。

キハ183系の場合、ブレーキの箱は1つだけです。
それは自動ブレーキを搭載しており、空気圧を抜く事でブレーキを自動でかける事が出来るから。
789系に例えると救援用ブレーキだけを搭載しているイメージで、1つの箱で全てのブレーキに相当する働きをします。





運転台のブレーキスイッチも見ていきましょう。
789系の場合、耐雪ブレーキのスイッチはコンソール右側に設置されています。





常用ブレーキが使用不能になった場合の奥の手、直通予備ブレーキは左端にあります。
ドアスイッチの上に設置されている車掌弁(非常ブレーキスイッチ)のような形状で、ツマミを引く事で直通予備ブレーキが作動します。





キハ183系の場合、直通予備ブレーキは右端に設置。
形状も789系とは大きく異なり、赤い押しボタンになっています。





耐雪ブレーキに至っては、そもそも運転台にスイッチがありません!
運転席の頭上に暖房や乗務員室灯などのスイッチと共に設置されています。
このように形式によってブレーキスイッチの設置場所が異なるため、運転士は各車両の特徴を粒さに覚えておかなくてはなりません。





序盤は一般的な鉄道車両のブレーキについて説明されましたが、ここからはJR北海道で使用している空気ブレーキに関するお話。
空気ブレーキは細かく分けるとかなりの種類があるそうですが、スライド上に書き切れなかったという事で代表的な9種類を紹介されました。
・純自動空気ブレーキ
・直通付自動空気ブレーキ
・電磁自動空気ブレーキ
・純直通空気ブレーキ
・電磁直通空気ブレーキ
・自動空気ブレーキ付き電磁直通空気ブレーキ
・アナログ指令方式
・デジタル指令方式
・制御伝送方式





そこから更に、JR北海道で実際に使用しているものを絞り込むと下記の5種類になります。
・純自動空気ブレーキ
・直通付自動空気ブレーキ
・電磁自動空気ブレーキ
・デジタル指令方式
・制御伝送方式


14系客車


純自動空気ブレーキは鉄道車両のブレーキとしては初期に開発されたもので、古い客車や貨車に使用されています。





直通付自動空気ブレーキは蒸気機関車・ディーゼル機関車に使用されています。
機関車を単体だけで走らせる時は、ブレーキ管を減圧させる方法ではなく、ブレーキ管に空気を送る直通型のブレーキを使用します。
一方、純自動空気ブレーキを搭載した貨車や客車を牽引する場合は直通ブレーキを使えないため、運転台の選択機能を操作し純自動空気ブレーキに切り替えます。
このように1両に2種類のブレーキが混在する方式を直通付自動空気ブレーキと言います。





電磁自動空気ブレーキはキハ40系、キハ54系、キハ143系、キハ150系、キハ183系、ノロッコ号用の510系客車が搭載しています。
自動空気ブレーキに電気的な機能を追加する事によって、編成全車両が一斉にブレーキをかけられるようになり、停止距離を短くするメリットがあります。







電気指令式空気ブレーキ(デジタル指令方式)は721系以降のJR世代に広く採用されているもの。
空気管の圧力を使わず、電気の指令を用いてブレーキを制御しています。
711系が引退して2年が経過した現在、JR北海道の交流電車は全てデジタル指令方式に統一されています。
気動車ではキハ281系で初めて採用され、以降はキハ261系に至るまで受け継がれています。
731系以降の車両の特徴である、ブレーキを緩めた時に鳴る「ヒューン」という音は、デジタル指令方式に使用している部品に起因する音なのだそうです。





電気指令式空気ブレーキ(制御伝送方式)は北海道新幹線H5系のみ搭載しています。
マスコンを動かした時のブレーキの指令を全てコンピュータに集約し、乗客に不快な乗り心地を与えないようコンピュータが最善のテクニックを演算してブレーキをかけるようになっています。


以上でブレーキの概要は終了。
ここからは更に技術的な内容に踏み込んでいきます。
続きは次回で。


※写真は全て2017年11月25日撮影


(文・写真:叡電デナ22@札幌市在住)


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最終更新日 : 2019-07-02

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