タタールのくにびき -蝦夷前鉄道趣味日誌-

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2017-03-06 (Mon) 19:37

北海道の路線バス業界で深刻な運転手不足


2015年8月22日、新札幌バスターミナルを出る夕鉄バスの日野ブルーリボン
同社は人手不足が災いし2014年より減便が続いている

JR北海道の経営悪化により、道内各地の鉄道路線が存廃の危機に立たされています。
不採算路線の沿線自治体に対しJR北海道はバス転換を打診していますが、ほとんどの自治体がNOを突きつけている状況です。
確かに国鉄末期~分割民営化直後は次々と鉄路が廃止され、それと引き換えに代替バスが運行を開始しました。
当時を引き合いに出して「バス転換するべき」とする向きもありますが、仮にバス転換するとしても道内バス事業者の大半は頭の痛い問題を抱えており、容易に事が進むとは思えません。
JR北海道の提案どおりにバス転換が為されたとしても、十分な本数が確保されるかは怪しいものです。

ではその問題とは何なのか?

JR北海道 国鉄 夕張鉄道 ダイヤ改正 神奈中 名鉄 近鉄 小田急 京急
JR北海道 国鉄 夕張鉄道 ダイヤ改正 神奈中 名鉄 近鉄 小田急 京急

2016年9月8日、遠軽バスターミナルを出る北海道北見バスの旧塗装エアロスターM
遠軽~紋別間の名寄本線代替バスを運行する同社も現在、運転手不足に苦しんでいる

ずばり、バス運転手の要員不足です。

昨今の国内バス業界では人手不足が深刻さを増しており、ここ10年で大型自動車第二種免許の保有者は112万人から101万人へと減少しています。
しかも、バス運転手の6人に1人は60歳以上で、40歳未満は全体の10%を下回るなど高齢化も進行。
特に現代は高齢化社会で、身近な交通手段として路線バスが見直されている訳ですが、少ない人員で運行しなければならない局面に立たされています。
そのため休日を減らして時間外勤務を増やすなど、健康リスクを伴う長時間労働がエスカレートしており、ますます若年層に敬遠されて人手が集まらない事態に。
全国的な傾向ではありますが、こと北海道に関しては顕著に表れています。
しかも本州のバス会社が北海道に来て採用活動を行う事も多く、道内事業者との人材の奪い合いが慢性化しています。
北海道新聞では毎週月曜の朝刊に求人情報を載せているのですが、バス業界では神奈川中央交通が常連と化しています。
求人広告を載せる道外勢力は関東に限らず、過去には三重交通や名鉄バス等も見られました。

JR北海道 国鉄 夕張鉄道 ダイヤ改正 神奈中 名鉄 近鉄 小田急 京急
JR北海道 国鉄 夕張鉄道 ダイヤ改正 神奈中 名鉄 近鉄 小田急 京急

2015年1月18日、夕鉄バス野幌営業所にて
初の運転手不足による減便は過疎地の夕張ではなく、
沿線にベッドタウンを抱える江別で実施された

私も道内のバス会社が人手不足に喘いでいる事を見聞きする中で実感していましたが、この問題について行政レベルで議論される機会があまり無く、違和感を覚えていました。
札幌近郊でも2014年9月、夕張鉄道(夕鉄バス)が江別地区において要員不足によるダイヤ改正を実施した事は記憶に新しいですね。
以来、夕鉄バスでは夕張地区・江別地区ともに減便が続けられており、2016年にはとうとう運転手が13名まで減ってしまいました。
運転手が極限まで減少している状況にも係らず、夕張市は「コンパクトシティ化を進める中での新交通体系の整備」にJR北海道が協力する事を条件に、石勝線新夕張~夕張間の廃止を容認してしまいました。
現状では代替バスの運行は厳しいと思うのですが、もちろん夕鉄バスには手厚い支援をするんですよね?

都市部でも実は身近なこの問題、遂に道庁が運転手確保に向けて対策に動き出しました。
今朝の道新で報じられたので、下記に記事を抜粋しましょう。

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路線バス 足りぬ運転手
新年度 解消へ道が専門家会議

 道は2017年度、人手不足が深刻な路線バスの運転手確保に向け、有識者によるワーキンググループ(WG)を設置する。道によると、バス運転手は長時間労働など待遇面で若年層らに敬遠されがちで、高齢化が進む。WGでは若者や女性の運転手育成に向けた対策を議論し、バス会社の協力を得てモデル事業も実施。地域の生活を支えるバス路線の維持を図る。
 路線バスの運転手は道内をはじめ全国で不足し、減便や路線廃止につながるケースもある。北海道運輸局が15年に道内のバス会社を対象に行ったアンケート(回収率54.6%)では、回答した160社のうち、58%が「運転手が足りない」と回答。運転手不足に伴い、49%が増車、増便できなかったことがあると答えた。
 運転手の年齢構成は20代が2%、30代が12%にとどまり、40代が33%、50代以上が53%と、高齢化が著しい。
 道は早ければ5月にも業界団体や専門家が参加するWGを設け、担い手不足解消のための方策を議論する。具体的には若者や女性が就職したいと思うような情報発信や採用のあり方などを検討する。
 その上で、路線バスの運行会社を対象に、WGでまとめた対策を実践するモデル事業を行う。費用は道が負担する。道は利用促進に関する別のWGも立ち上げる。沿線住民への聞き取り調査の結果を踏まえて対策を進め、事業を立て直した十勝バス(帯広市)などを参考に、バス会社の取り組みを支援する。
 道は17年度予算案に関連経費700万円を計上した。道交通政策局は「地域住民にとってバス路線は必要不可欠。運転手不足に歯止めをかけ、利用者を増やしたい」と説明する。

出典:北海道新聞 2017年3月6日(月)朝刊第5面 総合
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2015年8月6日、帯広市内かじのビル前付近にて
新米運転手の研修に使用される帯広230あ・116(初期の京急ワンステ)

記事で示されていますが、現状で若年層が極めて少ない事が分かりますね。
30代でも全体の12%なのに、20代に至っては2桁ですらない僅か2%。
北海道中央バスやジェイ・アール北海道バス(JHB)といった道内大手でも、若い運転手を見る事があまりないですね。
都市間バスさえ体力が衰えつつある年配の運転手が多く乗務しています。
それこそ、田舎では70近い運転手が珍しくないですね。
田舎よりも都市圏のバス会社の方が高待遇なものですから、運転手を志望する人材が道外に流れるケースも多々あると思います。
人材の定着率を高めるなら「就職したいと思うような情報発信」のみならず、可能な限り働きやすい職場を築き上げていく必要があるでしょう。
罷り間違っても宮城交通の悲劇を再現してはなりません。

また、道は戦略的営業で赤字経営からの逆転劇を成し遂げた十勝バス等のメソッドを参考にし、利用促進に向けて対策を練っていく方針です。
ここ数年の十勝バスはコンスタントに新車を増備しており、女性を含め運転手の入社も相次いでいるようですね。
地方のバス会社としては稀に見る活力あふれる企業ですから、同社から学ぶ点はさぞかし多い事でしょう。

既に道内では鉄道廃止代替バスからも路線の廃止が生じています。
鉄道・バス共に地域の公共交通を守るための議論を重ねる中で、どのような指針が示されていくのか。
動静を見守っていきたいものです。


《外部リンク》


(文・写真:叡電デナ22@札幌市在住)

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最終更新日 : 2019-07-02

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