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2023-11-22 (Wed) 20:21

【静態保存】紀州で唯一の路面電車 南海和歌山軌道線321形321号車

南海和歌山市内線321号車a01

和歌山県は和歌山市岡山丁3にある岡公園。
JR和歌山駅西口から約1.6km西南西、南海和歌山市駅から約1.3km南南東に離れたこの公園で、かつて和歌山市内を走った路面電車が静態保存されています。
塗装は白と水色のツートンカラーで爽やかな印象です。
この車両は南海電鉄が所有していた物で、同社の和歌山軌道線を走っていました。



南海和歌山市内線321号車a03

南海和歌山軌道線は海南線(和歌山市駅~海南駅前間13.4km)、新町線(公園前~国鉄和歌山駅前間1.6km)、和歌浦支店(和歌浦口~新和歌浦間1.1km)の3路線16.1kmからなる市内線でした。
そのルーツは1898年、和歌山市在住の赤城友次郎(-ともじろう)ら12名が取得した和歌山市駅~黒江町間の軌道敷設権にあります。
もっとも赤城氏らの活動は地方私鉄ブームへの便乗でしかなく、事業としての具体性は伴っていませんでした。

敷設計画が具体化するのは1905年11月28日、新興の電力会社だった和歌山水力電気㈱が権利を譲り受けてからです。
和歌山水力電気は自ら路面電車を運営する事で、発電事業の需要と供給を安定させようと画策したのです。
そして1909年1月23日、海南線県庁前~和歌浦間(4.1km)が満を持して開業。
次いで同年2月11日、市堀川に架かる京橋の完成によって海南線県庁前~和歌山市駅間(2.5km)が延伸開業しました。


南海電鉄 南海電気鉄道 JR西日本 阪和線 阪急 京阪 札幌市電 札幌市交通局 国鉄
南海和歌山市内線321号車a04

その後は順調に路線網を拡大していきます。
海南線では1909年11月23日に和歌浦~紀三井寺間(1.5km)、1911年11月8日に紀三井寺~琴ノ浦間(2km)、1912年4月18日に琴ノ浦~黒江間(0.8km)が立て続けに延伸。
1913年10月2日には出島線和歌浦口~新和歌浦間(1.1km/後の和歌浦支線)も開業しました。

1918年6月20日、海南線黒江~日方間(0.7km)が延伸開業しました。
それから4年後の1922年7月1日、京阪電気鉄道㈱が和歌山水力電気を吸収合併。
この買収劇を足掛かりに京阪電鉄は「和歌山支店」を開設し、和歌山県内への進出を果たしています。
海南線は1929年6月1日、日方~内海間(0.5km/内海は後の海南駅前)の延伸を以って全通となりました。


博物館 静態保存車両 京阪電鉄和歌山支店
南海和歌山市内線321号車a05

しかし和歌山支店は業績が振るわず1930年5月10日、京阪電鉄は合同電気㈱に和歌山支店の事業を譲渡し、和歌山県から撤退してしまいました。
当時開通したばかりの新京阪線(現:阪急京都線)の建設費用が嵩んでしまい、遠く離れた和歌山の軌道事業や電力事業まで面倒を見切れなくなった・・・というのが撤退の理由でした。
8年前の京阪進出を喜んだ和歌山市民は、この撤退に対し町を上げての反対運動を起こしたそうです。

再び電力会社の手に渡った和歌山軌道線は、1930年6月16日に新町線公園前~和歌山駅前間(1.6km)を開業。
これで3路線16.1kmの路線網が完成しました。
やがて合同電気も1937年3月31日付で東邦電力㈱に吸収合併され、同社和歌山支店が軌道線の経営を担う事となりました。
しかしそれも長くは続かず1940年11月1日、阪和電気鉄道㈱(現:JR阪和線)が東邦電力から軌道事業を買収。
同時に阪和電鉄の子会社として和歌山電気軌道㈱が発足し、軌道線の運営に当たりました。



南海和歌山市内線321号車a06

折りしも当時の日本は戦時下。
政府は1940年1月31日、国家総動員法第8条に基づき陸運統制令を公布していました。
すると全国各地で鉄道会社・バス会社の戦時統合が勃発したのです。
和歌山電軌の親会社である阪和電鉄も戦時統合の波に飲まれ、同年12月1日付で南海鉄道に吸収合併されました。
その南海も1944年6月1日に関西急行鉄道と合併し近畿日本鉄道に改組。
その度に和歌山電軌は親会社の変更を余儀なくされましたが、1944年12月に和歌山合同バス㈱・和歌山交通㈱・南海交通㈱の3社を買収してバス・タクシー事業に参入するなど企業体力を付けていきました。

終戦から1年後の1946年12月、近鉄は和歌山電軌の株式を手放しました。
すると和歌山電軌は初めて独立系の鉄道会社となり、自社単独で路面電車を運営するようになりました。
1957年11月1日には和歌山鉄道㈱を吸収合併し、鉄道線(現:和歌山電鐵貴志川線)の運営を開始。
紀州北部において公共交通機関の大部分を占め、1200名もの社員を抱える一大企業となりました。
この頃の和歌山市内では、10分間に9両もの路面電車が数珠繋ぎに走る光景も見られたそうです。



南海和歌山市内線321号車a07

もはや独占企業状態だった和歌山電軌に目を付けたのが、大手私鉄の南海電気鉄道です。
大阪~白浜間の直通バスを運行したり、観光船事業にも参入したりと南下政策を取った南海にとって、和歌山電軌は手強い商売敵だったのです。
ならばいっそ手中に収めようと画策し、1961年11月1日付で和歌山電軌を吸収合併するに至りました。

しかし時を同じくしてモータリゼーションが巻き起こり、南海和歌山軌道線は急転直下の大転落に追い込まれてしまいました。
総距離16.1kmのうち9.3kmが併用軌道で、ここを路面電車が数珠繋ぎで走るのでマイカー利用者から蛇蝎の如く嫌われたのです。
遂には「路上から電車を追い出せ」という過激的な意見が台頭し、やがて並走するバスに客を奪われるようにもなっていきました。
そして1971年1月10日に和歌浦口~海南駅前間が廃止。
残る区間も同年4月1日に全廃となり、紀州唯一の路面電車は62年の歴史に幕を下ろしました。

こうして見ると和歌山軌道線は和歌山水力電気→京阪電気鉄道→合同電気→東邦電力→和歌山電気軌道→南海電気鉄道・・・と歴代の経営元が6社に及んでおり、更に和歌山電軌も親会社が阪和電鉄→南海鉄道→近鉄と移り変わっています。
62年の歩みは目まぐるしい買収劇と共にあった訳で、これほどたらい回しにされた鉄道路線は他に無いのではないでしょうか?



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さて、岡公園で静態保存されているのは321形321号車です。
321形は営業末期の1963年、日立製作所笠戸工場で7両が製造されました。
定員80名(うち着席32名)、全長12,300mm、全幅2,270m、全高4,170mと和歌山軌道線にしては大型の車両です。
台車にコイルバネを採用しているため、乗り心地は良かったそうです。
和歌山軌道線の全廃後、南海電鉄が記念保存用に寄贈したいと和歌山市役所に申し出ており、以来53年間も岡公園に展示されています。
また、同形の322号車は海南市室山団地の児童公園(ちびっこ広場)で静態保存されています。



南海和歌山市内線321号車a09

和歌山軌道線の軌間は1,067mmなので、電車の横幅も同じ関西の阪堺電気軌道、大阪市電、京都市電、神戸市電などに比べてスリムです。
狭・広・狭の順に並んだ3枚窓の細面は、何処か札幌市電320形を彷彿とさせます。
形式名も似ていますよね。



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白と水色のツートンカラーに塗装された車体に対し、バンパーはトラ模様に塗装されており良いアクセントになっています。



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南海321形が札幌市電320形と決定的に違うのは、前照灯をオデコに2つ並べている点ですね。
方向幕は「和歌浦口」を示した状態です。



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真横から321号車を眺めた様子。
近代的な前中ドア配置で、側面窓はいわゆる「バス窓」としています。



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前ドアは2枚1組の片引き戸です。
左脇の窓はHゴムで固定しています。



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前ドアの右脇には検査表記を設置していますが、日付の印字は残っていません。



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中ドアは1枚引き戸です。
戸袋は左側に設けています。



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中ドア右手には車掌台を設けています。
ここの窓は左右の引き違い窓です。



南海和歌山市内線321号車a17

中ドアの左脇には翼の生えた車輪を模ったプレートが付いています。
これは南海電鉄の初代社章ですね。



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運転士側の窓は客席側と同じバス窓です。



南海和歌山市内線321号車a19

運転席の下には日立製作所の製造銘板が付いています。



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屋根上の集電装置はビューゲルやZパンタではなく、菱形パンタグラフです。



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321号車の傍に設置された解説板。



南海和歌山市内線321号車a21

別の解説板によると2010年10月20日、和歌山中央ライオンズクラブが321号車の塗装修復作業を実施した事が分かります。



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南海和歌山市内線321号車a23

現在の321号車は柵で囲まれており、しかも柵の内側が封鎖されているため、柵越しにしか撮影できないのが悩みどころでしたね。
それでも貴重な車両を間近に見られたのは嬉しい限り。



南海和歌山市内線321号車a24

岡公園にはもう1両、鉄道車両が静態保存されています。


※写真は全て2023年11月3日撮影
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最終更新日 : 2023-11-26

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