タタールのくにびき -蝦夷前鉄道趣味日誌-

現在、札学鉄研OB会ブログから筆者投稿の記事を移転中です

Top Page › 四国 › 長尾線農学部前駅 廃業した個人商店に残る「出札窓口」
2023-11-13 (Mon) 20:58

長尾線農学部前駅 廃業した個人商店に残る「出札窓口」

農学部前駅a01

香川県は木田郡三木町池戸2852-6にある、高松琴平電気鉄道の農学部前(のうがくぶまえ)駅。
その名のとおり香川大学三木町農学部キャンパス(旧:香川県立農科大学)の最寄駅で、約100m北に農学部の広大な敷地が広がっています。
構内には図書館、研究室、希少糖精算ステーション、環境調節実験家畜飼育室、RI実験室、体育館などの施設が集まります。

周辺は昔ながらの住宅街で、入り組んだ細い道路の沿線に古い民家が多く並びます。
駅から約180m南の長尾街道沿いにある「多田製麺所」は手打ちうどんの名店。
「朝うどん」を求めて8時からぞろぞろと客が来店します。
テイクアウトにも対応しており、うどん玉90円、出汁90円、そば玉100円というお手頃価格で販売中です。



農学部前駅a02

ここからは農学部前駅の大まかな歴史を辿っていきましょう。
1912年4月30日、長尾線の前身に当たる高松電気軌道㈱が出晴(現:瓦町駅志度線口付近)~長尾間を新規開業しました。
同社は高松電燈㈱の社長を務めた北村苟吉(-こうきち)が、交通の便が非常に悪い東讃地区の現状を憂い、「このままでは産業文化の開発は望めない」と決心し設立した私鉄です。
当時は東讃地区に鉄道を敷設する事を嘲笑う人が多かったそうですが、幸いにも高松市長・小田知周(-ともちか)の賛同や地元有力者達の協力を得られました。
そして新規開業に伴い農学部前駅も開設されましたが、当初は「田中道駅」という駅名でした。
田中道とは駅前を南北に走る小道の事で、2023年現在でも1車線分しか幅がありません。

*****************************************************************
 明治45年4月30日午前6時、沿線の人々が待ちに待った電車の営業運転が開始された。所要時間は56分であった。当時沿線の交通は、もっぱら馬車にたよっていたが、馬車の運行は日中だけ、しかも片道約2時間もかかっていたから、電車開通の喜びは非常なものであった。
 電車の営業時間は、初発午前6時、終便は午後9時まで、その間30分ごとの運転であった。停留所は、高松(出晴)、御坊川、木太西口、木太東口、元山、川島口、山崎、水田、西前田、東前田、高田、池戸、田中道、平木、妙徳寺、白山、井戸長尾口、長尾の19ヶ所で、運賃は1区3銭、他に通行税1銭を加算した。

《出典》
高松琴平電気鉄道株式会社社史編さん室(1970)『60年のあゆみ』(高松琴平電気鉄道)p.14
*****************************************************************


高松琴平電鉄 ことでん 琴電 京急 JR四国 高松電軌
農学部前駅a03

1937年7月7日、北京で盧溝橋事件が勃発。
ここに日中戦争の火蓋が切られ、政府は翌1938年4月1日に国家総動員法を公布しました。
戦時色が強まる1939年、琴電は毎年夏の恒例だった納涼大会を中止しています。

更に政府は1940年1月31日、国家総動員法第8条に基づき陸運統制令を公布。
すると全国各地で鉄道会社・バス会社の戦時統合が起こりました。
高松電気軌道も国策に従い1943年11月1日、琴平電鉄、讃岐電鉄の2社と合併して高松琴平電気鉄道㈱に生まれ変わっています。
もちろん田中道駅も新会社に引き継がれました。

*****************************************************************
 当時は軍需工場の勤務者や軍関係の乗客の増加によって、当社の運輸収入は飛躍的に増加し、経営状態は好転しつつあった。
 昭和16年4月以降は政府補助金の交付をうけなくても、年2分程度の配当金支払が可能となり、昭和18年4月期においては借入金を完済するに至ったのである。しかし一方戦局の進展によって、交通統制の国策に沿う企業統合が当局からいっそう強く要請されたため、香川県東部においては、琴平電鉄を主体として讃岐電鉄、高松電気軌道の3社を統合して、新たに高松琴平電気鉄道株式会社を設立することとなり、同年10月12日千代田生命ビルで、当時の株主636名中354名が出席して、臨時株主総会を開催し、新会社の設立発起人となることならびに当社の運輸事業と、その付属財産を現物出資することに関する誓約書承認の件を決議した。

《出典》
高松琴平電気鉄道株式会社社史編さん室(1970)『60年のあゆみ』(高松琴平電気鉄道)p.90
*****************************************************************



農学部前駅a30

1950年4月10日、田中道駅は「農大前駅」に改称しました。
実を言うと池戸では長尾線の開通より9年前、1903年4月5日に「木田郡立乙種農学校」が開校していました。
この農学校は戦前の3度に渡る改称を経て、1947年9月1日付で専門学校令に則った「香川県立農業専門学校」に改組。
更に大学の設置認可を受け、1950年4月1日付で「香川県立農科大学」に生まれ変わりました。
もとい田中道駅は農学生の利用が多く、こうした動向に従い琴電も駅名を改めたという訳です。

その後、香川県内では農科大学を香川大学に統合しようという運動が起こりました。
これは県立大学であるために研究費等で不利を被っていたためだそうです。
そして1955年7月10日、「国立学校設置法の一部を改正する法律(昭和30年法律第44号)」により現在の「香川大学農学部」が発足しました。
以降3年がかりで香川県立農科大学の国立移管を進めていき、1958年3月を以って編入が完了しました。
琴電も完全移管1ヶ月前の1958年2月1日、農大前駅を「農学部前駅」に改称し現在に至ります。



農学部前駅a05

農学部前駅a06

旧駅名の由来となった田中道は線路を横断し南北に伸びています。



農学部前駅a10

踏切の名称は「田中道踏切」。
こんな所に旧駅名の面影が残っています。



農学部前駅a04

駅構内北側には駐輪場と送迎用駐車場を兼ねたスペースを設けています。


簡易委託駅 委託販売所 出札窓口
農学部前駅a07

田中道踏切の北側には、一目で廃業した個人商店と分かる民家があります。
店の少ない田舎でもなかなか見ない組み合わせですが、「クリーニング」がひときわ大きく書かれていたので本業はクリーニング屋だったようです。



農学部前駅a08

旧店舗の線路側には出札窓口が残っています。
植村商店は委託販売所として乗車券類を販売していたのです。
駅前の個人商店に出札を委託した「簡易委託駅」は数あれど、植村商店のように専用の出札窓口を設けたケースは珍しいんじゃないでしょうか?



農学部前駅a09

琴電は20年ほど前に農学部前駅での簡易委託契約を終了したらしく、それから暫くして植村商店も廃業したようです。
出札窓口は板で塞ぎ、頭上の運賃表や「電車きっぷ・回数券発売所」の表札も撤去しています。
現在の農学部前駅は完全無人駅で、現在は鉄道事業本部運輸サービス部運転営業所が管轄しています。

*****************************************************************
 農学部前駅は、文字どおり香川大学農学部のある駅である。さすがに学生の乗降が多い。外国人留学生の姿もよく見かける。
 ここも、ホーム1本だけのシンプルな駅だ。表側の踏切横のクリーニング屋さんには、回数券売り場もあったはずだけれど、今は閉鎖されている。
 ホームからは、もう次の平木駅が見えている。電車は加速するや、すぐ減速に入る。

《出典》
大島一朗(2006)『ことでん長尾線のレトロ電車 写真と音でつづる「つわもの」80年の歴史』(JTBパブリッシング)p.46
*****************************************************************



農学部前駅a11

閉鎖された委託窓口を横目に入線する1200形1255F(元京急700形)。



農学部前駅a12

旧委託窓口の真向かいには、プラットホームに上がる階段があります。



農学部前駅a13

農学部前駅a14

農学部前駅a15

農学部前駅a16

単式ホーム1面1線。
開業以来の棒線駅で、全長は18m車2両分ほどです。
西半分は盛り土式、東半分は桁式となっており、どうやら東半分は後年に増築したスペースのようです。


待合室 待合所 駅舎
農学部前駅a17

農学部前駅a18

ホーム西端には旅客上屋を設けています。
波トタン板を張った古強者です。



農学部前駅a19

委託窓口の廃止と引き換えに、旅客上屋の軒下には自動券売機を設置しています。



農学部前駅a29

ICカードリーダーは入場・出場の2台を一列に並べており、出場の方に集札箱を併設しています。



農学部前駅a20

上屋の隅っこには棚が一つ。
ふと壁を見ると「いつもきれいなお花をありがとうございます」との貼り紙がある事から、この棚に近隣住民が生花を飾っていたようです。
2023年現在はもぬけの殻となってしまい寂しい限り。



農学部前駅a21

農学部前駅a22

かがわ自動車学校や不動産のハーモネート四国㈱など、農学部の大学生をターゲットにした広告看板が目立ちます。



農学部前駅a23

農学部前駅a24

上屋の東隣には、これまた古ぼけたトイレがあります。



農学部前駅a26

農学部前駅a25

ホーム中間には畑と繋がった出入口があります。
農家が琴電に乗る際に使っているようです。



農学部前駅a28

単式ホームに入線する1300形1303F(元京急700形)。



農学部前駅a27

ホーム上の駅名標。


※写真は全て2023年5月7日撮影
スポンサーサイト



最終更新日 : 2023-11-15

Comment







管理者にだけ表示を許可