引き続き2023年9月9日、4年ぶりに開催された苗穂工場一般公開のイベント「工場ツアー」の模様を見ていきましょう。
既に書いたとおり工場ツアーは午前6回・午後2回の計8枠があり、小学4年生未満は参加不可、各回先着25名の定員制を設けています。
私は11:20開始の第4回ツアーに参加する事が出来ました。
ツアーガイドを務めるのは、苗穂工場において車両の検査計画・改造計画を策定する「工程管理科」の助役さんです。
開始時の自己紹介で特に言及しなかったため担務指定は不明ですが、科内の業務分担を鑑みるに「企画助役」「工程助役」「修車助役」の何れかだろうと思われます。
我々25名は助役さんの先導に従い、立入制限エリアの「第1部品検修場」に入館しました。
館内の「連結器作業場」で連結器を撮影した後、我々は検修場の奥へと移動。
そろそろ6年前に見学した「空制弁試験室」だな・・・と思いきや、助役さんが手前のT字路を右折し出口へと向かっていきます。
再訪できないのは少し残念ですが、見学ルートを逸れる訳にはいかないので私も屋外に繰り出しました。
T字路には「目くばり 気配り ゼロ災職場」との懸垂幕を掲げています。
JR北海道 国鉄 JR貨物苗穂車両所 苗穂駅 函館本線 千歳線
外に出たら1番線の構内踏切を横断します。
それにしてもこの眺め、懐かしいですね・・・。
実を言うと2009年まで苗穂工場の一般公開は、隣接する苗穂運転所と合同で開催していました。
この構内踏切から西に行くと苗穂工場の南門(第二門)があり、苗穂駅や苗穂運転所と繋がる社員用の跨線橋を設けていたのですが、一般公開中は見学者も跨線橋を渡って駅・運転所・工場を行き来する事が出来ました。
しかし2010年には工場と運転所の一般公開が別日程となり、工場の公開日は跨線橋を閉鎖するようになってしまいました。
気付けば苗穂運転所も一般公開をしなくなり、2018年11月17日には苗穂駅の移転に伴い第二門も廃止。
そんな訳で久々の景色に感無量でした。
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少々あっけないですが、ここで第1部品検修場とはお別れ。
助役さんに促されるまま線路向かいの建屋へと移ります。
ここは組立科が所管する「第3旅客車検修場」ですが、部品科も一部検修業務のため使用しています。
国鉄時代の「客貨車職場」に由来する作業場です。
館内の通路には「通路の一時使用を許可する 部品科長」との標識を立てていました。
工場ツアーの開催に伴い設置した物でしょう。
通路の頭上には「Safety First 意識を持って、先取りの取組みを」と書かれた看板があります。
看板の右端に車輪から2本足が生えたような絵を描いていますが、どういう意図でデザインしたのかよく分かりません。
「地に足つけた作業をしよう」という事なんでしょうか?
でも分割民営化当初、今は無き鉄工科が「事業開発」の一環として鋳造・販売したガーデニングフェンスに似ているような気がしますね。
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館内東側には車輪や台車枠、組立後の台車などがズラリと並びます。
車両の解体・艤装は組立科の受け持ちですが、各種部品の分解・組立については部品科で実施しています。
ただしディーゼルエンジンについては特殊で、解体・洗浄を札幌交通機械㈱に委託し、組立を内燃機科の直轄作業としています。
館内西側は7本の線路(2~8番線)を敷き、気動車や交流電車の検修に供しています。
H100形 789系1000番台
7・8番線の辺りで助役さんが立ち止まり、第3旅客車検修場の解説を始めました。
ここでは車両の電気配線や室内に係る工事、床下部品の取付・検査といった作業をしています。
どちらかと言えば定期検査よりも改造工事がメインだといい、車両の設計や性能試験等を所管する技術開発科も館内作業に関わっているそうです。
8番線のクハ789-1007は「重要機器取替工事」という名目で、床下の大型部品や室内の座席といった主要部品のリフレッシュをしている最中でした。
床下部品の取付を行なう都合上、第3旅客車検修場にも車両の持ち上げが可能な天井クレーンを備えています。
他にも屋根上の電気配線工事に使用する高所作業車、室内作業時の出入りに使う移動式作業台を完備しています。
H100形
7番線のH100-20は連結器に「工場ツアー記念」の特製プラカードを載せていました。
733系0番台 733系基本番台
ここで6分間の撮影会が設定されたので、行動可能な範囲で色々と撮影。
ズラリと並ぶ車輪と安全啓発看板、5番線のクハ733-107を一緒に収めてみました。
5番線は7番線の隣にある訳ですが、これも前回記事の「旅客車検修整備室」と同様、中間の6番線が建屋の手前で途切れているのです。
撮影会が終わると移動を再開。
北側の出口へと向かいます。
北口の通路脇にはギアボックスなど駆動装置関連の部品置き場と・・・
・・・まるで隔離されたかのような9番線の作業場があります。
ここでは屋根回りの検修を行なっており、札幌交通機械㈱の社員達が働いていました。
札幌交通機械はJR北海道の子会社で、苗穂工場の一部業務や機械設備(自動券売機・自動改札機・冷暖房・ボイラー他)のメンテナンス等を受託しています。
公式の略称は「SKK」。
JR北海道の検修員はチャコールグレーの制服を着用しますが、SKKの検修員は群青色の制服を着用するので簡単に見分けられます。
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第3旅客車検修場の北側に出ると、助役さんの先導で西へと歩いていきます。
当然ここもツアー参加者以外は立入禁止のエリア。
まるで最奥部に来たかのようなムードですが、苗穂駅から見ると寧ろ手前です。
721系
苗穂駅自由通路から見えるくらいの位置で止まりました。
写真奥には総務科が所管する「間材倉庫」が見えますね。
すると助役さんが傍の建屋を指差し「こちらはツアーの最初に見た旅客車検修整備室です」と説明を始めました。
落成検査を終えた車両は、この出口から1番線へと移動し構内試運転を開始するのです。
構内試運転で合格すれば最終段階の本線試運転となり、それもパスすれば晴れて運用に復帰できる訳ですね。
軽く説明を終えると来た道を戻ります。
他の建屋には移らず元の鞘へ。
第3旅客車検修場の表札も忘れず撮影します。
北口通路を進んで検修場内に入ります。
8番線を横断すると左折して館内東側へ。
細い通路の左右には車輪や駆動装置の部品に加え、各種検修設備が所狭しと並びます。
助役さんの向かう先は部品科が所管する「輪軸作業場」。
ここには「車輪削正」に使う巨大な旋盤があります。
鉄道の車輪は当然ながら鉄製なので、長時間に渡ってレール上を走行すると、レールや制輪子との摩擦が生じます。
この力が加わったまま走り続けると、車輪の表面が減って歪んだり、亀裂が生じる事があります。
また、降雨・降雪の中で走行すると錆びてしまう事もあります。
車輪に歪み・損傷があると走行中の揺れが大きくなり、安全・乗り心地の両面で不安を抱える事になります。
かといって車輪を作り直すには大掛かりな設備と手間が必要なので、劣化した車輪を正常な状態に削る作業を行なう訳ですね。
こちらが車輪旋盤の操作盤。
コンピューター制御の「NC旋盤」で、コンマ以下の精度で車輪を削正します。
車輪旋盤の外板には「この装置を故障させたら長期間、営業列車が止まるぞ!」との警告文を貼っています。
それだけ強い緊張感を持って、オペレーターは車輪削正に当たっています。
なお、車輪削正の前工程として「探傷検査」というものがあります。
書いて字の如く車輪の傷を探す検査ですね。
磁石と電気によって磁化した車輪に「探傷液」という薬液を垂らし、ブラックライトを当てると目視確認できないような細かな傷も蛍光色で浮き上がるのです。
探傷検査で問題が無ければ、旋盤で車輪の踏面(レールと接する部分)を削ります。
車輪削正・探傷検査ともに実作業は札幌交通機械㈱に委託しています。
当たり前ではありますが削正を続けると、車輪は徐々に小さくなっていきます。
助役さんによるとこの日、車輪旋盤の前に置かれていたH100形の車輪だと新品で直径860mm。
削正を繰り返した場合の使用限度は直径774mmだといいます。
つまり774mmまで小さくなったら、新品の車輪に交換せざるを得なくなる訳ですね。
車輪削正は札幌運転所でも実施しており、そちらは子会社の北海道ジェイ・アール運輸サポート㈱手稲事業所に実作業を委託しています。
札幌運転所では車両の解体・艤装が出来ないため、車両を直接進入させるタイプの旋盤(在姿車輪旋盤)を使用しています。
よく鉄道ファンの間で車輪削正の実施に伴う回送を「フライス回送」と言いますが、実際に使っているのはフライス盤ではなく旋盤です。
フライス盤は回転する刃物で加工物を切削する機械ですが、車輪削正に使う旋盤は回転する加工物を固定した刃物に当てて切削する機械ですから、そもそもの原理が異なります。
くれぐれも誤解の無きように!
「旋盤回送」と呼ぶならまだしも・・・。
鉄道趣味の世界では、しばしば言葉の意味を履き違えて使う人が見受けられますね。
京急や都営地下鉄、札幌市営地下鉄などでやっていたような、車掌が乗務員室扉を開け放ったまま行なう列車監視も「箱乗り」と呼ぶ人が多いですし。
本来の箱乗りは「車両の窓枠に腰を掛け、開いた窓から上半身を大きく乗り出す行為」なのですが。
今回は削正予定の車輪が無いため、残念ながら作業の実演はありませんでした。
解説が終わると台車検修場前の受付に戻り、11:50に解散となりました。
※写真は全て2023年9月9日撮影
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最終更新日 : 2023-09-27