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2023-04-28 (Fri) 22:51

JR北海道が青森県に置いた職場 青函トンネル工務所今別管理室

青函トンネル工務所今別管理室a01

青森県は東津軽郡今別町大字今別字中沢。
津軽線今別駅から南へ徒歩6分、国道280号線を横断した先に「楽しい旅はJRで JR北海道」との看板を掲げた建物があります。
すぐ傍を通る県道14号線(津軽中山ライン)には三内丸山遺跡、シジミで有名な十三湖までの距離を示す看板が立っており、なかなかに奇妙な光景です。



青函トンネル工務所今別管理室a02

この建物はかつて「青函トンネル工務所今別管理室」が入居していました。
青函トンネル工務所は保線・機械・電気の各職場を一まとめにしたJR初の「工務所」で、津軽海峡線の全区間に渡り各種施設・設備の保守管理を担いました。
その配下には出先機関として木古内管理室・吉岡管理室・今別管理室の3ヶ所を構え、このうち今別管理室は海峡線の開業当初、JR北海道が青森県内に設置した唯一の職場だったのです。


JR北海道 国鉄 JR貨物 JR東日本 津軽海峡線 津軽線 北海道新幹線 江差線 車両基地
青函トンネル工務所今別管理室a03

青函トンネル工務所の原点は、1942年11月1日に開設された「木古内保線区」です。
木古内保線区は江差線、松前線において線路・土木構造物・鉄道林の保守管理を担当しました。

1960年代には国鉄施設局が「軌道保守近代化」に乗り出し、これまでの人力に依存した随時修繕方式から、保線機械を活用した定期修繕方式への転換を推進しました。
これを受けて木古内保線区も下部組織の線路分区を改組して1967年2月15日に「木古内保線支区」(後の木古内第一保線支区)、同年11月1日に「木古内第二保線支区」、1969年12月5日に「五稜郭保線支区」を設けています。

一方、青函トンネルを巡っては1971年9月27日、海峡線の工事実施計画が認可され、同年11月15日に松前郡福島町吉岡で起工式が執り行われました。
それから海底への鉄道敷設に向けた工事が進み、1985年3月10日には青函トンネルの本坑が全貫通しました。
分割民営化後の1987年5月12日には「青函トンネル準備工務区」が発足し、同工務区は同年8月15日に吉岡派出所と今別派出所を設置。
更に10月15日には木古内保線区の廃止と引き換えに、青函トンネル工務区が本格始動しています。
ちなみに松前線が廃止されたのは1988年2月1日なので、それより3ヵ月半も早く木古内保線区が消滅した事になりますね。



JR北海道函館支社組織図(2002年)a01
北海道旅客鉄道株式会社函館支社(2003)
『函館―渡島大野間鉄道開通100周年記念 道南鉄道100年史 遥』
p.179より引用

そして1988年3月13日、満を持して海峡線が開業。
青函トンネル工務区は施設・電気の各業務を統合したJRグループ初の「工務区」として注目を集め、その後はJR東海やJR東日本も工務区の開設に乗り出しました。

JR北海道は1990年3月12日、現業機関の組織単位である「区」を全て「所」に改称・統一しました。
この施策で車掌区は「車掌所」、運転区は「運転所」、保線区は「保線所」、営林区は「営林所」、建築区は「建築所」、機械区は「機械所」、電気区は「電気所」・・・と一斉に改称しています。
もちろん青函トンネル工務区も右ならえで「青函トンネル工務所」に改称しました。

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分会長奮戦記PART21 何事にも一生懸命
青函トンネル工務所・今別管理室分会 盛 慎一分会長(42歳)

 津軽海峡先端の竜飛岬から車で南下すること30分。JR北海道では最南端職場でもある「青函トンネル工務所・今別管理室」がある。交通手段はJR東日本の津軽線を利用することになるが、天気の良い日は竜飛岬から北海道を望むことができ、自然に恵まれ環境はバツグン。
 今別管理室の社員数は24名。(JR労組19名、国労3名、鉄産労2名)去年の12月には鉄産労から1名加入し組織拡大も順調に推移している。
 分会長の名前はなんと「もりしんいち」。歌手の森進一と読み方は同じだが「盛慎一」と書く。髪は短く刈り、スーダラ節がとても上手な42歳である。
 盛分会長に分会の特徴点を尋ねると「JR北海道で最初の工務所として発足した。保線電気という職種の違う人が同じ詰所におり気を使う点もあるが、職種の違いによって教えられることもあり、いろいろ話し合いながら運動を進めています」と話してくれた。どうやらこの「話し合いながら」が盛分会長のモットーであるらしい。
 職場の問題に話が移ると「ここは道内と違い簡単に他の職場と行き来ができない。寮の新設や別居手当支給範囲の拡大、トンネル内手当の増額など早急に解決してほしい」と語ってくれた。また、環境問題では「会社も応援してくれていますがまだまだですね。一層改善の努力をして今別をさらに良くしていきたい」と真剣。
 盛分会長は国鉄入社以来、八雲・木古内・函館、そして今別と保線職場を歩んできた。出身は青森県青森市。現在も両親と奥さん、そして娘さん2人が青森市に住み、今別へは単身赴任の身。
 何事にも一生懸命で職場のまとめ役でもある盛分会長。最後に「何でも言える明るい職場づくりにがんばります」と気合をみなぎらせていた。(函館地本・桜井教宣部長発)

《出典》
北海道旅客鉄道労働組合『JR北海道労組新聞』1991年3月15日付、第6面
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JR北海道・工務所の職制a02
JR北海道が定めた「工務所」の職制
1997年7月14日にエキスパート職を追加した
北海道旅客鉄道株式会社(2005)『就業規則集』平成17年7月版、p.p.36,37より引用

さて、先述したとおり青函トンネル工務所は保線・機械・電気の各系統を集約した現業機関です。
具体的には海峡線・江差線における線路、土木構造物、鉄道林、機械設備、電力設備、信号設備、通信設備の保守管理を一手に引き受けています。
ただし業務の融合化には至っておらず、線路・土木・営林は施設職(施設技術主任・施設技術係・施設係)、機械設備は機械職(機械技術主任・機械技術係・機械係)、電力・信号・通信は電気職(電気技術主任・電気技術係・電気係)に振り分けています。
なお、青函トンネル工務所が管理する機械設備とは、トンネル内で使用している消火設備、避難誘導設備(ケーブルカーを含む)、列車火災検知装置、換気排煙設備、排水設備、地震検知装置、気象監視装置、情報連絡装置を指しています。
職制で規定された各職名の職務内容は以下の通りです。

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【所長】
所業務全般の管理及び運営

【助役】
所長の補佐又は代理

【チーフリーダー】
認定された業務における主任の職務及びリーダーの指導並びに技術継承のための指導育成
その他上長の指示する業務

【リーダー】
認定された業務における主任の職務及び技術継承のための指導育成
その他上長の指示する業務

【技師】
認定された業務における主任の職務及び技師補の指導並びに技術継承のための指導育成
その他上長の指示する業務

【技師補】
認定された業務における主任の職務及び技術継承のための指導育成
その他上長の指示する業務

【事務主任】
事務係の業務及び指導並びにその計画・調整業務
その他上長の指示する業務

【事務係】
庶務、経理、資材及び契約に関する業務
その他上長の指示する業務

【施設技術主任】
施設技術係、施設係の業務及び指導並びにその計画・調整業務
その他上長の指示する業務

【機械技術主任】
機械技術係、機械係の業務及び指導並びにその計画・調整業務
その他上長の指示する業務

【電気技術主任】
電気技術係、電気係の業務及び指導並びにその計画・調整業務
その他上長の指示する業務

【施設技術係】
施設係の業務及び指導
その他上長の指示する業務

【機械技術係】
機械係の業務及び指導
その他上長の指示する業務

【電気技術係】
電気係の業務及び指導
その他上長の指示する業務

【施設係】
線路・構造物の保守、用地の管理及び工事施行に関する業務並びにこれらに附帯する業務
その他上長の指示する業務

【機械係】
機械設備の保守及び工事施行に関する業務並びにこれらに附帯する業務
その他上長の指示する業務

【電気係】
電気設備の保守、工事施行に関する業務及び指令業務並びにこれらに附帯する業務
その他上長の指示する業務

《出典》
北海道旅客鉄道株式会社(2005)『就業規則集』平成17年7月版、p.p.36,37
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青函トンネル工務所今別管理室a04

1990年10月1日からは道内各地に工務所が相次ぎ登場しています。
ただし青函トンネル工務所とは異なり、これらは在来の保線所と電気所を統合したものであって、機械設備の保守管理は管轄外でした。

1991年3月16日には盛岡~函館間を結ぶ特急「はつかり」が、青函トンネル内で140km/h運転を開始。
これに伴う軌道改良工事も青函トンネル工務所が担当したそうです。

2005年4月27日には北海道新幹線新青森~新函館(現:新函館北斗)間の工事実施計画が認可されました。
それから10年後の2015年3月1日、JR北海道は「函館新幹線準備工務所」と「函館新幹線準備電気所」を開設。
青函トンネルの開通以来、保線・機械・電気の3系統を一まとめにした体制が続きましたが、ここに来て電気が分離される事となりました。

8ヶ月の準備期間を経て、2015年11月2日には「函館新幹線工務所」と「函館新幹線電気所」が発足。
在来の青函トンネル工務所は2016年3月26日、北海道新幹線の開業と引き換えに廃止されました。
今別管理室も同日付で廃止となり、その業務は奥津軽いまべつ駅の傍に置かれた「函館新幹線工務所奥津軽管理室」「函館新幹線電気所奥津軽派出所」に引き継がれています。
このうち奥津軽管理室は海峡線・北海道新幹線新青森~竜飛定点付近において、線路・土木構造物・機械設備の保守管理に当たっています。



青函トンネル工務所今別管理室a05

廃止から7年が経った今別管理室ですが、施設は往年の姿を保ち続けています。
1階西側には社用車を格納する車庫があり、如何にも保線・電気関係の詰所といった趣きです。



青函トンネル工務所今別管理室a06

1階東側には2つの玄関を設けています。
このうち右の玄関ドアは窓が無く、どうやら中は機器室になっているようです。



青函トンネル工務所今別管理室a07

左の玄関はドアに窓が付いています。



青函トンネル工務所今別管理室a08

ドアの上には建物財産標が付いています。
これを見ると建物としての名称は「詰所1号」で、1987年7月27日の竣工だと分かります。
なお、青函トンネル工務所今別管理室の前身に当たる「青函トンネル準備工務区今別派出所」は1987年8月15日の開設です。



青函トンネル工務所今別管理室a09

玄関の左脇には・・・



青函トンネル工務所今別管理室a10

・・・JR北海道の貸付財産票が貼り出されています。
旧今別管理室は2022年5月1日から保線作業用の「器具庫」として、請負業者の北海道軌道施設工業㈱函館新幹線支店今別出張所に貸し付けています。



青函トンネル工務所今別管理室a11

旧今別管理室の裏側を眺めた様子。



青函トンネル工務所今別管理室a12

青函トンネル工務所今別管理室a13

詰所の東隣には車庫が1棟。



青函トンネル工務所今別管理室a14

JR北海道の社宅もあります。



青函トンネル工務所今別管理室a15

青函トンネル工務所今別管理室a16

倉庫に付いた建物財産標を見ると、社宅は少なくとも1988年3月19日に落成した事が窺えます。



青函トンネル工務所今別管理室a17

現地に建った社宅は1棟のみ。
2階建てのコンクリート建築で、正面に2ヶ所の玄関を設けています。



青函トンネル工務所今別管理室a18

青函トンネル工務所今別管理室a19

しかしよく見るとドアの無い箇所にも、玄関と同じ形状の庇が付いています。
その数は4枚。
どうやら当初は合計6ヶ所の玄関を設けており、このうち4ヶ所を封鎖して現在の姿になったようです。



青函トンネル工務所今別管理室a20

「部外者入室禁止」の注意書きを貼った玄関。



青函トンネル工務所今別管理室a21

玄関脇には「北海道旅客鉄道株式会社 荒馬寮」との表札を掲げています。
荒馬は「あらま」と読み、今別に古くから伝わる祭りが寮名の由来だと考えられます。
毎年8月上旬に開催される荒馬まつりでは、馬役の男性と手綱取りの女性がペアを組んで荒々しく跳ね回り、田の神に感謝を表します。



青函トンネル工務所今別管理室a23

ベランダの柵には鮮やかな杏色の板を張っています。



青函トンネル工務所今別管理室a22

荒馬寮の開設当初、今別町内に所在するJR北海道の職場は青函トンネル工務所今別管理室だけでした。
海峡線津軽今別駅は一貫して無人駅で、駅員が配置された事はありません。
それが北海道新幹線の開業後は、今別町内に奥津軽いまべつ駅、函館新幹線工務所奥津軽管理室、函館新幹線電気所奥津軽派出所・・・と実に3ヶ所もの職場が揃いました。
荒馬寮も引き続き社宅として機能していますが、それでも3ヶ所もの現業機関の社員を集めるには明らかに手狭。
流石にJR北海道も社宅を増やすか、或いは一般のアパートを借上げる等の対応をしているでしょうね。



青函トンネル工務所今別管理室a24

そういえば荒馬寮の駐車場には真っ青なダブルキャブトラックが停まっていました。
これは北海道軌道施設工業の社用車ですが、もしかして荒馬寮には軌道会社の社員も住んでいるのでしょうか?



青函トンネル工務所今別管理室a25

旧今別管理室や荒馬寮の周囲には給水管埋設標が立っています。
担当区名として表示した「函館建築区」の名にも時代を感じますね。
函館建築区は駅舎・車庫・詰所・社宅など各種建築物の保守管理を手がけた現業機関で、1990年3月12日には「函館建築所」に改称。
更に1990年10月1日、函館機械所(旧:函館機械区)と統合して「函館設備所」となり現在に至ります。


海底トンネル
青函トンネル工務所今別管理室a26

旧今別管理室の北には「青函トンネル入り口 今別町へようこそ」との案内看板が立っています。


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※写真は全て2023年4月23日撮影
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最終更新日 : 2023-04-30

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