タタールのくにびき -蝦夷前鉄道趣味日誌-

現在、札学鉄研OB会ブログから筆者投稿の記事を移転中です

Top Page › 東北 › 津軽海峡の保線を担う北海道軌道施設工業今別出張所
2023-04-25 (Tue) 23:19

津軽海峡の保線を担う北海道軌道施設工業今別出張所

軌道会社今別出張所a01

青森県は東津軽郡今別町大字今別字今別。
津軽線今別駅から1kmほど離れた今別町の中心部で、漁港を構える漁師町でもあります。
眼前に広がる津軽海峡の向こう側に北海道がある訳ですが、実は字今別の商店街にJR北海道の子会社が拠点を置いています。



軌道会社今別出張所a02

その子会社とは北海道軌道施設工業㈱。
1949年3月1日に国鉄の請負業者として創業した建設会社で、道内各地の国鉄線・私鉄線・専用線における保線作業(軌道保守工事・軌道改良工事など)を受注してきました。
JR関係者には国鉄時代からの慣習で「軌道会社」と呼ばれる事が多いですね。
1987年4月1日の分割民営化からJR北海道グループに属し、青函トンネル内の軌道敷設工事にも当たりました。
その後は親会社のJR北海道をはじめ、JR貨物北海道支社、北海道開拓の村、三笠鉄道村などから保線作業を受注。
現在は道内唯一の元請け保線会社として、㈲平松建設、㈱ヒラケン工業、㈱猪股組、㈱匠、㈱サヤマ建設、第一建設㈱、㈱丸工軌道工業、道南軌道㈱、国際技建㈱などの協力会社と団結して線路を守り続けています。


JR北海道 国鉄 JR貨物 JR東日本 津軽線 津軽海峡線 北海道新幹線 東北新幹線
軌道会社今別出張所a03

そんな軌道会社が唯一、青森県内に設けたのが「今別出張所」です。
今別出張所は函館新幹線工務所奥津軽管理室のパートナーとして、海峡線、北海道新幹線新青森~竜飛定点付近の保線作業を引き受けています。
なお、軌道会社の現業部門は「出張所」「機械センター」「工事所」の3種類があります。

このうち出張所は定期的な軌道整備(道床つき固め・軌間整正・通り整正・遊間整正など)、軌道材料の更換工事(レール・マクラギ・道床・分岐器)、転轍機の清掃といった保線作業を担当。
作業には持ち運び可能な保線機械や工具、鉄製トロ、スーパーカート(軌道自転車)、軌陸バックホー(コマツスーパーライナー等)を使用します。
場合によっては軌道新設工事や付替工事、無人駅構内の清掃、除雪作業なども引き受けます。
所長を筆頭に正社員の軌道技術員(工事総括主任・工事技術主任・工事技術係・工事係など)、日給月給制の軌道工、臨時清掃員などが従事します。

機械センターはマルチプルタイタンパー、バラストレギュレーター、レール削正車、排雪モーターカーロータリーといった保守用車を運転し、機械保線や除雪作業に当たります。
元々はJR北海道の各保線所・工務所が直営で実施していた保線機械業務ですが、1998年4月1日の業務委託化で軌道会社が全面的に請負う事となりました。
所長を筆頭に正社員の機械技術員(機械総括主任・機械技術主任・機械技術係・機械係など)が従事します。

工事所はトンネル、橋梁、護岸壁、落石防護工、プラットホームといった土木構造物の補修工事・耐震補強工事を担当。
出張所や機械センターとは違って作業員はおらず、専ら施工管理業務に当たっています。
所長を筆頭に正社員の土木技術員(土木総括主任・土木技術主任・土木技術係・土木係など)が従事します。


保線所 保線区 保線管理室 保線作業員
軌道会社今別出張所a04

玄関には「北海道軌道施設工業株式会社 函館支店今別出張所」との表札を掲げています。
軌道会社は道内5ヶ所の支店(札幌支店・釧路支店・旭川支店・函館支店・函館新幹線支店)を置き、これら支店長の配下に出張所と機械センターを設けています。



北海道軌道施設工業組織図(2022年7月1日現在)

ところが軌道会社公式サイトの組織図を見ると、今別出張所は函館支店ではなく函館新幹線支店の所属になっているのです。
この函館新幹線支店は2020年4月、函館支店から北海道新幹線の保線部門を切り離し発足した支店です。
同支店の配下に置かれた現業部門は函館新幹線出張所、木古内出張所、今別出張所の3ヶ所。
保線機械業務については函館新幹線出張所機械グループが担当しています。



軌道会社今別出張所a05

今別出張所の社屋は2階建てコンクリート建築で、外壁にダークグレーのガルバリウム鋼板を張っています。
軌道会社は2010年代から各地に金属サイディングの新社屋を建てており、何れの社屋も同じくJR北海道グループの札建工業㈱が施工しているそうです。




軌道会社今別出張所a07

軌道会社今別出張所a08

ちなみにGoogleマップのストリートビューでは、2014年6月当時の今別出張所を見る事が出来ます。
そこに建っていたのは現在の2階建て社屋ではなく、廃業した個人商店の転用と思しき木造モルタル建築です。
撮影当時は北海道新幹線の開業2年前で、今は無き青函トンネル工務所から保線作業を受注していました。



軌道会社今別出張所a06

2階建て社屋の北隣には車庫があります。
現場への移動に自動車は欠かせません。



軌道会社今別出張所a09

軌道会社今別出張所a10

車庫の更に北には年季の入ったモルタル造りの倉庫があります。
先述の個人商店が使用していた物でしょうか?



軌道会社今別出張所a12

軌道会社今別出張所a11

倉庫脇には5台のネコ車が置かれていました。
ネコ車は二輪式の手押し車で、保線作業の現場では軌道材料の運搬に使われています。



軌道会社今別出張所a13

当記事の序盤で述べたとおり今別出張所は、海峡線、北海道新幹線新青森~竜飛定点付近の保線作業を引き受けています。
それこそ新幹線の開業前から青函トンネルの保線作業を担ってきたのですが、現在は新幹線特例法によって列車運行時間帯の保線作業が不可能となりました。
したがって今別出張所の保線作業員達は夜勤主体で働く事となり、しかも貨物列車の運行もあるため通常の保守間合時間は午前1時~3時半頃までの2時間半しかありません。
おまけにトンネル内に入れる場所が限られるため、出入口と作業現場の往復に1時間程度を費やす事も。
更に作業坑は断面が小さいため工事車両の乗り入れも2トントラックが関の山、保線作業に使う機材の運搬も満足に出来ません。
こうした厳しい制約の中、作業を遂行しなければならない今別出張所の方々の苦労たるや大変なものでしょう。

ただし大掛かりな作業を要する時は、通常の2時間半の保守間合時間では対処しきれないため、4時間の拡大間合いが設定されます。
この拡大間合いは貨物列車の運転調整により実現するもので、運休が発生する訳ではありません。



軌道会社今別出張所a14

それにしても線路から離れた商店街の中に保線の職場があろうとは、並みの鉄道ファンなら想像し得ない事でしょう。
私は結構前から今別出張所の存在を知ってはいましたが、いざ現地に行ってみるとやはり奇妙に映りましたね。



軌道会社今別出張所a15

軌道会社今別出張所a16

今別出張所から約48m東には旅館のような建物があります。



軌道会社今別出張所a22

この建物をGoogleマップのストリートビューで見てみましょう。
2014年6月当時は「旅館今別ホテル」という宿泊施設だった事が分かります。



軌道会社今別出張所a17

しかし現在は旅館の看板を撤去した状態。
ネットで検索しても「営業中」という情報は無く、既に廃業済みだと分かります。
それでも1階駐車場にはクルマが並んでいますね。



軌道会社今別出張所a18

駐車場内に設けた玄関を見ると・・・



軌道会社今別出張所a19

・・・何と「北海道軌道施設工業株式会社今別宿舎」との表札を掲げているではありませんか!
廃業した旅館は津軽海峡の鉄路を守る保線作業員達の宿舎と化していました。



軌道会社今別出張所a20

玄関近くの窓には「津軽海峡線工事会員証 今別町協力会」とのステッカーを貼っています。



軌道会社今別出張所a21

今別宿舎の真向かいには「田中屋」という個人商店があります。
屋号の看板と一緒に並ぶのは、北海道新幹線に期待を寄せた看板。
「魅力ある大地へ~新しい風を運ぶ~北海道新幹線」「豊かさを求める今別町を目指し、活力と実践で未来へつなぐ!」との文言が踊ります。




※写真は特記を除き2023年4月23日撮影
スポンサーサイト



最終更新日 : 2023-04-30

Comment







管理者にだけ表示を許可