福島県は福島市飯坂町平野字堂ノ前にある、福島交通の平野(ひらの)駅。
「堂ノ前」という住所が表すとおり、駅の隣には東屋沼神社があります。
東屋沼(あずまやぬま)神社の創祀年代は不明。
社名が表すとおり東屋(吾妻山)の沼(雷沼)を祀った、または東征の折に蝦夷を討った日本武尊(やまとたけるのみこと)を祀ったという説があります。
927年に編纂された『延喜式神名帳』には「陸奥国信夫郡 東屋沼神社 名神大」の記載があり、少なくとも1095年以上前に創建されたのは間違いないでしょう。
平野駅の南にはJAふくしま未来(ふくしま未来農業協同組合)の飯坂南支店と平野共選場があります。
平野地区は果樹農家が点在し、葡萄、林檎、桃、梨、柿、サクランボなどの果物の栽培が盛んです。
他にキュウリ、トマト、ニラ等の野菜や花卉も栽培しており、これら作物を平野共選場に集めて選別・出荷しています。
農協の一大拠点を構成している訳ですが、意外にも農産物の発送に飯坂線を活用した事はありません。
飯坂線では1981年11月15日まで貨物営業をしていたのですが、その実態は岩代清水駅に隣接した合金鉄メーカー「福電興業」が利用する程度。
貨車は1960年3月に3両、1968年6月に1両を廃車しており、新規の荷主も獲得せず細々と営んでいたようです。
JR東日本 国鉄 福島交通飯坂線 東急 JR北海道 関西本線
平野駅は1925年6月20日、飯坂線の前身に当たる飯坂電車㈱の「明神町駅」として開設されました。
既に開業していた笹谷~仏坂下(廃止済み)間に増設した新駅です。
「明神町」とは駅から約95m北にある「平野字明神町」の事で、駅の住所である「堂ノ前」または隣接する「東屋沼神社」を駅名にしなかった理由が気になるところ。
それこそ堂ノ前と明神町の間には「明神脇」という小字が挟まっていますから、明神町駅というネーミングが益々もって妙に感じます。
ただ現在の明神町にいくつかの商店が集まっている様子を見るに、古くは明神町が界隈の繁華街だったのかも知れません。
そこで明神町に駅を設置する事にしたが、用地を取得できず止む無く堂ノ前に開設した・・・という経緯なのでしょうか?
まあ明神町という地名自体は東屋沼神社に由来すると思いますが、仲見世という訳でもないですね。
1927年8月15日、現駅名の「平野駅」に改称。
当時、駅の東側に旧自治体である信夫郡平野村の役場があり、対外的配慮から駅名を自治体名に改めたようです。
なお、平野村は1955年3月31日付で信夫郡飯坂町に編入合併。
その飯坂町も1964年1月1日、福島市に編入合併されて「福島市飯坂町」となりました。
鉄道の話に戻りましょう。
1927年10月1日、福島電気鉄道が飯坂電車を吸収合併しました。
これに伴い従来の福島電気鉄道線は「飯坂東線」、飯坂電車線は「飯坂線」に改称しています。
ただし飯坂線は飯坂東線の西方に所在する事から、便宜的に「飯坂西線」と呼ばれる事もありました。
福島電気鉄道は1962年7月12日、社名を「福島交通」に改称。
この頃は鉄軌道事業よりバス事業のウェイトが増し、県内随一のバス会社へと成長を遂げていました。
一方、路面電車の飯坂東線はモータリゼーションの台頭により苦境に立たされました。
年を追う毎に旅客・貨物利用は減少し、1971年4月12日に惜しくも全線廃止。
これで福島交通の鉄軌道事業は飯坂線の一路線だけとなったのです。
飯坂線は2009年9月1日、サイクルトレインを導入。
指定10駅のうち平野駅では自転車の乗降ともに可能となりました。
現在は平日の朝夕に限り、桜水駅から出改札に当たる駅員が派遣されています。
駅の出入口は踏切に接しています。
この踏切の正式名称は「明神脇踏切」。
銘板に記載された住所は「平野字堂野前」とあり、地図上の「堂ノ前」とは1文字違いです。
どうも「堂ノ前」という小字は表記ゆれが多く見受けられ、地元福島の人でも「堂野前」や「堂の前」と書く事があるようです。
明神脇踏切の東側には、鉄骨と波トタン板で組んだ上屋付きの駐輪場があります。
この駐輪場は東屋沼神社が設置したもので、利用するには社務所に届け出なければなりません。
駐輪場には錆付いたロッカー型自販機が1台。
側面には「朝市くん」と書かれています。
朝市くんとは山形県天童市に本社を構える農業機器メーカー、㈱山本製作所が製造している農産物コイン販売機です。
断熱材によって庫内の急激な温度上昇を防ぎ、農産物を新鮮なまま無人販売できる優れもの。
東屋沼神社も野菜を売って経営の足しにしていたのでしょうが、久しく使用停止のようで見るも無残に荒れ果てています。
落とし窓を開けて到着監視に臨む車掌。
ホーム出入口の階段には、自転車の通行ができるようスロープを増設しています。
1面1線の単式ホーム。
開業以来の棒線駅で、18m車3両がギリギリ入るくらいの長さです。
ホームの出入口側にはICカードリーダーと自動券売機を備えています。
自動券売機の裏に隠れる出札窓口。
出札窓口は平日のみ開きます。
営業時間は6:55~9:30、15:25~19:20です。
危険品持ち込み禁止の注意書きが結構レトロ。
出札窓口前から明神脇踏切を眺めた様子。
出札窓口の裏には待合室を設けています。
待合室の様子。
ソファとベンチを「コの字」に配置しています。
県道3号から駅舎を眺めた様子。
単式ホームの南側には・・・
・・・「3両編成の福島方2ドアは開きません」との注意書きを出しています。
飯坂線では2002年10月1日のATS導入に伴い駅の停止位置が変更となり、駅によっては3両編成(ラッシュ時に運転)が部分的にホームからはみ出るようになってしまいました。
しかし車掌が短い駅間で切符を販売して回る飯坂線では、該当する駅で毎回ドアカットの操作をするのも厳しいらしく、常時ドアカットにより対処しています。
そのため平野駅のように3両全てが収まる駅でも一部ドアは開かないのです。
ホーム南端に接する第4種踏切。
この踏切は駅の東側にある民家の出入口。
つまり私道踏切なのです。
飯坂線にはこのような私道踏切が多々あり、路面電車として開業した時代の面影を感じさせます。
東急1000系 福島交通飯坂線 飯坂電車 いい電
平野駅に停車した1000系1103F。
ホーム上の駅名標。
※写真は全て2022年7月16日撮影
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最終更新日 : 2023-02-19