明けましておめでとうございます。
2023年も宜しくお願い致します。
新年1発目の投稿は「産業と鉄道の町・苗穂」にある車両基地のお話です。
苗穂駅の北東には苗穂工場と苗穂運転所が置かれています。
何れもJR北海道の運輸系統に属する現業機関ですが、ネット上では工場と運転所を混同する人達が少なからず見受けられます。
しかも鉄道ファンですら混同している人が多いのです。
例えば「苗穂工場を観察中」というツイートに苗穂運転所の写真が貼られていたり、「苗穂運転所に○○が留置されています」というツイートに苗穂工場構内西側の写真が貼られているような有り様。
居ても立ってもいられなくなったので、今回は苗穂工場と苗穂運転所の違いについて書きましょう。
JR北海道 国鉄 JR貨物 苗穂車両所
まず、苗穂工場は1909年12月8日に開設された鉄道工場です。
当初は「札幌工場」を名乗っていましたが、1915年4月1日に現名称の「苗穂工場」に改称しています。
1987年4月1日の分割民営化に伴いJR北海道が苗穂工場を継承し、本場の廃止によって地方機関から現業機関に改組しました。
ただし貨物車両(機関車・貨車)に係る業務はJR貨物苗穂車両所が引き継ぎ、苗穂工場内の一部施設を間借りしています。
苗穂工場では道央圏の各運転所に属する車両をメインに重要部検査・全般検査・臨時検査を実施しています。
2022年秋からは廃止予定の五稜郭車両所に代わり、函館運輸所や道南いさりび鉄道の車両も受け入れるようになりました。
何れの検査も車両の解体・艤装を伴うもので、工場内には専門部署である「組立科」を設けています。
ただし車両から取り外した各種部品の修繕に伴う分解・組立については「部品科」と「内燃機科」で実施します。
場合によっては車体更新や交換部品の製造なども行ないます。
重要部検査は略して「要検」といい、4年または走行距離60万kmを超えない期間ごとに実施。
動力発生装置・走行装置・ブレーキ装置などを分解し、細部に至るまで検査・修繕を施します。
全般検査は略して「全検」といい、4~8年ごとに実施。
その名の通り車両全般を対象とした特に大掛かりな検査で、あらゆる車両部品を取り外して状態を総合的に調べ、修繕を施します。
臨時検査では故障・損傷した車両の修繕を実施しています。
検査を受けるため工場に車両が入る事を「入場」といい、検査一式を終えて工場から出る事を「出場」といいます。
各種部品の検査・修繕を終え、元通りに組み立てた車両は「品質管理科」による出場検査を受けます。
仕上がり状態の点検、構内試運転、本線試運転をクリアすると、車両は運用に復帰できるという訳です。
JR北海道 工場・車両所の職制 職名 職務内容
JR北海道における工場・車両所の職制
分割民営化に伴いJR各社が共通で定めた職制を基に、1997年7月14日にエキスパート職を追加した
北海道旅客鉄道株式会社(2005)『就業規則集』平成17年7月版、p.33より引用
苗穂工場の組織体制は総務科・工程管理科・品質管理科・技術開発科・設備保全科の計画5部門と、組立科・部品科・内燃機科の生産3部門から成ります。
工場長を筆頭に助役(副工場長・各科長・各担当助役・技術教育センター長)、エキスパート職(チーフリーダー・リーダー/技師・技師補)、事務員(事務主任・事務係)、技術管理・検修員(車両技術主任・車両技術係・車両係)が従事しています。
また、子会社である札幌交通機械㈱の社員もパートナーとして働いています。
同社は鋳物製造、旋盤作業、弱電部品作業、設備修繕、荷役作業、構内入換(入換機関車の運転を含む)などの業務を受託しています。
一方、苗穂運転所は国鉄時代の苗穂機関区を前身に持つ現業機関です。
苗穂機関区は1936年7月17日、札幌駅裏に所在した札幌機関庫の移転により発足しました。
当初は「苗穂機関庫」という名称でしたが、1936年9月1日の機構改革で組織単位を「区」に改め「苗穂機関区」に改称しています。
国鉄末期の1987年3月1日には現名称の「苗穂運転所」に改称し、同年4月1日の分割民営化に伴いJR北海道が継承しました。
2023年1月現在、苗穂運転所には気動車125両が在籍。
自所所属の動力車乗務員の指導と運用(勤怠管理・シフト調整・体調確認など)、気動車の運用管理・仕業検査・交番検査・機動検査を所管しています。
検修業務については苗穂工場とは違い、車両の解体・艤装をせずに実施できる範囲に限ります。
このうち仕業検査では3~10日ごとにブレーキ装置・標識灯・合図装置等の検修を実施し、交番検査では90
日ごとに(一般的には30日以内)車体・台車・エンジン・連結器・戸閉装置等の検修を実施しています。
機動検査では運行中に発生した車両不具合や、入区・出区の間合いに車両の状態を確認して見つけたトラブルの修正に当たっています。
JR北海道 運転所の職制 職名 職務内容 指揮命令系統
JR北海道における運転所の職制
分割民営化に伴いJR各社が共通で定めた職制を基に、1997年7月14日にエキスパート職を追加した
北海道旅客鉄道株式会社(2005)『就業規則集』平成17年7月版、p.31より引用
組織体制は総務科・運転科・検修科の3部門から成ります。
所長を筆頭に助役(副所長・総務科長・運転科長・指導助役・運転助役・検修科長・検修助役)、エキスパート職(チーフリーダー・リーダー/技師・技師補)、事務員(事務主任・事務係)、動力車乗務員(主任運転士・運転士)、検修員(車両技術主任・車両技術係・車両係)が従事しています。
また、構内には子会社の北海道ジェイ・アール運輸サポート㈱が「苗穂事業所」を設けています。
JUS苗穂事業所では気動車の給油作業、車内外の清掃、座席カバー取替え、冷暖房点検、構内入換(車両の運転を含む)といった業務を受託しています。
以上のように、苗穂工場と苗穂運転所は別々に独立した現業機関であり、業務範囲も異なっているのです。
何なら協力会社も違いますね。
今でこそ同じ「運輸系統」として人事交流もある工場と運転所ですが、国鉄時代は「工作」と「運転」に系統を分断していました。
しかも工作は「製修工事を担当する」という点が、運転関係区所(機関区・電車区・客貨車区・運転所など)とは大きく異なりました。
製修とは国鉄時代から使われている言葉で、「車両や同部品の解体・製作・艤装などの作業と、これらに付随する検査設備の運転操作及び器具・工具の整備」を意味します。
現在の苗穂工場は車両の製造こそしていませんが、解体・艤装や部品の製作をしているという点では製修工事をし続けていると言えますね。
職制で規定した車両係の職務内容も、運転関係区所は「車両の保守及びこれに附帯する業務」とあるのに対し、工場・車両所は「車両の保守及び製修業務並びにこれらに附帯する業務」と書き換えています。
それこそ国鉄末期は一重に検修員といっても、工場勤務は工作検査主任・工作検査係・工作運転係・工作技術係・整備掛(「係」には最後までならなかった)、運転関係区所は車両検査長・車両検査係・運転検修係・構内整備係というように職名が異なりました。
さて、ここからは苗穂工場と苗穂運転所の「用地」を見分けていきましょう。
上の写真は苗穂駅自由通路から東側を撮影したものです。
右手に見えるのは言わずもがな、苗穂駅のプラットホームですね。
左手に見えるのはもちろん苗穂工場です。
では中央に敷かれた2本の線路は何かと言うと、苗穂運転所の出入区線なのです。
このうち左側が入区線、右側が出区線です。
出入区線の奥に見えるのが苗穂運転所。
原則日勤のみの苗穂工場とは異なり、こちらは24時間体制で業務を回しているため、夜間にJUSの操車担当が動き回れるように照明塔を設置しています。
撮影当時、構内にはキハ150形、キハ40系、DE10形、DE15形ラッセル車が留置されていました。
入区線を進んだ先には洗車場があります。
「一旦停止 5K/H以下」と速度制限を書いた看板が目印です。
洗車場の手前には「苗穂運転所境界」との標識が立っています。
この標識を境として西側が苗穂駅構内、東側が苗穂運転所構内となります。
入区列車にJUSの操車担当が乗り込むのは、更に手前の「ATS切 停止位置目標」の標識が立っている地点からですね。
苗穂運転所と苗穂駅を繋ぐ跨線橋。
もちろん社員専用となっており、各係員の通勤・退勤や、運転士の移動に使われています。
この自由通路から苗穂運転所を眺めて「苗穂工場」と誤認する鉄道ファンが後を絶ちません。
くれぐれも誤解の無きように!
こちらが正真正銘、苗穂工場の構内です。
自由通路からの眺めは壮観!
ところが工場の建物より手前に敷かれた線路を「苗穂運転所構内」と誤認する鉄道ファンもまた多いのです。
キハ40系400番台、キハ283系、789系0番台、旧型客車が留置されている線路は何れも苗穂工場の構内です!
苗穂工場には1本だけ架線(電車線)を引いた線路があります。
この線路は「1番線」といい、出場列車の構内試運転に使用されています。
そして1番線に面した黒い柵が苗穂駅・苗穂運転所との境界線で、この柵から北側が苗穂工場の用地なのです。
苗穂駅自由通路の東側手前には小屋が建っています。
ここは苗穂工場の「第三門」で、入出場・構内入換の際に車両が行き来する「鉄道車両専用の西門」です。
国鉄時代は正門(第一門)同様に警備員(当時は守衛と呼んだ)が常駐していましたが、現在は「部外者の立入禁止」との看板を掲げているだけです。
場所を変えて東9丁目踏切。
この踏切のすぐ東側にY字の分岐器があります。
左に進むと苗穂工場の入出場線、右に進むと苗穂運転所の入出区線に至ります。
苗穂駅北口から北東に徒歩15分で、苗穂工場の正門(第一門)に辿り着きます。
撮影当日は北海道鉄道技術館の開館日でしたが、苗穂工場の土曜出勤日と被ったので駐車場が閉鎖されていました。
正門の近くには苗穂工場の中枢を担う計画科事務所があります。
アイボリーと緑のツートンカラーが印象的なコンクリート建築です。
北海道新幹線 東北新幹線 JR東日本
苗穂工場は北8条通に沿って、苗穂小学校の歴代生徒達が描いた「鉄道の日記念壁画」をフェンス代わりに飾っています。
小学生達の遊び心あふれる絵は道行く人を楽しませてくれます。
そんな記念壁画群の手前には北海道中央バスの「苗穂工場前」停留所があります。
かつては札幌市営バスのバス停でしたが、2004年4月1日に東営業所が中央バスに移管されて現在に至ります。
苗穂工場前バス停から北8条通を北東に進むと、苗穂工場第五門(東門)に辿り着きます。
ただしこの門は「車両専用」なので、おそらく徒歩通勤にも対応していないはず。
仮にバス通勤の社員がいるとしたら、正門まで歩いているのでしょう。
招き屋根の警備室には北海道クリーン・システム㈱から派遣された警備員が常駐しています。
この第五門は苗穂工場の最北端(それも隅っこ)に位置する門で、ここから南東にフェンスが連なります。
近くには品質管理科の所管である制輪子作業場(実作業はSKKに委託)があり、外壁には部外者向けに「JR苗穂工場」の看板をでかでかと掲げています。
苗穂工場第五門のすぐ傍には「ライジング苗穂」というパチンコ屋があり、広々とした駐車場を設けています。
このライジング苗穂ですが実は苗穂工場の一部用地を再開発した店舗なのです。
かつては国鉄自動車のバスやトラックを修理する「自動車修繕場」と「自動車塗装場」に加え、直営だった「鋳物職場」の事務室と「第三用品倉庫」がありました。
ちなみにライジング苗穂の駐車場南側には不自然な空き地があるのですが、ここには何と苗穂工場の野球場がありました。
昔から鉄道職員には体育会系が多く、特に野球は根強い人気があります。
臨時列車 キハ183系5200番台 キハ283系
北7東16交差点を右折し、苗穂・丘珠通を南下すると苗穂運転所に辿り着きます。
引退迫るノースレインボーエクスプレスの姿も見られました。
苗穂・丘珠通に沿って車庫や詰所が連なります。
苗穂・丘珠通は苗穂町3交差点を右折し、更に南へと伸びていきます。
ここには全長約204mの車庫が道路と並行して建っています。
そんな長い車庫は苗穂運転所の4~6番線に置かれています。
シャッターの頭上には「安全第一」の看板をでかでかと掲出。
この辺りでは金網越しに運転所構内を覗く事が出来ます。
撮影当時はJUS苗穂事業所の女性清掃員達が、操車係よろしく作業服とヘルメットを着用し線路脇を歩いていました。
こちらが苗穂運転所の正門です。
正門から向かって左側、ガルバリウム張りの建物が苗穂運転所の事務所棟です。
この中に所長室や総務室、運転助役室などがある訳ですね。
その向かいにある真新しい建物はJUS苗穂事業所の社屋です。
受託業務は先述したとおり、気動車の給油作業、車内外の清掃、冷暖房点検、座席カバー取替え、構内入換(車両の運転を含む)といった内容です。
構内に留置中のキハ201系。
苗穂運転所のフェンスは苗穂アンダーパスに沿って伸び、函館本線の沿線まで続きます。
線路向かいの平和通に移りましょう。
カマボコ型の建物は苗穂工場の社員食堂です。
この食堂は構内の端っこ、即ち苗穂運転所との境界線に接する位置に建っています。
よって食堂の手前に見えるH100形やキハ183系は、苗穂運転所構内に留置された状態だと分かりますね。
苗穂工場の用地を地図に示すと上のようになります。
Googleマップを基に作成
一方、苗穂運転所の用地は上のとおり。
当たり前ではありますが苗穂工場に比べて規模は小さめです。
なお、Googleマップを見ると東区北7条東17丁目16番地の建物(赤いフキダシで示した箇所)を「苗穂運転所」と表示しています。
ところが実は間違った情報なので要注意!
この情報を頼りに現地を訪問すると…
…札幌交通機械の本社ビルが建っています。
天下のGoogleマップでさえ間違いがある訳で、日頃から情報は吟味しなければならないと改めて実感しました。
情報の吟味云々で言うと、Wikipediaの「苗穂運転所」の項にはのっけから突っ込みどころが見られます。
何と「基地内には車両工場である苗穂工場が併設されている」と書いているのです!
しかし私が冒頭で述べたとおり、苗穂工場と苗穂運転所はそれぞれ独立した現業機関で、更に言うと苗穂工場の方が27年も先に開設されている訳です。
したがって「苗穂工場は苗穂運転所に併設された工場だ」というのは全くのデタラメ。
この記述は修正されて然るべきだと思います。
以上、苗穂工場と苗穂運転所の違いについて大まかに書きました。
現地を観察する際に参考にしていただければ幸いです。
※写真は全て2022年12月24日撮影
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最終更新日 : 2023-01-11