タタールのくにびき -蝦夷前鉄道趣味日誌-

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2022-11-17 (Thu) 21:29

SKKの受託業務に「苗穂工場輸送職場」の面影を見る

苗穂工場の構内入換業務(2019年9月)a01

石狩管内は札幌市東区北6条東13丁目にある、JR北海道の苗穂工場。
ここは車両の解体を伴う全般検査・重要部検査など大掛かりな製修工事を行なう車両工場です。
「製修」とは国鉄時代から使われている言葉で、「車両や同部品の解体・製作・艤装などの作業と、これらに付随する検査設備の運転操作及び器具・工具の整備」を意味します。

苗穂工場では約600人が働いており、このうち約半数がJR北海道のプロパー社員(事務・検修)で、もう半数が子会社である札幌交通機械㈱の従業員です。
札幌交通機械は国鉄OBが1952年9月19日に創業した苗穂工業㈱をルーツに持ち、国鉄・JRや札幌市交通局から鉄道車両部品、機械設備(自動改札機・自動券売機・クレーン・ボイラー等)の修繕などを受注してきました。
公式の略称は「SKK」で、このアルファベット3文字を社章として掲げています。
SKKの社員は群青色の作業服を着用しており、チャコールグレーの作業服を着たJR北海道の社員とは簡単に見分けられます。


JR北海道 国鉄 JR貨物 苗穂車両所 苗穂工場 構内入換業務 構内運転士 操車
苗穂工場の構内入換業務(2022年9月)a01

さて、SKKが苗穂工場内で受託している業務は概ね以下の通りです。

鋳物作業(制輪子等の製造)
工機作業(車両の検査に使う機械設備の修繕)
溶接作業(部品の溶接)
ディーゼルエンジンの解体・洗浄
機械加工作業(旋盤・フライス盤・研磨機などを使った部品の加工)
弱電部品作業(車内放送装置・ジャンパ栓などの修繕、制御盤の製作)
車体塗装作業
座席モケット製作
貫通幌製作
構内入換(操車・運転)
荷役作業(運搬・倉庫)

このように受託業務は車両検修に限らず、設備保全、構内入換、荷役作業に至るまで多岐に渡ります。


苗穂工場組織図
苗穂工場の組織図(1971年)
国鉄苗穂工場(1971)『工場あんない』1971年度版より引用

今回は数ある受託業務のうち、構内入換と荷役作業に着目しましょう。
元々、これらの業務は国鉄時代に存在した「苗穂工場輸送職場」が所管していました。

国鉄の工場は「本場」(ほんじょう)と「職場」(しょくば)の二層構造による組織体制で、現業部門である「職場」が製修工事や出場検査、力役作業などを担っていました。
苗穂工場の場合、1971年時点で16の職場を抱えており、担当業務別に機関車職場、客貨車職場、貨車(輪西)職場、塗装職場、検査職場、部品職場、電機職場、製缶職場、内燃機職場、鉄工職場、機械職場、鍛冶職場、鋳物職場、工機職場、動力職場、輸送職場を設けていました。


輸送職場の職制 掛職
国鉄・鉄道工場職場の指揮命令系統図(1968年7月職制改正)

昭和40年代半ばの輸送職場は職場長を筆頭に助役、事務掛、動力車運転士、自動車運転士、工作指導掛、工場誘導掛、工場輸送世話掛、工場輸送掛、整備掛(力役)の計10職名を配置。
このうち動力車運転士は入場・出場や構内入換の際に鉄道車両を運転する、工場専属の動力車乗務員です。
工場誘導掛は工場内の操車を担当し、フライ旗や無線機を使って動力車運転士を誘導したり、転轍機の操作により進路構成を行ないます。
工場輸送世話掛・工場輸送掛は修繕品や材料などの運搬積卸作業に従事し、自分達が使用する運搬器具(フォークリフト・車両移動機など)の整備も行ないます。
整備掛(力役)は荷物の持ち運びなど力仕事を担い、工作指導掛は荷役作業・構内入換の主任的ポジションです。
自動車運転士はトラックを運転し、工場内における物資の運搬を担います。
そして輸送職場従事員は識別のため、制服に「H」の記号ワッペンを縫い付けていました。
Hは「運ぶ=Hakobu」から来ているそうで、戦後間もない頃までは「運搬職場」と称していました。

なお、国鉄はこまめに職制改正を重ねていたため、輸送職場に配置する職名も時期によって異なります。
例えば1973年8月改正では工場輸送世話掛・工場輸送掛を統合して検修員と同じ「工作掛」に改称しましたし、1976年7月改正では工作指導掛を「工作検査主任」、動力車運転士・自動車運転士・工作掛(輸送)を統合して「工作運転係」といった具合に再編しました。


苗穂工場組織図
苗穂工場の組織図(1986年)
国鉄苗穂工場(1986)『工場あんない』1986年度版より引用

苗穂工場では1984年2月10日に大規模な組織改正を実施し、これまでの16職場を第1組立職場・第2組立職場・貨車(輪西)職場・検査職場・第1部品職場・第2部品職場・内燃機職場・鉄工職場の計8職場に圧縮再編しました。
同時に輸送職場は廃止となり、その業務を鉄工職場に移管しています。
なお、この頃までに荷役作業は札幌工営㈱に外注化したそうな。



苗穂工場組織図 苗穂工場鉄工科
苗穂工場の組織図(1992年)
JR北海道苗穂工場(1992)『工場ごあんない』1992年度版より引用

分割民営化の1987年4月1日にも更なる組織改正を実施し、本場と職場の二層構造を廃して運転所等と同じ科長制に移行。
鉄工職場は助役の中から1名を科長に指定した「鉄工科」に生まれ変わり、引き続き鋳物・旋盤・設備保守・構内入換の各業務を回してきました。

しかし合理化の流れは避けられず、1999年4月1日には鋳物作業を札幌工営㈱に委託。
それから4年後の2003年4月1日には構内入換を札幌工営、工機作業をSKKに委託した事により鉄工科は廃止となりました。

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 移行時の苗穂工場からの転出については、JR貨物会社や本州JR他社への移籍、公務員、清算事業団等への転出があった。一方で、旭川車両センター、釧路車両所、青函船舶局、運転所等他部門からの転入者もあったが、国鉄時代の昭和61年度に863人いた職員がJR移行後の昭和62年度には457人とほぼ半減した。
 これ以降については社員数の大きな変化は見られないが、主な増減要因は以下の通りである。
・平成5~7年度の減員
・・・本社・運転所等他部署への転出、出向等
・平成9年度の減員
・・・北海道ジェイ・アール・サイバネット㈱設立による技術開発部門への出向等
・平成11年度の減員
・・・鋳物作業を札幌工営㈱へ委託したことに伴う出向
・平成15年度の減員
・・・入換作業を札幌工営㈱へ委託したことに伴う出向
    工機作業を札幌交通機械へ委託したことに伴う出向
    弱電部品作業を北海道ジェイ・アール・サイバネット㈱へ委託したことに伴う出向
・平成16年度の減員
・・・機械加工作業を札幌工営㈱へ委託したことに伴う出向

《出典》
苗穂工場百年史編纂委員会(2010)『百年のあゆみ 鉄輪を護り続けて一世紀』p.74
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なお、北海道ジェイ・アール・サイバネットは2016年12月1日、札幌工営は2018年4月1日を以ってSKKに吸収合併されました。
現在、苗穂工場における検修関連の業務委託はSKKの1社のみとなっています。
そして国鉄時代の苗穂工場輸送職場が担った業務一式をもSKKが引き継ぎ、現在に至るという訳です。


苗穂工場 構内入換業務 構内運転業務 操車 誘導 運転取扱業務
苗穂工場の構内入換業務(2019年9月)a04-

こちらは苗穂工場で構内入換業務に当たる操車担当。
SKKは社員の職制を「工事係→工事技術係→工事技術主任→係長→課長補佐→課長」の順に定めているため、操車係や誘導係といった職名は厳密に言うと存在しないそうです。
操車担当は入換機関車のステップに乗っかり、手旗合図によって運転士に車両の移動・停止を指示します。
もちろんヘルメットに付くのはJRマークではなく、札幌交通機械の所属である事を示すSKKマークです。


苗穂工場 構内入換業務 構内運転士 庫内運転士 操車 誘導 運転取扱業務
苗穂工場の構内入換業務(2019年9月)a05

苗穂工場内で鉄道車両を運転する庫内運転士も、SKKが独自に雇用しています。
ヘルメットの側面や作業服の刺繍にも「札幌交通機械㈱」と社名を表記。
ちなみにJR北海道グループではJUS(北海道ジェイ・アール運輸サポート)も構内係と庫内運転士を雇用しており、道内各地の運転所で構内運転業務を受託しています。



苗穂工場の構内入換業務(2022年9月)a04

苗穂工場の構内入換業務(2022年9月)a03

こちらは北海道鉄道技術館の西側にある入換機関車の車庫。


731系 入換車庫 苗穂工場組立科
苗穂工場の構内入換業務(2022年9月)a02

苗穂工場の構内入換業務(2022年9月)a05

来客用トイレの近くから車庫の玄関を見ると、表札に「入換車庫 組立科」と書かれています。
よく目を凝らすと「入換機関車車庫 鉄工科」という旧名称がうっすらと残っていますね。
鉄工科の廃止後は組立科が車庫を管理しているようですが、構内入換をプロパー社員が引き受ける事は最早ありません。



苗穂工場の構内入換業務(2019年9月)a06

苗穂工場の構内入換業務(2019年9月)a02

SKK社員は車両移動機(アント)も運転します。
アントは鉄輪とタイヤを装備した軌陸両用車で、入換機関車のように鉄道車両を牽引して線路上を走る事もできます。


H100形
苗穂工場の構内入換業務(2019年9月)a03

構内入換関連ではトラバーサーの運転もSKKが受託しています。
トラバーサーは水平移動によって車両を別の線路へ移動する機械です。
苗穂工場には2台のトラバーサーが設置されています。



苗穂工場の資材立体倉庫(2022年10月)a01

さて、計画科事務所の西側には薄緑色のトタン板を張った倉庫があります。



苗穂工場の資材立体倉庫(2022年10月)a02

ここは総務科が管理する「資材立体倉庫」。
スタッカークレーンを完備した自動倉庫です。
1979年12月末に「立体自動貯留倉庫」として落成し、現在に至るまで貯蔵品・予備品の出納に供しています。
SKKの荷役作業員はスタッカークレーンの操作による倉庫内作業と、伝票整理・データ入力による倉庫管理、立体倉庫から各セクションへの物資の運搬を担当しているのです。
このうち倉庫内業務は国鉄時代、用品倉庫に所属する事務掛・現品掛・整備掛が担当していました。
輸送職場が所管したのは物資の運搬ですね。



苗穂工場のフォークリフト(2022年9月)

こちらはフォークリフトを運転し、部品科エリア内で車両部品を運搬するSKK社員。
国鉄時代は工場輸送世話掛・工場輸送掛がフォークリフトを運転し、工場内の荷役作業に当たっていました。



苗穂工場の場内運搬トラック(2022年9月)a01

こちらは「場内運搬」の札を掲げ、工場内を行き来するトラック。
これもSKK社員が運転しており、各セクションに部品や資材を運搬します。



苗穂工場の場内運搬トラック(2022年9月)a02

リアにもバッチリ「場内運搬」と掲出。
ナンバープレートが無いため工場内しか走れません。


789系 苗穂工場立体倉庫
苗穂工場の資材立体倉庫(2022年10月)a03

以上、SKKの受託業務から「苗穂工場輸送職場」の所管だった業務を拾い集めました。
一重に鉄道工場と言っても、そこで働いているのは検修員だけではないのです。
「どのような仕事があるのか」を意識すると、苗穂工場の観察がより楽しくなりますね。




※写真1・6・7・12~14枚目は2019年9月7日の一般公開で撮影
※写真2・17~19枚目は2022年9月10日、鉄道技術館の開館中に撮影
※写真8~10・11・15・16・20枚目は2022年10月22日、鉄道技術館の開館中に撮影
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最終更新日 : 2022-11-18

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