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2022-11-12 (Sat) 12:33

函館市電の保線作業を担う「翔栄工業」と「カネス杉澤事業所」

函館市電の保線作業(2022年11月3日)a01

日本で数少ない馬車軌間(線路幅1,372mm)を採用している函館市電。
かつては総距離17.9kmの路線網を構成していましたが、モータリゼーションに圧され1978年11月1日から廃線を重ねました。
路線縮小の末、1993年4月1日には現行の4路線10.9kmにまで圧縮しました。
4路線の内訳は本線2.9km、湯の川線6.1km、宝来・谷地頭線1.4km、大森線0.5kmで、実際には2番(函館どっく~湯の川間)と5番(谷地頭~湯の川間)の2系統を運行しています。
長らく函館市交通局が市電を運営してきましたが、2011年4月1日に函館市水道局と統合して「函館市企業局」に改組。
軌道事業については函館市企業局交通部の受け持ちとなり現在に至ります。


JR北海道 国鉄 函館市電 路面電車 JR貨物 保線作業員
函館市電の保線作業(2022年11月3日)a04

2022年11月3日、私は函館まで鉄道施設を撮影しに出かけました。
早朝に五稜郭駅前で夜行バスを降りると、五稜郭車両所、函館保線所、函館設備所、函館電気所、道南いさりび鉄道工務センターなどを撮影。
その後、11時台から函館市電を巡っていると保線作業の現場に出くわしました。
何と白昼堂々、併用軌道のアスファルト舗装を剥がして修繕工事に勤しんでいたのです。
全国どこの鉄道会社も、この手の大掛かりな保線作業は電車の動かない時間帯(深夜から夜明け前まで)に実施する事が多いので、営業車両が往来する日中に見られるのは貴重だと思います。
今回は函館市電の保線について触れましょう。



函館市企業局の組織図(2022年3月31日現在)
函館市公式サイト『企業局の事業概要(令和3年度)』内「1.企業局の組織」より引用

上に引用した図は函館市企業局の組織図(2022年3月31日現在)です。
局長を筆頭に管理部、上下水道部、交通部の各部門を置き、各部長の配下に「課」や「室」などを設けています。
交通部の場合は安全推進課、事業課、施設課、電車乗務員養成所の3課1所を抱えています。
このうち保線を所管するのは施設課です。



函館市企業局交通部の事務分掌(2022年3月31日現在)
函館市公式サイト『企業局の事業概要(令和3年度)』内「1.企業局の組織」より引用

こちらは函館市企業局が定めた安全推進課、事業課、施設課の事務分掌。
事務分掌は部署ごとの担当業務を明示したもので、何処の官公庁もごく当たり前に定めています。
今は無き国鉄も事務分掌を定めており、各条文の文末に「~に関すること」と付くのが特徴的です。
ここで函館市企業局交通部施設課の事務分掌に目を通してみましょう。

*****************************************************************
【施設課】
軌道施設の整備に関すること。
変電所、電車路、信号および通信施設の整備に関すること。
軌道用品および電路用品の出納および保管に関すること。
電車車両の整備および工場の管理に関すること。
電車車両用品の出納および保管に関すること。

《出典》
函館市公式サイト『企業局の事業概要(令和3年度)』内「1.企業局の組織」
*****************************************************************

これを読むとお分かりいただけるでしょうが、施設課は保線に加えて電気設備の維持管理、車両検修をも所管しています。
JR北海道は保線所と電気所を統合した「工務所」を道内各地に配置した事がありますが、函館市電の場合は車両さえも施設課の業務範囲に加えているのですから面白いですね。



函館市企業局交通部の職員配置(2022年3月31日現在)
函館市公式サイト『企業局の事業概要(令和3年度)』内「1.企業局の組織」より引用

こちらは函館市企業局交通部の職員配置(2022年3月31日現在)をまとめた表。
これによると施設課の合計人数は11人で、職名別の内訳は主査4人、主席主任3、主任技師2、技師2です。
一応は線路担当、電路担当、車両担当の区分を設けていますが、表を見る限り担当別に人員を振り分けておらず、業務を融合化している事が窺えます。
なお、事業課ともども「課」を名乗っておきながら課長が配置されていませんが、これらは交通部内で唯一の課長である安全推進課長が兼任しているのでしょうか?



函館市電の保線作業(2022年11月3日)a02

改めて軌道改良工事の現場を見てみましょう。
場所は湯の川線千代台~中央病院前間。
併用軌道の左右にコーンバーを配置し、車両の進行方向に「幅員減少」「徐行」「工事中」といった標識を立てています。



函館市電の保線作業(2022年11月3日)a03
保線車両 保線自動車 ダブルキャブトラック
函館市電の保線作業(2022年11月3日)a05

現場の車道は片側1車線にしては幅員が広く、線路のすぐ脇に工事用車両を駐車できるほど余裕があります。



函館市電の保線作業(2022年11月3日)a06

簡易トイレを積んだ軽トラのドアに注目!
「有限会社翔栄工業」と書かれていますね。
コアな鉄道ファンの方々ならお分かりでしょうが、現代日本の保線作業は外注化が進んでおり、鉄道事業者による直轄作業は昭和時代に比べて大幅に減少しています。
函館市企業局交通部施設課とて例外ではなく、プロパー職員の担当業務は軌道検査と工事の計画・発注・監督です。
自ら線路を検査して収集したデータを基に、軌道補修工事や軌道改良工事といった保線作業の計画を立てて請負業者に発注する訳ですね。
そして㈲翔栄工業は企業局から保線作業を受注する請負業者の一つという訳です。



函館市電の保線作業(2022年11月3日)a07

翔栄工業は1994年1月6日に創業した土木建設会社で、函館市赤川町に本社を構えています。
函館市内および近郊において基礎工事、舗装工事、下水道工事、配水管移設工事など土木工事全般を請負っており、その中に函館市電の保線作業も含まれているのです。
なお、仙台に全く同じ社名の建設会社がありますが、そちらとは一切関係ないものと思われます。

今回の保線作業は2022年7月28日に落札した「千代台~中央病院前間軌道舗装修繕工事」という案件。
落札の翌日に当たる2022年7月29日から同年12月16日までを工期とし、亘長50mにおける舗装修繕と間隙ゴムパッキン挿入を実施しています。



函館市電の保線作業(2022年11月3日)a08

秋の冷たい雨が降りしきる中でも、翔栄工業の作業員達は手際よく工事を進めていきます。
作業服のデザインに統一感はありませんが、ヘルメットについては皆一様に社名入りの白帽体を着用しています。



函館市電の保線作業(2022年11月3日)a09

なお、この工事現場で働くのは翔栄工業の作業員だけではありません。
現場の前後には白いナイロンコートに身を包んだ警備員が立っています。
この警備員達は帯広に本社を構える総合ビルメンテナンス会社、㈱ノア・ビルサービスの函館営業所から派遣されており、道行く自動車の誘導に加えて列車見張員の役割を担っています。


函館市電8000形8006号車 保線作業員
函館市電の保線作業(2022年11月3日)a10

工事現場に路面電車が接近すると、警備員は手笛を吹いて作業員達を線路脇に待避させます。
電車が通過するまでの間は作業を中断。


函館市電9600形 らっくる号 保線作業員
函館市電の保線作業(2022年11月3日)a11

電車運転士も工事現場を通過する時は警戒態勢。
速度を一気に落として徐行運転を行ないます。
保線と運転、両サイドが注意し合う事で触車事故を防いでいます。



函館市電の保線作業(2022年11月3日)a12

場所は変わって本線十字街~魚市場通間。
函館山を間近に望む豊川町にも市電の工事現場がありました。



函館市電の保線作業(2022年11月3日)a13

ここも併用軌道のアスファルト舗装が見事に剥がされています。
これによってトヨカワコモンズ前のT字路は分断され、横断歩道も渡れない状態です。



函館市電の保線作業(2022年11月3日)a14

分断状態のT字路には「右折できません」の注意書き。



函館市電の保線作業(2022年11月3日)a16

函館市電の保線作業(2022年11月3日)a15

この工事現場は休工状態となっており、どうやら夜間に限定して保線作業を実施しているようです。
休工中でも現場では函館市鍛治1丁目の警備会社、㈱ケイビから派遣された警備員達が警戒に当たっていました。



函館市電の保線作業(2022年11月3日)a17

さて、千代台~中央病院前間の保線作業は翔栄工業が受注している訳ですが、十字街~魚市場通間では別の請負業者が施工を引き受けています。
その名も「株式会社カネス杉澤事業所」。
同社は函館市西桔梗町に本社を構える総合建設会社で、1971年4月に創業しました。
道路・河川・上下水道などの土木工事、公共・民間施設の外構工事、戸建て住宅・アパートの建築工事などを行なっています。
屋号であるカネスのカネは「矩」、すなわち「かねじゃく」から来ています。

ちなみに親会社は函館で多角経営に取り組む㈱ケーエスホールディングス。
同ホールディングスはカネス杉澤事業所に加え、道路舗装工事を担う㈱カネス道路、貨物自動車運送業の㈲みどり運輸、観光バス事業の㈱ケーエス北の星観光バス、イカ釣り漁業の㈲天海など9社を抱えています。
休工中の保線現場の警備に当たる㈱ケイビも、ケーエスホールディングスのグループ会社です。



函館市電の保線作業(2022年11月3日)a18

函館市電の保線作業にも長年に渡り携わってきたカネス杉澤事業所。
今回の案件は2022年7月26日に落札した「十字街~魚市場通間軌道改良工事」で、2023年1月13日までを工期としています。
現場の軽トラに載った工事標識を見ると、カネス杉澤事業所は元請けとして㈲ヤマタツ北辰工業、㈱高橋興業、鹿島道路㈱北海道支店、㈲ガードシステム、㈱ケイビの計5社を束ねる立場にある事が伺えます。


函館市電710形
函館市電の保線作業(2022年11月3日)a19

さて、カネス杉澤事業所は2022年11月現在、函館市電の保線に携わる軌道工事管理者を募集しています。
以下に求人内容を抜粋しましょう。


【職種】
軌道工事管理者


【雇用形態】
正社員


【仕事の内容】
函館市電(路面電車)軌道敷内下記の工事における施工監理業務を行います。
 
□軌道敷内のレール交換
 
□軌道敷内の舗装補修工事
など

※社用車を貸与します。(社用車での通勤利用可)
※提携ガソリンスタンドにて給油、全額会社負担。


【試用期間】
あり(2ヶ月)
試用期間中の労働条件:同条件


【必要な経験等】
学歴不問
軌道工事業務経験


【必要な免許・資格】
2級土木施工管理技士
必須

1級土木施工管理技士
必須

軌道工事管理者資格必須(土木施工管理技士はいずれかで可)
普通自動車運転免許必須(AT限定不可)


【年齢制限】
64歳まで(定年が65歳のため)


【勤務地】
〒041-0824
北海道函館市西桔梗町863番地1
※函館市電運行路線(湯の川・駒場車庫前・函館どつく・谷地頭)区間での作業になります。


【賃金】
▼基本給(月額平均)又は時間額
 310,600円~388,000円
▼固定残業代
 あり
 89,400円~112,000円


【昇給】
▼昇給制度
 あり
▼昇給(前年度実績)
 あり
▼昇給金額/昇給率
 1月あたり0円~20,000円(前年度実績)


【賞与】
▼賞与制度の有無
 あり
▼賞与(前年度実績)の有無
 あり
▼賞与(前年度実績)の回数
 年2回
▼賞与金額
 600,000円~1,200,000円(前年度実績)


【通勤手当】
なし


【就業時間】
▼変形労働時間制
 変形労働時間制の単位
 1年単位
▼就業時間(日勤の場合)
 8時00分~17時00分
▼休憩時間
 90分
▼時間外労働
 月平均25時間


【休日】
年間87日
▼休日
 土曜日,その他
▼週休二日制
 その他
▼その他の休日
 *GW *お盆休み *年末年始
 *会社カレンダーによる
▼年次有給休暇
 6ヶ月経過後の日数:10日


【待遇】
雇用保険・労災保険・健康保険・厚生年金・退職金共済加入
65歳定年、再雇用制度有


以上、函館市電を支える仕事がしたいという方はご参考までに。
ちなみに函館周辺で保線に携わる建設会社は他に、北海道軌道施設工業㈱函館支店、㈱匠 函館支店、㈱蒼建軌道工業 函館出張所、㈱アクティス 函館営業所、㈱丸工軌道工業、道南軌道㈱、㈱大口興業などがあります。
このうち大口興業は函館に本社を構えていながら、大鉄工業㈱の協力会社として富山・石川・福井3県に事業展開し、JR西日本やIRいしかわ鉄道、あいの風とやま鉄道などの保線作業を受注している変わり種です。




※写真は全て2022年11月3日撮影
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最終更新日 : 2022-11-12

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