タタールのくにびき -蝦夷前鉄道趣味日誌-

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2022-11-15 (Tue) 20:22

開発は凍結状態 貨車を新幹線に積む「トレイン・オン・トレイン」

苗穂工場のトレインオントレインa01

苗穂工場の構内西側、25番線の脇には標準軌(1,435mm)の試験線が敷かれており、その上に「トレイン・オン・トレイン」の試作車が佇んでいます。
トレイン・オン・トレインはJR北海道が2004年から研究してきた新幹線用の貨物車両です。

2015年末の北海道新幹線開業を目指す中でネックとなったのが、在来線との共用区間となる青函トンネルの存在でした。
仮に青函トンネル内で新幹線が260km/h(※当時想定の最高時速)、在来線貨物列車が110km/hで走行すると、すれ違う際の風圧に貨車が煽られて脱線したり、速度差によってダイヤ乱れを引き起こす可能性が懸念されました。
特に速度差に関しては青函トンネルの全長が53.85kmですから、新幹線がトンネル内で先行の貨物列車に追いついてしまう恐れすらありました。
青函トンネル内に貨物列車用の待避設備を新設するのも、技術的に困難とされていたのです。


トレインオントレイン 苗穂工場 試験車両 JR貨物 JR北海道 北海道新幹線
苗穂工場のトレインオントレインa02

そこでJR北海道本社の技術創造部は、在来線貨物列車をそのまま搭載できる新幹線用貨車「トレイン・オン・トレイン」(公式略称:t/T)の開発に着手しました。
設計上は貨車を風圧から守るために車体をシェルター状とし、その上で車両限界・建築限界に納めるべく車輪を小径化する事で、貨車を収納できるだけの車内空間を確保しています。
もちろん地上から貨物列車を直接入れる事になるので、t/Tの車内にも線路を敷いています。
言ってしまえば、かつて青函連絡船が実施していた「車両航送」を新幹線でやってしまおうという訳です。
青函連絡船も鉄道車両(特に貨物列車)を運べるよう、船内の「車両甲板」に地上と接続できる線路を敷いていました。
列車単位で丸ごと積み込む事により、個々のコンテナを積み替えずに済むという利点があります。


スイッチャー 貨車移動機 ボーディング・ロコ
苗穂工場のトレインオントレインa05

青函連絡船は車両航送の地上設備として、青森桟橋、函館桟橋、函館桟橋有川支所の3ヶ所に「可動橋」を設置しています。
t/Tの場合は共用区間の両端に「ボーディング・ターミナル」を開設。
その構内に在来線アクセス用の線路と新幹線アクセス用の線路を敷設し、「ダブルトラバーサー」という機械設備をt/T停止位置の前後に配置します。
ターミナルに在来線貨物列車が来たら牽引機を専用の貨車移動機ボーディング・ロコ)に交代し、ボーディング・ロコがt/T貨車へと貨物列車を引き入れていきます。
貨物列車の搭載を終えたボーディング・ロコは対岸のダブルトラバーサーに載り、トラバーサーが横にスライドすると新幹線機関車がt/T貨車の先頭に来て連結。
一連の作業が済むと新幹線貨物列車が出発し、青函トンネルを200km/hで駆け抜ける・・・という構想でした。
苗穂工場にはボーディング・ターミナル用のボーディング・ロコ試作車や、貨車積込用の線路も整備されています。



苗穂工場のトレインオントレインa04

JR北海道は2006年2月22日にトレイン・オン・トレインの特許を出願しており、その後も新幹線貨物列車の実現に向けて研究開発を積み重ねてきました。
開発は2010年からJR貨物との共同体制になり、2011年には国土交通省も導入の検討に乗り出しました。
国土交通省は同年度中に検討結果をまとめており、
①新幹線と貨物列車のすれ違いによる運行時間帯・速度の規制が生じないため、貨物ダイヤの自由度は高い
②t/Tを時速260km/hで運行した場合、従来(140km/h)に比べ所要時間を約18分短縮できる
③ただし貨車の積み込み・積み下ろしには20分程度を要する
④重量大・積空差大・重心高の技術的課題と、実負荷による検証(走行試験)等、クリアすべき課題は多い
と述べています。

なお、51本の貨物列車を全て船舶に振り替えた場合、
①26隻の専用線を建造しなければならない
②積み替え作業が増えるため所要時間が増大する
③気候に左右されやすく安定的な貨物輸送が図れなくなる
④鉄道引込線とヤードの建設、専用岸壁などの港湾整備が必要となる
との見解を示し「非現実的」と結論付けています。



苗穂工場のトレインオントレインa03

t/Tは北海道新幹線の開業後、効率的に貨物を輸送する手段として期待されました。
しかし2011年5月27日に石勝線第1ニニウトンネルで「特急スーパーおおぞら」の脱線炎上事故が起きると、JR北海道で立て続けに事故や不祥事が続発した事で風向きが変わります。
この頃のJR北海道は学生だった私から見ても社員の怠慢が目立ちました。
例えば札幌駅の輸送主任が出発時刻になっても車掌との雑談を止めなかったり(“ながら”で作業はしている)、ホームを客が歩いているのにも関わらず車掌が出発監視を中断して運転席に座ったり・・・という有り様だったのです。
客の目に付く場所で堂々と手を抜く社員が多かったので、客に見えない検修や保線、電気などの職場では尚更手抜きが横行していたのかも知れません。
各地で検修の不備による車両故障が多発し、追分駅の継電連動装置が誤作動を起こすトラブルも
挙句の果てには線路の不備によって貨物列車の脱線事故が起こり、保線管理室における軌道検査データの改竄までも明らかになりました。



苗穂工場のトレインオントレインa06

一連の不祥事が仇となり、JR北海道は抜本的な安全投資を迫られました。
そのためt/Tの開発を続ける余裕が無くなり、プロジェクトは2015年に事実上の凍結状態に陥っています。
そしてt/Tの実用化に至らないまま、2016年3月26日に北海道新幹線が開業。
共用区間では新幹線が在来線に合わせ、最高時速を140km/hに落として運転する妥協案を採用しています(※2019年3月16日ダイヤ改正で160km/hに引上げ)。
その後、t/Tの開発が再開する様子もなく7年半が経過しました。
無用の長物と化したt/Tの試作車や試験設備は、未だに解体を免れています。

鳴り物入りで開業した筈の北海道新幹線も、盛り上がったのは最初のうちだけ。
開業後しばらくすると乗客は見る見る減少し、連休ですら空席が目立ちます。
そんな北海道新幹線は皮肉にも新たな大赤字を生み出しており、JR北海道の経営を更に苦しめているのです。
新幹線開業後の2017年3月決算期には、JR北海道グループ全体が初の赤字に転落。
するとその皺寄せは在来線に及び、減便や駅の廃止、更にはローカル線の廃止までも起こってしまいました。
2022年3月にはコロナ禍が仇となり、北海道新幹線の乗車率は過去最低の9%を記録しています。



苗穂工場のトレインオントレインa08

遂には北海道新幹線新函館北斗~札幌間の並行在来線についても、容赦なく廃止対象として槍玉に挙げられました。
既に函館本線長万部~小樽間の廃止が決定。
函館本線新函館北斗~長万部間についても沿線自治体が匙を投げかけましたが、ここへ来て新たな懸念事項が浮上しました。
それは「道内外の物流における多大な影響」です。

道内と本州を繋ぐ貨物列車が廃止されると、貨物輸送の安定性が著しく損なわれてしまいます。
前掲した国土交通省の分析にあるとおり、貨物列車を全て船舶に置き換えるのはコスト面・安定性からして非現実的です。
それこそ輸送コストが上昇して食品類の価格高騰を招いたら、全国の食卓が大打撃を受ける事になるでしょう。
実際、2016年8月の台風9号で石北本線が被災した時も、運休した貨物列車の代替手段としてトラックを手配したら輸送コストが高く付きました。
水害による畑の損害は惨憺たるものでしたが、この輸送コストの上昇もタマネギやニンジン等の卸売価格を高騰させる一因となりました。
道外の方々もスーパーに並ぶ野菜の価格を見て、遠く離れた道内JR線が日常生活に与える影響の大きさを思い知ったのではないでしょうか?
まさに下手すれば今までの日常を失うかも知れない事態に直面しています。





並行在来線問題を巡り国土交通省は2022年9月、北海道庁・JR貨物・JR北海道との4者協議を行なう方針を表明しました。
特にJR貨物は年間コンテナ輸送量の1/4が北海道関連で、函館本線が廃止されたら「道内はおろか全国ネットワークが崩れてしまう」と危惧しています。
しかし新函館北斗~長万部間は貨物輸送こそドル箱ですが、旅客輸送は普通列車に限ると極めて厳しい状況。
沿線自治体も旅客営業の継続には消極的です。
するといよいよt/Tの実用化に向けた動きも再起するんじゃないだろうか・・・と私は見ています。
運行にはボーディング・ターミナルの建設が不可欠となってしまいますが、それでも船舶を大量に建造したり、港湾を整備したりと更にコストをかけまくるよりはマシだと思います。
一体どのような結論に至るのか、固唾を呑んで見守りましょう。




※写真1・2・5枚目は2022年9月10日の鉄道技術館公開中に撮影
※写真3・4・6枚目は2022年10月22日の鉄道技術館公開中に撮影
写真7枚目は2022年11月6日撮影
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最終更新日 : 2022-11-15

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