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2022-10-25 (Tue) 20:00

【苗穂駅西】道内唯一の「開かずの踏切」、2023年3月に廃止

東9丁目踏切(苗穂)a01

石狩管内は札幌市中央区北5条東9丁目にある、JR北海道の東9丁目踏切。
函館本線札幌~苗穂間に位置し、苗穂駅のホーム西端とは約267m離れています。
近隣には大型商業施設の「アリオ札幌」、サッポロビール博物館、北海道日本ハムファイターズ屋内練習場、JA北海道厚生連札幌厚生病院などがあります。
この踏切は札幌市内どころか北海道内で唯一の「開かずの踏切」で、国土交通省も「緊急に対策の検討が必要な踏切」として「踏切道安全通行カルテ」を発行したほどの難所です。



東9丁目踏切(苗穂)a31

同カルテは東9丁目踏切について「踏切遮断時間が長く交通渋滞が発生」しており、なおかつ「年に複数回の踏切支障が発生」しているとの見解を示しています。
具体的なデータを挙げると、ピーク時の遮断時間は42分/時に及び、踏切自動車交通遮断量は27,446台/時、踏切歩行者等交通遮断量は21,811人/時と算定しています。
現地調査における自動車交通量は2,518台/日、歩行車等交通量は2,001人、鉄道交通量(踏切を通過する列車の1日当たり本数)は562本/日です。

なお、国土交通省は「開かずの踏切」の定義を「ピーク時間の遮断時間が40分/時以上の踏切」としており、1時間の遮断時間合計が最大42分に達する東9丁目踏切は紛れも無く「開かずの踏切」と言えます。


JR北海道 国鉄 JR貨物 第1種踏切道 東9丁目踏切道 苗穂駅
東9丁目踏切(苗穂)a02

札幌市内では1988年11月3日に函館本線琴似~札幌間が高架化。
この事業は札幌市長を務めた原田與作(-よさく)が1964年7月、市内19ヶ所の踏切における交通渋滞と事故を解消するべく、時の国鉄総裁・石田禮助(-れいすけ)に立体交差化を陳情した事に端を発します。

高架化によって「開かずの踏切」問題の多くは解決しましたが、苗穂駅周辺については苗穂工場と苗穂運転所の存在がネックとなり、高架化の実施には至りませんでした。
既に東8丁目アンダーパス、苗穂アンダーパスが開通していた事も、苗穂の高架化が見送られた一因でしょう。
そして東9丁目踏切の交通障害は見落とされ、30年以上も「開かずの踏切」が市民の行く手を阻む事となったのです。


函館本線 千歳線 東9丁目踏切 苗穂駅構内 721系
東9丁目踏切(苗穂)a11

国土交通省は2006年1月~6月に全国の踏切を対象とした「踏切交通実態総点検」を実施し、同年8月に調査データを取りまとめて東9丁目踏切を「緊急対策踏切(開かずの踏切)」に指定しています。
それから足掛け11年後の2017年1月27日には、踏切道改良促進法に基づき東9丁目踏切を「改良すべき踏切道」に指定しました。
以降、交通障害の解消に向けて札幌市建設局・JR北海道工務技術センターと対策を協議。
市が主導する「苗穂駅周辺地区まちづくり計画」の一環として踏切の代替路を建設する事になりました。
工事受注者は中央区北6条西14丁目の勇建設㈱で、2023年3月20日までを工期としています。
この苗穂駅連絡通の完成と引き換えに、東9丁目踏切は廃止される予定です。



東9丁目踏切(苗穂)a30

道新も道内唯一の「開かずの踏切」廃止を報じています。
以下に記事を引用しましょう。

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「開かずの踏切」廃止
札幌・苗穂 来年3月に

 札幌市は来年3月、JR苗穂駅近くの「東9丁目踏切」(中央区北5東9)を廃止する。日中は遮断機が上がらない時間が1時間あたり最長で計40分を超え、国から道内唯一の「開かずの踏切」に指定されている。代替路の整備が終わり次第、歩行者も車も踏切を通れないようにする。
 同踏切は苗穂駅のすぐ西側に位置し、函館線や千歳線など5本の踏切をまたいで市道が南北をつなぐ。周辺には大型商業施設や病院があり交通量が多く、ドライバーらには「待ち時間の長い踏切」として知られている。
 市などの調査によると、同踏切の日中1時間当たりの遮断時間は平均37分、最長42分に上る。無理な横断や周辺道路の渋滞が発生しており、国は2017年に「改良すべき踏切道」に指定。これまで指定を受けた道内14ヶ所のうち、遮断時間の長さが理由となったのは同踏切だけだ。
 市はJR北海道と協力して廃止作業を進め、踏切の両側に侵入防止柵を設置し道路として使えないようにする。廃止に先立ち、「東8丁目篠路道」のアンダーパスと立体交差する形で東西を結ぶ「苗穂駅連絡通」の整備を来年3月に完了させる予定。車で線路の南北を移動する場合は、同連絡道が代替路となる。
 踏切廃止は、市が進めてきた苗穂駅周辺まちづくり事業の一環。苗穂駅の自由通路や駅前広場の整備などは終えており、同連絡通の開通と踏切廃止で約10年に及ぶ一連の事業が完了する。
(工藤雄高)

《出典》
『北海道新聞』2022年10月18日付 朝刊第26面 第4社会
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東9丁目踏切(苗穂)a03

2022年10月22日、私は「雪が積もる前に東9丁目踏切を撮影しよう」と思い立ち、現地へと足を運びました。



東9丁目踏切(苗穂)a12

東9丁目踏切は函館本線の函館駅起点288K543M地点にあります。



東9丁目踏切(苗穂)a15

JR北海道は踏切の手前に「先詰まり注意」の看板を設置しています。



東9丁目踏切(苗穂)a16

こちらは「先詰まり注意」とは別に設置された「一旦停止」の看板。
「歩行者・自転車・自動車の方は、東8丁目架道橋(地下道)へお廻り下さい」と別ルートを案内しています。
歩行者や自転車ならまだしも、ドライバーに対して呼びかけるには手遅れな場所に設置しているのが悩ましい。
こんな手前に看板を立てたところで、後続車が来たら引き返せないんだよなあ・・・。
Uターンしようにも道幅が狭いですし。



東9丁目踏切(苗穂)a07

東9丁目踏切(苗穂)a05

踏切の前後には門形鋼管柱を設置しています。



東9丁目踏切(苗穂)a08

門形鋼管柱は自動車と架線の接触を防ぐための設備です。
東9丁目踏切は4.5mを制限高と定めており、これより高い車両は通行できません。
クレーン車やバケット車などは要注意です。



東9丁目踏切(苗穂)a17

東9丁目踏切の北側、苗穂方には小屋が建っています。



東9丁目踏切(苗穂)a20

白く塗ったモルタル壁と片流れ屋根を持ち、線路側に玄関を設けています。
この小屋は国鉄時代、苗穂駅に所属する踏切保安掛が使用した詰所ですね。
踏切保安掛は駅務掛・荷扱掛・構内作業掛と同様、手職をルーツに持つ下っ端の労務職。
手職時代は「踏切警手」という職名でした。
踏切の看守として遮断機・警報機の操作、自動車や歩行者等の誘導・交通規制をこなしました。
1973年6月1日の職制改正(実際の施行は労使協議後の1973年8月30日)では職名を「交通保安係」に改め、1976年9月には世話役として「交通保安指導係」が新設されました。



東9丁目踏切(苗穂)a25

詰所の玄関にはトークバック(連絡用高声電話機)のスピーカーが付いています。
広い駅構内での運転取扱業務に欠かせない設備です。



東9丁目踏切(苗穂)a22

玄関前には鉄道電話機と黄色い「作業スイッチ箱」があります。



東9丁目踏切(苗穂)a18

踏切から苗穂方を眺めた様子。
左の線路は手前で分岐し、それぞれ苗穂工場と苗穂運転所まで伸びています。
営業列車がひっきりなしに通過するだけでなく、工場の入場・出場、運転所の入区・出区も東9丁目踏切を行き来するのです。
駅員の中で下っ端とはいえ、踏切保安掛の重責たるや相当なものだったでしょう。



東9丁目踏切(苗穂)a19

東9丁目踏切を無人化した詳細な時期は不明。
少なくとも国鉄末期の1980年代には交通保安係の配置を終了したものと思われます。
ただし分割民営化後も踏切看守として輸送係を配置したケースは都市圏にチラホラ見られるので、もしかすると東9丁目踏切も暫くは有人だったのかも知れません。
当時の状況を詳しく御存知の方は是非とも情報を下さい。



東9丁目踏切(苗穂)a21

詰所の裏側はこんな感じ。
無人化後も取り壊さずに残しているのは、踏切の自動制御が効かない等の非常事態が起きた時、手動で操作する要員を配置できるようにしているのでしょう。
無人駅でも交換駅であれば継電連動装置を備えるのと同じ理屈ですね。



東9丁目踏切(苗穂)a06

踏切詰所の眼前を全速力で通過する789系1000番台。


キハ261系1000番台 733系3000番台
東9丁目踏切(苗穂)a09

北側から東9丁目踏切を眺めた様子。



東9丁目踏切(苗穂)a29

北側の踏切手前には、ビックリマークの上にSLの絵を描き足した奇妙な道路標識があります。



東9丁目踏切(苗穂)a10

踏切の南側にはJA北海道厚生連札幌厚生病院があります。
この病院にマイカー通院する人達も、踏切待ちの渋滞が起きると否応なく巻き添えを喰らいます。


789系0番台 789系基本番台 特急ライラック
東9丁目踏切(苗穂)a27

何しろ踏切側に駐車場の出入口を設けているため、踏切待ちの渋滞が起きるとご覧の通り塞がれてしまうのです。
これでは駐車場に入る事も、駐車場から出る事も出来ません。
東9丁目踏切が廃止されれば通院の不便も解消されるでしょう。



東9丁目踏切(苗穂)a26

平日データイムや土日祝でも、2~3分間ずっと遮断機が下りたままというのは当たり前。
遮断機が上がったと思ったら、30秒後にまた下りる・・・なんて事もザラです。
あと半年足らずで苗穂駅連絡通が開通すれば、そんな煩わしさからドライバー達は解き放たれる事になります。

しかし歩行者にしてみれば、厚生病院付近とアリオ札幌付近を結ぶ最短ルートの消滅は辛いものがあるかと思います。
せめて踏切跡に人道跨線橋が建設されれば・・・と嘆く人達はやはり少なくありません。

ただし、東側の苗穂駅では2018年11月17日に橋上駅化を為し、駅の南北を直接行き来できるようになっています。
札幌市役所は更に出費して新たに跨線橋を作るよりも、既設の橋上駅舎で補った方が合理的と考えているのでしょう。
踏切の廃止によって交通の流れがどのように変化していくのか、これから注目していきたいところです。




※写真は全て2022年10月22日撮影
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最終更新日 : 2022-11-01

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