石川県は野々市市本町2丁目にある、北陸鉄道の野々市工大前(ののいちこうだいまえ)駅。
金沢近郊のベッドタウン・野々市の市内東部に置かれた駅です。
「野々市工大前」という駅名の由来は、駅から約163m東方にある金沢工業大学です。
「金沢」の2文字を冠してはいるものの、実際の住所は野々市市高橋町である事から、敢えて駅名を「金沢工大前」にはしなかったようです。
金沢工業大学は1965年4月1日に開学した4年制大学で、工学部、情報フロンティア学部、建築学部、バイオ・化学部の4学部を設けています。
中でも工学部は開学当初から存在する最古の学部で、2022年現在は機械工学科、航空システム工学科、ロボティクス科、電気電子工学科、情報工学科、環境土木工学科の6学科に分かれています。
また、1978年4月1日には大学院を開設し、研究者や専門職業人の養成に取り組んでいます。
JR西日本 JR北海道 国鉄 北陸鉄道石川線 木造駅舎
野々市工大前駅は1931年8月11日、既に開業していた金沢電気軌道石川線の野々市~馬替間に開設されました。
当初の駅名は「上野々市駅」。
既設の野々市駅ともども高橋川の沿岸にあり、上野々市駅の方が川の上流に位置する事から駅名に「上」の字を冠したそうです。
いわゆる鉄道線の上り方向・下り方向ではなく、川の上流・下流から駅名を付けるケースは他に、根室本線の上芦別駅・下芦別駅(現:芦別駅)がありますね。
1937年7月7日、北京で盧溝橋事件が勃発。
ここに日中戦争の火蓋が切られ、政府は翌1938年4月1日に国家総動員法を公布しました。
更に1939年4月1日、関連法令である電力管理法が成立。
戦況の激化に対応するべく全国の電力施設を国家が接収し、それらの管理運営を国策会社である日本発送電㈱が担う体制に移行しようと動き出したのです。
この流れに対し日本海電気㈱の社長・山田昌作は、過度な国家介入に抗い北陸3県における電気事業の自主統合に踏み切りました。
山田氏が高岡電灯㈱の社長・菅野伝右衛門から合意を得ると、監督官庁である名古屋逓信局も北陸3県の事業統合にお墨付きを与えました。
すると議論は急速に進展し1941年3月10日、日本海電気・高岡電灯・金沢電気軌道・小松電気・大聖寺川水電・越前電気の6社と、日本海電気の系列2社、高岡電灯の系列4社を加えた計12社が合併契約に調印。
同年8月1日に合併新会社である北陸合同電気㈱が発足し、金沢電気軌道の各路線(石川線・金野線・松金線・能美線・金沢市内線)も同社に引き継がれました。
東急7000系 木造駅舎
しかし戦局が日増しに悪化していくと、政府は配当統制の強化により民間を一層締め付けました。
機能不全に陥った北陸合同電気の元に、今度は配電統制令に基づく配電会社の設立命令書が交付されました。
山田氏らは苦境を乗り越え新会社(北陸配電)の設立準備をするしかなく、その過程で鉄軌道・バス事業の整理を決めました。
そして1942年3月26日、旧北陸鉄道が発足。
北陸合同電気から鉄軌道事業を継承し、各路線(石川線・金野線・松金線・能美線・金沢市内線)の運営に当たりました。
一方、政府は1940年1月31日、国家総動員法第8条に基づき陸運統制令を公布していました。
すると全国各地で鉄道会社・バス会社の戦時統合を展開。
石川県内の各私鉄も戦時統合の対象となり1943年10月13日、旧北陸鉄道・能登鉄道・温泉電軌・金名鉄道・金石電気鉄道・湯涌自動車・七尾交通の計7社が合併して現在の北陸鉄道となりました。
上野々市駅は戦後の1963年4月11日、駅名を「工専前駅」に改称しました。
この改称は前年の1962年4月1日、駅から約640m東方に金沢工専(金沢工業高等専門学校)が開校した事によります。
なお、金沢工専は1990年代からグローバル化に注力しており、2018年4月1日には学校名を「国際高等専門学校」に改称しています。
そして先述したとおり1965年4月1日、金沢工業大学が開学。
工専前駅も翌1966年9月15日、現在の駅名である「野々市工大前駅」に改称しています。
木造駅舎 無人駅 駅事務室
木造駅舎 無人駅 駅事務室
駅舎は開業以来の木造平屋。
事務室だけの簡素な構造で、オープンスタイルの改札口を備えています。
なお、野々市工大前駅は1983年4月1日に無人化しており、改札口に駅員が立つ事はありません。
改札口 木造駅舎
改札口に残るパイプのラッチ。
出札窓口 木造駅舎 精算所 改札口
出札窓口は精算所と一体化しています。
現在はご覧のとおり板で封じられた状態です。
出札窓口には石川線の混雑状況を知らせる貼り紙が1枚。
主要3駅(鶴来・新西金沢・野町)の時刻に加え、色分けにより各列車の混雑目安を表示しています。
調査は2022年9月29日(木)に実施しており、朝ラッシュ時の鶴来始発・野町行き3本が特に混雑している事が分かりますね。
野々市工大前駅の発車時刻で言うと、7:21発、7:41発、8:02発が最も混雑しています。
改札口 木造駅舎
ラッチ内から改札口を眺めた様子。
改札口 プラットホーム
改札口とホームは緩やかな階段で繋がっています。
木造駅舎
ホーム側から駅舎を眺めた様子。
ホームにはアーチ屋根の上屋が建っています。
1面1線の単式ホーム。
全長は18m車3両分も無いくらいです。
開業以来の棒線駅で、駅裏には用水路が一直線に伸びています。
待合所 待合室
アーチ上屋の屋根下には待合室が収まっています。
待合所 待合室
待合所 待合室
待合室の様子。
壁には掲示物がズラリと並びます。
待合所 待合室
室内には野々市市押野の丸木町会が「善意の傘」を設置しています。
野々市工大前駅の利用客が突然の雨に見舞われても大丈夫なように、無料で傘を貸し出しているのです。
使い終わった傘は元の場所に返しましょう。
待合室とアーチ天井の間には広めの隙間があり、そこには年季の入った北鉄自動車学校の広告看板があります。
北鉄自動車学校は野々市市蓮花寺町にある指定自動車教習所で、北陸鉄道の子会社である北陸自動車興業㈱が運営しています。
待合所 待合室
この広告看板を見る限り、どうやら先にアーチ上屋が建設され、それから暫くして待合室が建設された模様。
せっかくの広告が隠れてしまい勿体無い気がしますが、移設しようとは考えなかったのでしょうか?
野々市工大前駅構内
用水路の対岸から駅構内を眺めた様子。
対岸から駅舎を眺めた様子。
事務室の窓も板で塞がれています。
対岸から待合室を眺めた様子。
東急7000系
野々市工大前駅に停車した7000系。
東急7000系
アーチ上屋を横目に出発する7000系。
ホーム上の駅名標。
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※写真は全て2022年10月9日撮影
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最終更新日 : 2022-10-23