タタールのくにびき -蝦夷前鉄道趣味日誌-

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2022-10-02 (Sun) 17:12

苗穂工場の中枢「計画科事務所」 前身は国鉄時代の「本場事務所」

苗穂工場計画科事務所(2022年8月)a01

石狩管内は札幌市東区北6条東13丁目にある、JR北海道の苗穂工場。
ここは車両の解体を伴う全般検査・重要部検査など大掛かりな製修工事を行なう車両工場です。
「製修」とは国鉄時代から使われている言葉で、「車両や同部品の解体・製作・艤装などの作業と、これらに付随する検査設備の運転操作及び器具・工具の整備」を意味します。

正門から構内に入って右手(西側)には「計画科事務所」という建物があります。
2階建ての鉄筋コンクリート建築で、外壁はベージュと灰緑色のツートンカラー。
この計画科事務所こそが苗穂工場の中枢です。


JR北海道 国鉄 JR貨物 本場事務所 車両基地 函館本線 苗穂駅 千歳線
苗穂工場計画科事務所(2022年9月)a01
(2022年9月10日、北海道鉄道技術館の開館中に撮影)

計画科事務所の玄関は正門ロータリーに面しています。
階段や玄関前の床には滑り止めのマットを敷いています。



苗穂工場計画科事務所(2022年9月)a02
(2022年9月10日、北海道鉄道技術館の開館中に撮影)

玄関脇にはJR北海道苗穂工場とJR貨物苗穂車両所、2枚の表札を一緒に掲げています。
苗穂車両所は機関車・貨車の検修を担う現業機関で、苗穂工場の用地・施設を間借りしています。



苗穂工場組織図(2016年4月)a04
苗穂工場公式HP(2018年3月31日閉鎖)に掲載されていた苗穂工場の組織図
工場従事員670名の内訳はJR北海道359名、札幌交通機械140名、札幌工営137名、サイバネット34名
なお、札幌工営とサイバネットは2社とも札幌交通機械に吸収済み

さて、ここで苗穂工場の組織体制を見てみましょう。
当工場の組織は工場長を筆頭として総務科・工程管理科・品質管理科・技術開発科・設備保全科の計画5部門と、組立科・部品科・内燃機科の生産3部門により構成しています。
何れの部門も「課」でなく「科」を正式な組織単位としており、各部門の助役の中から1名ずつを「科長」に指定する科長制を採っています。
このうち計画5部門を総称して「計画科」と呼んでおり、これらが正門西側の計画科事務所に入居している訳ですね。
各部門の業務内容は以下の通りです。


【総務科】
工場全体の庶務、経理、資材管理を担当。
庶務関連では人事・労務、文書管理、防火・防災管理などの日常業務に加え、工場一般公開など各種イベントの企画、近隣住民や小学校など部外者との折衝を引き受けています。
経理関連では会計、出納、契約に加え、工場内で使用しているコンピュータネットワーク(NH-LAN)の管理などを遂行。
資材関連では材料・工具・備品等の調達と出納、全道の運輸系統現業機関(工場・車両所・運輸車両所・運転所・運輸所)を結ぶ資材管理システムの運用を遂行しています。


【工程管理科】
車両性能の維持や故障防止を図るべく、入場する車両の検査計画および改造計画を立てる部門です。
一般的な工場の「生産管理」に当たる業務を担っています。
苗穂工場では工程管理科が策定した計画に従い、生産3部門(組立科・部品科・内燃機科)が製修工事を実施。
製修工事の実施中は工程管理科が進捗状況を逐一確認し、工事完了までの舵取りを行なう訳ですから特に責任重大なセクションと言えるでしょう。
本社や各運転所とも情報共有を密にし、各車両の特性を分析し効果的な施工を実現できるよう試行錯誤を重ねています。


【品質管理科】
2009年3月16日、それまで工程管理科が所管していた外注・予備品管理業務および検査センター業務と、今は無き技術試験科が所管していた制輪子生産管理業務を統合し発足した部門です。
このうち外注管理は委託作業に関する契約業務、品質管理を担当しています。
主な委託作業は以下の通りです。

●札幌交通機械㈱に委託
鋳物作業(制輪子等の製造)
工機作業(車両の検査に使う機械設備の修繕)
溶接作業(部品の溶接)
ディーゼルエンジンの解体・洗浄
機械加工作業(旋盤・フライス盤・研磨機などを使った部品の加工)
弱電部品作業(車内放送装置・ジャンパ栓などの修繕、制御盤の製作)
車体塗装作業
座席モケット製作
貫通幌製作
構内入換(操車・運転)
荷役作業(運搬・倉庫)

●㈱宮坂商店に委託
廃車体の解体作業
産業廃棄物の処分

一方、予備品管理では定期検査工程や列車運行に支障をきたさないよう、常に重要部品のスペアを確保し工場内および各運転所での検修に供しています。
そして品質管理科は製修工事を終え、元通りに組み立てた車両の最終チェック(出場検査)を実施するという重要な任務をも担っています。
構内試運転を無事にパスした車両は晴れて出場となり、定期運用に復帰できるという訳ですね。


【技術開発科】
2009年3月16日、車両開発科と技術試験科が統合し発足した部門です。
主に新製・改造・特修工事における車両の設計・デザインを担当しており、車両メーカーに発注する新型車両の設計も同科が引き受けています。
DMV(デュアル・モード・ビークル)やトレイン・オン・トレインの開発にも携わりました。
他には改造工事に使用する材料の調達、新製車両・改造車両の性能試験、技術開発における各種計測、車両故障調査・分析、技術課題の管理などを担当。
車両性能試験では走行安全性、乗り心地、振動、ブレーキ性能を検査しています。
よく鉄道ファンの間で話題に上る「魔改造」も、技術開発科が企画し生まれたものです。


【設備保全科】
苗穂工場は約1,000台もの機械・器具を抱えており、これらを使って製修工事を実施しています。
その設備管理を担当するのが設備保全科で、機械・器具の日常検査と修理計画の策定をします。
自分達で集めた検査データを分析して修理計画に活かし、札幌交通機械㈱の本社機械部に工事発注しています。
工場全体の安全推進も設備保全科の重要な役目。
場内で働くプロパー社員・SKK社員の労災を防ぐべく、ヒヤリハット情報の活用、5Sの推進、安全パトロールの実施等に取り組んでいます。

また、2009年3月16日には国鉄時代の「鉄道学園工作科」を参考にして、設備保全科長の配下に「技術教育センター」を新設。
団塊世代の大量退職が始まり技術継承に不安が生じた事から、新入社員を含めた技術教育体制の強化を図るべく発足しました。
助役1名を「技術教育センター長」に指定し、講師としてエキスパート職(技師・技師補)を配置しています。



苗穂工場計画科事務所(2022年8月)a02

以上のとおり苗穂工場では科長制を敷き、計画5科・生産3科の計8部門を設けています。
しかしこの科長制ですが実を言うと、1987年4月1日の分割民営化に伴い苗穂工場に導入した組織体制なのです。
「計画科事務所」も元からの名称ではなく、国鉄時代は「本場事務所」と称していました。
「本場」は「ほんじょう」と読みます。


苗穂工場組織図
苗穂工場組織図(1983年4月)
国鉄苗穂工場(1983)『工場あんない』1983年度版より引用

当時の苗穂工場は駅や運転区などのような現業機関ではなく、鉄道管理局や地方資材部、工事局などと同じ「地方機関」(地方において国鉄の業務を分掌している機関であって国鉄の従たる事務所をなすもの)に分類されていました。
その組織体制は非現業の企画・管理部門である「本場」(ほんじょう)と、現業機関である「職場」(しょくば)の二層構造となっていました。
なお、1973年9月1日に五稜郭工場・旭川工場が苗穂工場の傘下に入り、それぞれ「五稜郭車両センター」「旭川車両センター」に改組されていますが、これらは苗穂工場の「場外職場」という扱いでした。

上に引用したのは1983年4月当時の組織図です。
工場長の配下に2人の次長がおり、その更に下に設備課・技術課・客貨車課・機関車課・コンピュータ室・経理資材課・人事課・総務課の7課1室を設けています。
これら部門が当時の苗穂工場における「本場」だったんですね。
一方、現業部門は輸送職場、動力職場、工機職場、鋳物職場、機械職場、鉄工職場、内燃機職場、製缶職場、電機職場、部品職場、検査職場、塗装職場、貨車(輪西)職場、旅客車職場、機関車職場、五稜郭車両センター、旭川車両センターの計17部門でした。
そして職場長や車両センター所長は、駅長や区長に相当する地位だったという訳です。
もちろん職場長や車両センター所長の配下にも補佐として助役が置かれていました。
現在の苗穂工場とは比べ物にならないほど巨大な組織だったのです。


苗穂工場総務科長
苗穂工場計画科事務所(2022年8月)a05

1987年4月の分割民営化に向けて、国鉄本社が取り組んだのは新会社における組織の簡素化でした。
戦後における組織の肥大化も国鉄の莫大な赤字を生んだ一因とされ、組織のスリム化によって意思決定の迅速化、責任体制の迅速化を促し、より効率的な鉄道運営を期したのです。
もちろん苗穂工場を含む各工場の二層構造も見直し、「本場」を廃止すると共に多数存在した「職場」を束ねて一つの現業機関に統合しました。
その過程の中で導入したのが、国鉄時代に運転所や発電所などで採用実績のあった科長制という訳です。

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 まず、各会社の組織の細部(各機関の内部部課等)については、従来のタテ割、セクト主義の弊害を打破し、簡素で効率的な体制を実現することとなった。具体的に国鉄時代と比較して主なポイントを述べると以下の通りである。まず、本社及び地方における部課を極端に整理し、肥大化した組織の徹底的な簡素化を行い、意思決定の迅速化、責任体制の明確化を図るとともに、非現業要員の縮減に資することとした。また、従来運転と車両部門に分かれていた検修部門を一元化するとともに、大組織であった工場の本場部分をなくし、駅、保線区、電力区等と同様の一つの現業機関とすることとした。

《出典》
夏目誠(1987)「各承継法人の組織決定」『国有鉄道・国鉄線』1987年3月号(財団法人交通協力会)p.18
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キハ283系 キハ40形400番台 キハ40系400番台 札沼線 学園都市線
苗穂工場計画科事務所(2022年8月)a03

北海道鉄道技術館前から計画科事務所を眺めた様子。



苗穂工場計画科事務所(2019年9月)a01
(2019年9月7日、一般公開で撮影)

計画科事務所の屋上には3本の旗ポールが立っています。
苗穂工場の稼働日(一般公開を含む)はご覧の通り3種類の旗を掲げています。



苗穂工場計画科事務所(2022年9月)a04
(2022年9月10日、北海道鉄道技術館の開館中に撮影)

計画科事務所の手前にはC62形蒸気機関車の主動輪が置かれています。



苗穂工場平面図(2009年10月)
苗穂工場百年史編集委員会(2010)『百年のあゆみ 鉄輪を護り続けて一世紀』p.2より引用

参考までに苗穂工場の平面図をどうぞ。
この平面図にも「計画科事務所」の名称が載っています。



苗穂工場平面図(1983年4月)
国鉄苗穂工場(1983)『工場あんない』1983年度版より引用

こちらは国鉄末期、1983年4月当時の苗穂工場平面図。
計画科事務所が「本場事務所」と表記されています。


※写真は特記を除き2022年8月13日、北海道鉄道技術館の開館中に撮影
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最終更新日 : 2022-10-02

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