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2022-06-18 (Sat) 20:01

「保線区」から「保線技術センター」へ JR東日本の組織改革

青森保線技術センターab01
青森保線技術センターの社屋(2021年12月4日撮影)

結論から述べますが、JR東日本に「保線区」は一つも現存しません。
ただし保線を担当する現業機関が消滅したという訳ではなく、現在は「保線技術センター」が少数ながら各地に点在しています。
こう書くと「単に保線区が保線技術センターに改称しただけじゃないか?」と思われるかも知れませんが、実はそのような単純な話ではないのです。
今回はJR東日本における保線区の変遷について見ていきましょう。



国鉄における保線・土木の業務体制の変遷
国鉄における保線・土木の業務体制の変遷を示した図
小倉雅彦(1985)「保線・土木関係業務の改善」、『交通技術』1985年8月号(交通協力会)p.13より引用

元々、国鉄の保線区は線路・土木・営林・建築の4分野における保守管理を担当してきました。
それが1965年4月15日に建築が保線区から完全に切り離され、専門の現業機関である「建築区」に移管。
残る線路・土木・営林については1964年以降、保守近代化の名目で業務改善を重ねてきました。
このうち線路は随時修繕方式から定期修繕方式への転換を軸に、検査と作業の分離、保線機械の導入、単純作業の外注化などを実践。
土木・営林については直轄保安作業の廃止と外注化、検査と工事の融合、業務の簡素化・効率化といった変革に踏み切りました。

そして業務改善の都度、保線区の組織体制にも変化が生じていきました。
1964年4月1日開始の「軌道保守近代化」では、従前の線路分区・線路班による体制を、保線支区・検査班・作業班による体制に移行。
線路班が担ってきた検査・修繕は検査班と作業班に分担しました。
検査班は換算軌道キロ10~15kmおきに1班ずつ配置し、支区1ヶ所につき概ね3~5班を設けていました。
作業班は支区事務所に集約し、保守用車のオペレーター(保線機械掛)も配置して大単位集中作業としました。


東北本線 山田線 盛岡保線区 盛岡保線技術センター 盛岡駅 東北新幹線
盛岡保線技術センターbb01

盛岡保線技術センターbb02
東北新幹線高架下、盛岡駅第2北部ビルに入居する盛岡保線技術センター
国鉄時代・分割民営化当初の盛岡保線区をルーツに持つ(2022年5月2日撮影)

1981年7月1日には「土木及び営林保守体制近代化」の一環として、本区事務室の検査テーブルと工事テーブルを統合し「土木テーブル」に再編。
担当助役も検査助役と工事助役の2名から土木助役1名に削減しています。

1982年3月1日には保線支区の単調業務・波動業務を外注化し、直轄部門の検査班・作業班を「保線管理グループ」と「保線機械グループ」に再編しました。
保線管理グループは「保線管理室」と呼ばれ、担当区域内における軌道検査とこれに伴う簡易な修繕作業、検査データを基にした工事計画、外注工事の立会い・監督を担当。
当初は検査班時代と同じく換算軌道キロ10~15kmおきに1室ずつ配置しましたが、1985年4月3日に担当区域を延長し1室当たり15~30kmとしました。
保線機械グループは保守用車の運転による軌道補修工事を担当しました。

1987年4月1日、分割民営化によってJR7社が発足。
JR東日本は盛岡鉄道管理局・秋田鉄道管理局・仙台鉄道管理局・新潟鉄道管理局・長野鉄道管理局・高崎鉄道管理局・東京南鉄道管理局・東京北鉄道管理局・東京西鉄道管理局・千葉鉄道管理局・水戸鉄道管理局の計11局を継承し、各管内の保線区も一緒に引き継ぎました。



石巻保線区の看板as01
石巻線前谷地駅に残る「石巻保線区長」の記名入り看板(2022年5月3日撮影)

さて、こちらは前谷地駅の駅前西側にあるJR関係者用駐車場の注意書きです。
「ここは鉄道用地につき関係者以外駐車禁止です」と書かれた看板の右下には、管理駅の石巻駅長と共に「石巻保線区長」の記名があります。
この石巻保線区ですが、実は国鉄時代に存在しなかった保線区なのです。
元々、石巻線の保線は小牛田保線区が担当しており、1968年12月5日に軌道保守近代化の一環として「小牛田保線区石巻保線支区」を開設していました。
また、国鉄解体直前の1986年度には全国各地で保線区の統廃合が起こりましたが、それにも拘らず一体どうして分割民営化後に石巻保線区が発足したのでしょうか?



JR東日本の小保線区制
東日本旅客鉄道株式会社(2007)『東日本旅客鉄道株式会社二十年史』p.322より引用

その答えはJR東日本が会社設立1年目から実施した「小保線区制」にあります。
小保線区制とは従前の「本区事務室―保線支区―保線管理室/機械班」という体制(大保線区制)を改め、保線支区を廃止して「本区事務室―保線管理室/機械班」ないし「本区事務室―保線管理室」と組織を簡略化・小規模化した施策です。
これに先だって国鉄北海道総局が1986年8月1日、道内全域の保線区の支区制を撤廃し管理室制に移行していたので、この前例をJR東日本も多少は参考にしたものと思われます。

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 保線のメンテナンス体制は、保線区本区、保線支区、保線管理室の体制を引き継いで当社発足を迎えた。その後、組織の簡素化を図ると同時に、円滑で効率的な業務執行体制を確立する観点から、保線区組織のあり方について次の点を考慮して検討を行った。
・現場の実態が迅速かつ確実に把握でき、現場実態に適合した方法でタイムリーな保守が計画・実施できる体制でなければならない
・機械グループおよび管理グループにより直営で行う軌道保守作業が、円滑で効率的にできる体制でなければならない
・社員管理、線路管理、予算管理および工事管理が、きめ細かくできる体制でなければならない
このため、より現場の実態にマッチしたきめ細かい管理を実施すること、および本区と支区の重複作業を解消して効率的な業務運営を行うことを目的として、保線支区を廃止した上で保線区の規模を小さくする「小保線区制」を導入することとした(図1)。
 小保線区制は、1987年度に新潟支社および千葉支社の一部で実施し、その他の箇所は1988年度に実施した。

《出典》
東日本旅客鉄道株式会社(2007)『東日本旅客鉄道株式会社二十年史』p.322
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ところで上に引用した図をご覧下さい。
これによると会社発足時(大保線区制)の保線区は合計65ヶ所ですが、小保線区制への移行後は合計113ヶ所となっており、何と2年間で48ヶ所もの保線区が新設された事になるのです。
この保線区の増加は国鉄北海道総局の前例と一線を画しています。
一方、表中に「管理班」と表記している保線管理室は移行前594班に対し、移行後は497班で実に97ヶ所も減少。
機械班についても移行前219班、移行後199班で20班も減少しています。
これらの点から保線区1ヶ所当たりの担当区域は短縮したものの、管理室・機械班単位で見ると1班当たりの業務量は寧ろ増加した事が読み取れます。

なお、首都圏では保線駐在4ヶ所を新設していますが、この保線駐在とはもとい1982年3月に大ヤードの保線のみを担当するべく誕生した組織です。
ただし1984年2月1日ダイヤ改正に伴い操車場は軒並み廃止されています。
そもそも国鉄時代の操車場は大半が貨車ヤードですし、JR東日本が保線駐在を新設した理由がよく分かりません。
構内の線路本数が特に多い運転関係区所にでも配置していたのでしょうか?



一関施設区の看板bb01
一ノ関運輸区の駐車場出入口に残る「一関施設区長」記名の注意書き(2022年5月2日撮影)

小保線区制を導入したJR東日本は間髪入れず、1989年に新たな現業機関として「工務区」「施設区」の設置に踏み切りました。
「工務区」は保線区と電気関係区所(電力区・信号通信区・電気区など)を統合した組織で、JR東海も同名の現業機関を設置していますし、JR北海道で言えば「工務所」が相当しますね。
「施設区」はJR貨物が会社発足に伴い全国各地に設置したのと同様の組織で、保線区に建築区・機械区の一部業務を統合しています。

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 当初は会社発足以来、基本的に部門別の組織形態での保守管理を行ってきたが、設備レベルや保守密度が低い線区の場合には、部門別組織形態では保守エリアが広くなり、移動ロスによる作業効率の低下や、部門間相互の境界部分での調整割合が高くなる等の問題も生じていた。
 このような観点から、それぞれの線区における設備レベルや保守密度等の特性を考慮し、施設・電気部門を統合した工務区、施設各部門を統合した施設区、電気各部門を統合した電気区を設立した。
 また、土木、建築、機械設備については、日常保守業務を施設区、工務区等で実施し、高度な技術判断や大規模な設備改良等を要する業務は、専門技術者を集中配置した、土木、建築、機械の各技術センターを原則各支社1箇所設置して対応することとした。

《出典》
東日本旅客鉄道株式会社(2007)『東日本旅客鉄道株式会社二十年史』p.322
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JR旅客会社・保線区の職制
JR旅客6社の発足時における保線区の職制
構造物検査センター、レールセンター、営林区、工事区と共通にしている
国鉄労働組合東日本鉄道本部(1987)『就業規則Q&A 新会社の就業規則の特徴と具体的問題点』p.66より引用

工務区・施設区の設置に伴い施設関係の職制改正も為されています。
元々、JRの職制はJR貨物の施設区やJR北海道の青函連絡船といった例外を除き、各社共通で内容を定めていました。
以下に保線区・建築区・機械区における各職名の職務内容を抜粋しましょう。

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【区(所)長】
区(所)業務全般の管理及び運営

【支区(所)長】
支区(所)業務全般の管理及び運営

【助役】
区(所)長又は支区(所)長の補佐又は代理

【事務主任】
事務係の業務及び指導並びにその計画・調整業務
その他上長の指示する業務

【事務係】
庶務、経理、資材及び契約に関する業務
その他上長の指示する業務

【施設技術主任】
施設技術係、施設係の業務及び指導並びにその計画・調整業務
その他上長の指示する業務

【施設技術係】
施設係の業務及び指導
その他上長の指示する業務

【施設係】
線路・建造物の保守、用地の管理及び工事施行に関する業務並びにこれらに附帯する業務
その他上長の指示する業務

【建築技術主任】
建築技術係、建築係の業務及び指導並びにその計画・調整業務
その他上長の指示する業務

【建築技術係】
建築係の業務及び指導
その他上長の指示する業務

【建築係】
建築物の保守、用地の管理及び工事施行に関する業務並びにこれらに附帯する業務
その他上長の指示する業務

【機械技術主任】
機械技術係、機械係の業務及び指導並びにその計画・調整業務
その他上長の指示する業務

【機械技術係】
機械係の業務及び指導
その他上長の指示する業務

【機械係】
機械設備の保守及び工事施行に関する業務並びにこれらに附帯する業務
その他上長の指示する業務

《出典》
国鉄労働組合東日本鉄道本部(1987)『就業規則Q&A 新会社の就業規則の特徴と具体的問題点』p.p.66,67
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JR東日本 職制 職名 職務内容 指揮命令系統 保線区 工務区 施設区 建築区 機械区
JR東日本・工務関係現業機関の職制(1996)ab01
東日本旅客鉄道株式会社(1996)『就業規則集』1996年8月版、p.31より引用

工務区・施設区の設置に伴う職制改正では、施設職・建築職・機械職の各職名を統合し、施設技術主任・施設技術係・施設係の3段階に一本化しています。
これはJR貨物の施設区と同様ですね。
以下に改正後の各職名の職務内容を引用しましょう。

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【施設技術主任】
施設技術係、施設係の業務及び指導並びにその計画・調整業務
その他上長の指示する業務

【施設技術係】
施設係の業務及び指導
その他上長の指示する業務

【施設係】
線路・建造物・建築物・機械設備の保守、用地の管理及び工事施行に関する業務並びにこれらに附帯する業務
その他上長の指示する業務

《出典》
東日本旅客鉄道株式会社(1996)『就業規則集』1996年8月版、p.31
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2020年4月1日に車掌職(主務車掌・主任車掌・車掌)と運転士職(主務運転士・主任運転士・運転士)を統合し乗務職(乗務主務・乗務主任・乗務指導係・乗務係)に改めた事で物議を醸したJR東日本ですが、実はそれより30年以上も前に保線・建築・機械を融合化するというウルトラCをやってのけた事はあまり知られていません。
それだけ世の鉄道ファンの多くは工務関係の話題に無関心と言える訳ですが・・・。


小牛田保線区 小牛田保線技術センター 石巻線
小牛田保線技術センターa01

小牛田保線技術センターa02
小牛田保線区を前身とする小牛田保線技術センターの社屋と表札(2022年5月3日撮影)

そして2001年10月1日、JR東日本は「設備部門におけるメンテナンス体制の再構築」を開始。
会社設立15年目にして施設系統の抜本的な改革に踏み切りました。
この施策はJR関係者の間で「設備21」とも呼ばれています。

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(4)メンテナンス体制の再構築
①基本的な考え方
 少子・高齢化が進展し、鉄道収入の飛躍的な伸びが期待できない中で、当社が将来にわたって競争力を維持し発展していくためには、設備メンテナンスに関わる最優先技術の導入・対応によるなお一層の安全性向上と効率化が喫緊の課題となっていた。また、設備メンテナンスを支える社員の高齢化と大量退職期を迎えるにあたり、当社だけでなく、パートナー会社を含めた企業グループ全体として、技術を維持・継承し、同時にシニア社員の雇用の場を確保することも急務となっていた。
 そのような中で、会社の発足後、設備部門においては諸施策を立ち上げ、省力化設備の整備、作業の機械化、検査の自動化、安全の装置化、業務のOA化等を図り、21世紀にふさわしい鉄道メンテナンスシステムの構築に取り組んできた。
 これまでの取り組みをもとに、より高度な技術への対応と確かな技術力に基づく鉄道システムの安全レベルの向上、これらを支える社員の働きがいの創出、技術継承と設備メンテナンス総量の縮減をめざし、2001年10月の新潟支社から設備メンテナンス体制の再構築を図った。
②設備メンテナンス業務の見直し
1)設備強化、自動化、装置化
 TC型省力化軌道、電路設備のインテグレード化、電子連動化、電子踏切化などの設備強化策を進めるとともに、電気・軌道総合検測車、定常状態監視装置の拡大、設備管理システムの更新・改修を進める。
2)検査体制の再構築
 従来の枠組みを見直し、線区の実態に応じた検査体制とするための再構築・体制整備を行う。
3)工事制度(設計、契約方式、監督体制)の再構築
 線閉責任者の資格対象者の拡大、調査・設計業務における部外能力活用の導入、複合発注や単価契約の拡大などを行う。
4)業務区分の適正化
 「当社は設備管理の技術集団、パートナー会社は施工に関する技術集団」の考え方に基づき、MTT(マルチプルタイタンパ)作業や検査修繕工事などパートナー会社への業務移管を拡大する。

《出典》
東日本旅客鉄道株式会社(2007)『東日本旅客鉄道株式会社二十年史』p.p.325,326
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電力技術センター 信号通信技術センター 建築技術センター 機械技術センター 土木技術センター
JR東日本・設備部門におけるメンテナンス体制の再構築
東日本旅客鉄道株式会社(2007)『東日本旅客鉄道株式会社二十年史』p.326より引用

引用文のとおり「設備部門におけるメンテナンス体制の再構築(設備21)」は施工の全面外注化が肝となっています。
当然ながら直轄作業や外注工事の監督をしてきた保線区も大幅に改組する事となりました。
なお、組織改革の対象は保線区だけではなく、建築区・機械区・電力区・変電区・給電区・信号通信区・電気区も技術センター化したほか、工務区・施設区といった業務統合組織が完全消滅しています。

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③業務執行体制
1)技術センターの設置
 以下の2点を主な目的として、現行の工務区、施設区、保線区、新幹線保線区、電気区、変電区、給電区、信号通信区、通信区を廃止し、技術センターを設置する。
・高度な技術への対応・技術継承を行うために、技術部門ごとに技術者を集中配置して、質の高い業務が可能となる体制とする。
・複数の拠点に分散していた業務を技術センターに統合することにより、効率性を高めると共に、業務の均質化を図る。
2)各部門の基本的な業務執行体制
A 保線部門(図2)
・現行の現業区をできる限り統合した技術センターを複数配置する(管理室・機械グループは廃止する)。
・必要により暫定的に派出を配置する。
・精算、技術管理、教育等の業務は、特定の技術センターで集中して行なう。
・新幹線は新幹線専門の技術センターとする。
B 土木、建築、機械部門
・基本的に1支社1技術センターとする。
・必要により派出を配置する。
・工務区等の土木、建築、機械関係業務は、部門ごとの技術センターに集約する。
C 電気部門(図3)
・電力、信号通信の部門ごとに配置し、基本的に1支社1技術センターとする。
・検査、障害対応等を行うため、技術センターの下に必要によりメンテナンスセンターを配置する。
・新幹線、電車線、配電、変電、給電、信号、通信は専門の技術センターを必要により配置する。

《出典》
東日本旅客鉄道株式会社(2007)『東日本旅客鉄道株式会社二十年史』p.326
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東能代保線区 東能代保線技術センター 奥羽本線 羽越本線
東能代保線技術センターab01
東能代駅の西側にある東能代保線技術センター(2021年12月6日撮影)

「設備21」では従前の保線区を統廃合し「保線技術センター」に大幅改組。
加えて保線から土木を切り離し、専用の現業機関である「土木技術センター」を立ち上げました。
なおかつ社員の常駐箇所を極限まで削減し、施工を全面的に外注化して直轄作業を原則廃しています。

具体的には保線区の下部組織で担当区域内の軌道検査、工事計画(年間・月間)、施工管理を担当した「保線管理室」、保守用車の運転による機械保線を担当した「機械班」を全て廃止。
これら下部組織が担ってきた業務は一次請けの各建設会社、即ち東鉄工業㈱、仙建工業㈱、第一建設工業㈱㈱交通建設、ユニオン建設㈱の5社に外注化しました。
そして保線技術センターは工事監理、関係各所との工事スケジュール調整、集めた検査データの分析と工事発注、請負業者を対象とした講習会・訓練などをしています。
つまりJR社員(施設職)の仕事は管理業務・デスクワークが主体となった訳です。



JR東日本・保線技術センターの職制a01

保線技術センターでは運転関係区所(運転区・運輸区など)と同様に科長制を敷いています。
科長制とは国鉄時代の1960年代に始まった管理制度で、区所内の部門を「科」と称し助役1名を部門長(科長)に指定します。
保線技術センターの場合、大抵は庶務・経理・資材管理を司る「総務科」、各現業機関や請負業者など関係先と工事スケジュール調整を行なう「企画安全科」、軌道検査データの分析と請負業者への修繕要請を担当する「線路科」の3部門を抱えています。
センターによっては遠隔地に派出やエリアセンターを設けて線路科の一部業務を分担する所や、線路科を線路1科・線路2科というように分割する所もあります。
また、保線技術センターの中にも「格」があり、支社の代表的なセンターは各所員・請負業者に対する安全教育・技術指導を担当する「技術教育科」を設けています。



仙建工業の排雪モーターカーas01
仙建工業㈱青森出張所の排雪モーターカーロータリー・HTR600R
機械番号「S0911R」の「S」は「Senken」、「R」は「Rotary」を意味する(2021年12月4日撮影)

JR東日本から工事を受注する一次請けの建設会社は、東鉄工業㈱、仙建工業㈱、第一建設工業㈱、㈱交通建設、ユニオン建設㈱の5社。
実を言うとこれら企業は国鉄時代から線路・土木構造物・建築物の新設・改良・補修工事を受注しており、このうち東鉄工業、仙建工業、第一建設工業の3社は戦時中の鉄道輸送を守るべく設立された「国策会社」だったのです。
何れの会社も保線技術センターの開設に伴い、従前の保線区機械班が担当してきた保守用車の運転を受託しています。



東鉄工業のマルタイ(東福島駅)b01
東北本線東福島駅に留置されていた東鉄工業の保守用車群(2022年5月4日撮影)

東鉄工業㈱は1943年7月7日設立で、当時の国鉄東京鉄道局の略称「東鉄」から社名を取っています。
主に関東・甲州で鉄道施設の施工を受注しており、「TOTETSU品川RCセンター」での砕石リサイクル事業も手がけています。
かつては都営地下鉄浅草線の建設工事にも携わりました。
現在はJR線に限らず、都電、都営地下鉄、東武鉄道、京王電鉄、東急電鉄、相模鉄道、横浜市営地下鉄などの施工も受注しています。



仙建工業仙台出張所bb01

仙建工業仙台出張所bb02
東北本線陸前山王駅の西にある仙建工業㈱仙台出張所(2022年5月3日撮影)

仙建工業㈱は1942年8月18日設立で、一次請け5社の中では最も古い会社です。
「仙」の字が表すとおり仙台に本社を構え、東北地方の太平洋側(青森県東部・岩手県・宮城県・福島県)で鉄道施設の新設・改良・補修工事を受注しています。
受注先はJRのみならず、阿武隈急行、福島臨海鉄道、仙台市営地下鉄、三陸鉄道、IGRいわて銀河鉄道、青い森鉄道、八戸臨海鉄道などがあります。
また、東北4県の軌道工事業者が連帯する「みちのく軌道会」の幹事でもあります。


信越本線
第一建設弘前工事所ab01
弘前駅の南にある第一建設工業㈱弘前工事所・弘前土木工事所(2021年12月4日撮影)

第一建設工業㈱は1942年9月23日設立で、旧社名は国鉄新潟鉄道局の略称を冠した「新鉄工業㈱」です。
新潟駅前に本社を構え、信越(長野県・新潟県)、東北地方の日本海側(青森県西部・秋田県・山形県)で鉄道施設の新設・改良・補修工事を受注しています。
2011年3月11日の東日本大震災で被災した仙石線の復旧工事にも携わりました。
また、新潟・長野・山形・秋田4県の軌道工事業者が連帯する「いちけん軌道会」の幹事でもあります。
鉄道以外では新潟県庁現庁舎の建設工事にも携わっており、新潟の有力ゼネコンとして名を馳せています。



交通建設のマルタイaa01㈱交通建設が保有するマルタイ「B45UE」
東日本旅客鉄道株式会社(2007)『東日本旅客鉄道株式会社二十年史』p.281より引用

㈱交通建設は1944年7月設立の㈱旭工業社、1950年2月設立の潤生興業㈱(旧社名:東鉄退職者潤生会)が1992年4月に合併して発足した会社です。
山手線新大久保駅前に本社を構え、関東で鉄道施設の新設・改良・補修工事を受注。
JR線をはじめ私鉄各社、地下鉄の保線に携わっています。



ユニオン建設一関出張所ab01
一ノ関運輸区の南にあるユニオン建設㈱一関出張所(2022年5月2日撮影)

ユニオン建設㈱は1953年3月創業の飯田建設㈱を前身とし、同社で国鉄線の工事に携わってきた社員15名が1958年9月11日に共同設立した会社です。
JR東日本を主要株主に持ち、中目黒に本社を構えています。
親会社に加えてJR貨物、西武鉄道、青い森鉄道、つくばエクスプレス、東京臨海高速鉄道、新京成電鉄などから鉄道施設の新設・改良・補修工事を受注。
南関東をメインに福島県、岩手県、青森県、秋田県でも事業展開しています。



古川興業の求人ポスターa01
仙建工業の協力会社・古川興業㈱の求人ポスター(2022年5月4日撮影)

この他にも一次請けと工事契約を結び、JR線の保線作業に当たる下請け業者が多数存在します。
㈱三森総業、交新建設㈱、友部軌道工業㈱、シビル旭㈱、㈱大鐵、共進建設㈱、福島軌道工業㈱、㈲東和軌道、古川興業㈱、㈱木村工業、㈲東軌建設、盛岡軌道工業㈱、㈱山庄建設、㈱羽沢建設、東部建設、㈱升澤組などなど。
各社では保線スタッフとして正社員や軌道工(日給月給制の保線作業員)を募集しています。
中でもシビル旭は女性軌道工を積極的に採用しており、今や保線の現場にも女性進出の流れが起きています。



一ノ関保線区水沢保線支区bb03

一ノ関保線区水沢保線支区bb01
廃止済みの一関施設区水沢管理室(2022年5月2日撮影)

小保線区制の完全移行時(1988年度末)は113ヶ所あった保線区ですが、「設備21」実施後の保線技術センターは合計64ヶ所。
各地に点在した保線管理室や機械班も全廃となり、以前に比べて保線社員の常駐箇所が激減しました。
しかし保線管理室の建物は沿線に多く残っています。
こちらは東北本線水沢駅の北にある旧一関施設区水沢管理室です。
水沢管理室は国鉄時代の1968年4月1日に発足した一ノ関保線区水沢保線支区をルーツに持ちます。



一ノ関保線区水沢保線支区bb02
旧一関施設区水沢管理室の玄関に掲げた表札(2022年5月2日撮影)

玄関には「一ノ関保線技術センター休憩室」との表札を掲げています。
旧水沢管理室に常駐する係員こそ一人も居なくなりましたが、近隣で軌道検査や軌道補修工事などを実施する時に休憩所として活用しているんですね。



旧一関保線区千厩保線支区a01
廃止済みの一関施設区千厩管理室(2022年5月2日撮影)

こちらは大船渡線千厩駅の東にある旧一関施設区千厩管理室。
千厩管理室は1969年4月1日開設の一ノ関保線区千厩保線支区を前身とします。
現在はユニオン建設一ノ関出張所の作業場に転用されており、線路側の外壁にも「ユニオン建設㈱」の看板を掲げています。
このように保線管理室が軌道工事業者の社屋として再利用されるケースもありますね。



大曲保線区角館保線管理室a01

こちらはGoogleマップ・ストリートビューからの引用ですが、田沢湖線角館駅の南にある保線の詰所です。
構内の駐車場には第一建設工業のダブルキャブトラックが停まっていますね。
保線の現場にダブルキャブは欠かせません。



大曲保線区角館保線管理室a02

道路沿いの表札に注目!
何と「大曲保線区角館保線管理室」と「大曲工務区角館管理室」、両方の名前が被さっているではありませんか!!
見たところ「大曲工務区角館管理室」の字が経年劣化で薄れており、その上に「大曲保線区角館保線管理室」と書き足した模様。
どうやら大曲保線区は一旦工務区に改組されたものの、結局は元通りの保線区に改組され直したようです。
そして「設備21」の実施により大曲保線区は大曲保線技術センターに生まれ変わり、かつての角館保線管理室は請負業者の休憩所となった訳ですね。



大曲保線区角館保線管理室a03
(2021年12月5日撮影)

この表札を是非とも間近で見たいと思い、現地に足を運んでみたら・・・残念ながら撤去済みでした。
冬季の旧角館保線管理室は除雪作業員の詰所となります。



仙建工業青森土木出張所・青森新幹線出張所a01
青森駅の西にある仙建工業㈱青森土木出張所・青森新幹線出張所(2021年12月4日撮影)

保線区の保線技術センター化は大きな問題点を生み出しました。
それは大半の現場業務が請負業者に移管されたために、JR社員(施設職)が現場に出向く機会が少なくなってしまった事です。
施工のみならず軌道検査でさえも、ごく一部を除いて請負業者に任せるようになりました。
すると「設備21」以降に入社した若手は工事監督的なポジションにも拘らず「現場に行っても線路故障の原因や状態の良し悪しが分からない」「現場に行けと指示されても場所が分からない」など、異常時・障害時の対応に強い不安を感じるようになってしまったのです。
しかも拠点を大幅に減らしたがゆえ業務過多に陥り、ベテラン社員も若手を教育する時間が取れず技術継承に支障が出ました。
おまけに請負業者は一気に受注量が増加したため、保線作業員の10日間連続勤務(うち8日間は夜勤)など劣悪な労働環境を生み出す事態にもなりました。



八戸新幹線保線技術センターc01
八戸駅の北にある八戸新幹線保線技術センター(2022年5月1日撮影)

これらの弊害は輸送障害件数にも現れていると思います。
「部内原因」とは社員のミスや設備・施設の故障を意味しており、JR東日本は全鉄道事業者の中でもトップクラスに件数が多いのです。
世界的にも特に大規模な鉄道会社で、年間100件近い部内原因の施設障害が起きている事実には誰もが驚くでしょう。



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弘前駅の南にある弘前保線技術センター(2021年12月4日撮影)

2022年3月12日には「現業機関における柔軟な働き方の実現」施策に乗り出し、新たな現業機関として「統括センター」「営業統括センター」を開設したJR東日本。
保線技術センターの係員についても統括センター等と連携させ、場合によっては本務以外の業務(駅業務や生活サービス等)にも就かせる事としています。
会社側は全系統の職制も融合化して社員の総ゼネラリスト化を狙っていますが、それよりも鉄道会社としてやるべきは安全安定輸送の確保ではないかと思います。
かつてJR東日本に先駆けて「業務の融合化」を実践したJR西日本やJR北海道でさえ、その後に発生した事故の反省で専門性重視に方向転換しています。
保線を蔑ろにする経営方針は如何なものか・・・。


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最終更新日 : 2022-06-26

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