タタールのくにびき -蝦夷前鉄道趣味日誌-

現在、札学鉄研OB会ブログから筆者投稿の記事を移転中です

Top Page › 北海道 › 札幌市電248号車が幌北電車庫跡に出現 静態保存の道産電車
2022-04-30 (Sat) 21:51

札幌市電248号車が幌北電車庫跡に出現 静態保存の道産電車

札幌市電240形248号車(札幌サンプラザ)a02

札幌市電では“親子電車”ことM100形M101号車が2021年10月31日を以って引退し、市電沿線の住民や鉄道ファンから注目を集めました。
子のTc1号車と合わせて2両しか製造されなかった希少車種で、しかも昭和時代の標準塗装だったモスグリーンとデザートクリームのツートンカラーを纏った最後の現役車両でした。
そんなM101号車の陰に隠れがちですが、実は長年に渡り最大勢力だった“道産電車”も新型車両1100形に置き換えられつつあります。



札幌市電240形248号車(札幌サンプラザ)a05

道産電車とはその名のとおり北海道で生まれた電車の事。
特に札幌綜合鉄工共同組合が1957~1961年の4年間に渡り、札幌市電向けに製造した43両を指します。
札幌綜合鉄工共同組合は札幌市内に本社を置く苗穂工業㈱(現:札幌交通機械㈱)、泰和車輛工業㈱、運輸工業㈱、藤屋鉄工㈱(現:富士屋鉄工㈱)、豊平製鋼㈱の5社が市電車両の製造を目的に設立した共同企業体です。
これら企業は元から簡易軌道(殖民軌道)や森林鉄道の車両を製造したり、国鉄・私鉄の車両整備に携わるなどしていました。


JR北海道 国鉄 札幌市電 札幌市交通局 札幌市営地下鉄 路面電車 車両基地 静態保存車両
札幌市電240形248号車(札幌サンプラザ)a20

最初に受注したのは200形で、1957年12月~1958年6月の約半年間で合計8両を納入。
それから間髪入れず、日立製作所製の330形を模した洋風デザインの210形を受注し、1958年11月・12月の2ヶ月間で一気に6両も製造しています。
「札幌スタイル」と称される丸みを帯びた車体は利用客にも好評だったので、その後は同一仕様で220形8両、230形8両、240形8両を量産。
1961年6月製造の250形5両はマイナーチェンジを行ない、全長を伸ばしつつも車高を下げ、よりスマートな姿になりました。

しかし札幌市交通局は1961年7月製造のM100形・Tc1形から、再び本州メーカーに新車を発注するようになりました。
これに伴い札幌綜合鉄工共同組合が新車の製造を受注する事は無くなり、600形の車体更新工事、570形・580形の連接車化改造(A850形2連5本)などを経て1965年に解散しています。


幌北車庫
札幌市電240形248号車(札幌サンプラザ)a18

1970年代初頭はモータリゼーションの進展により、全長25kmの市電路線網が縮小された時期。
路線の廃止が進む中、1971年10月に最初の道産電車である200形は8両全て廃車されました。

一方、他の道産電車は市電路線網の縮小後も大半が廃車を免れ、21世紀を迎えてからも札幌市電の主力であり続けました。
しかし2020年9月、遂に240形242号車が老朽化を理由に廃車。
続く2021年9月には210形213号車、240形248号車の2両が廃車されています。



札幌市電・電車事業所aas09
廃車後、電車事業所の旧洗車場に留置されていた248号車(2022年3月20日撮影)

2022年4月現在、既に7両が導入済みですが、このうち1101号車は2018年製造ですから増備計画の14両に含まれません。
それを差し引くと残る増備予定両数は8両となります。

今後も着々と数を減らしていく事になる道産電車。
札幌の街を60年余りもの歳月をかけて走り続けた電車を保存しようと立ち上がったのは、北区屯田の建設会社・㈱北創の角川幸治社長です。
角川社長は1974年5月1日に全廃された鉄北線の沿線で生まれ育ち、幼少から南北に走る路面電車と幌北電車庫を見てきたといいます。



札幌市電240形248号車(札幌サンプラザ)a27

角川社長は2両とも落札する事に成功。
248号車については北24条商店街振興組合に「車両の里帰り」を提案し、これには組合側も「歴史を守り継承していきたい」と応じました。
そしてクラウドファンディングで静態保存に係る諸費用を募った後、角川社長から北24条商店街振興組合に248号車を寄贈。
鉄北線廃止から48年の歳月を経て「にーよん」の街に路面電車が帰りました。



札幌市電240形248号車(札幌サンプラザ)a19

かつての鉄北線の中枢だった場所に帰った路面電車・・・何とドラマチックな展開でしょうか!



札幌市電240形248号車(札幌サンプラザ)a01

私も移設から2日後の4月29日、現地の様子を見に行ってきました。
地下鉄南北線の北24条駅から徒歩4分、札幌サンプラザの屋外広場に鎮座した248号車を確認。
近隣住民の人達も出現したばかりの路面電車に注目していました。
たまたま通りかかった50代くらいのお母さんは「あら懐かしい。私が小さい頃は北大まで走ってたんだよ」と20代前半くらいの息子さんに説明していましたね。
部活に向かう途中の中学生は交差点の信号待ちで、何度も電車の方を物珍しそうに振り返っていました。
世代による反応の違いが面白いですね。



札幌市電240形248号車(札幌サンプラザ)a03

札幌市電240形248号車(札幌サンプラザ)a04

248号車の周囲には鎖が張られており、車内は公開していませんでした。
地元の老夫婦は「電車の中も見せてくれたら良いのに」と語り合っていましたね。
なお、今後は鉄道ファン向けのイベント、商店街の会合・レクなどで車内を開放する予定だそうです。



札幌市電240形248号車(札幌サンプラザ)a06

248号車は1994年8月に札幌交通機械で車体更新を施しており、オデコに大きな換気口を付け、前照灯を窓下に2つ並べた顔立ちに変貌しました。
角川社長によると将来的な目標として、鉄北線当時の「赤帯」のフォルムに戻す事も見据えているそうな。
つまりオデコと窓下にそれぞれ1つずつ前照灯を配置した、更新前のオリジナルの顔に戻す可能性があるのです。
私も幼少期に更新前の道産電車を見た世代なので、これはかなり楽しみですね!
ミュンヘン市電塗装の330形も懐かしいなあ。



札幌市電240形248号車(札幌サンプラザ)a07

保存決定に伴いLED式だった行先表示機も幕式に復元。
方向幕は「教育大学前」を示しています。
教育大学前電停は現在の中央図書館前電停に当たります。
今は札沼線沿線のあいの里にある教育大学ですが、かつては山鼻にキャンパスを構えていました。



札幌市電240形248号車(札幌サンプラザ)a08

札幌市電240形248号車(札幌サンプラザ)a13

車両の反対側に回り込んでみましょう。



札幌市電240形248号車(札幌サンプラザ)a09

何とこちらの方向幕は「②循環線 教大←西4→教大」を示しています。
これは1971年12月16日~1973年3月31日の2年3ヶ月間、駅前通の西4丁目線を僅かに残して環状運転をしていた頃の方向幕ですね。
西4丁目線は1973年4月1日を以って廃止されたため、こんな方向幕が綺麗な状態で保存されていた事にただただ感動しました。
なお、この環状運転の廃止から42年後、2015年12月20日に駅前通の線路が「副都心線」として復活。
市電のループ化が再び実現しています。



札幌市電240形248号車(札幌サンプラザ)a11

側面窓は昭和30年代に多く見られた「バス窓」。
上段窓をHゴムで固定し、下段窓を開けられるようにしています。
戸袋窓や中ドアさえもバス窓に合わせた窓配置です。



札幌市電240形248号車(札幌サンプラザ)a12

中ドアの上左右には札幌市交通事業振興公社(略称:STSP)のロゴマークとQRコードが付いています。
札幌市電は2020年4月1日付で上下分離方式に移行し、車両・施設を札幌市交通局が保有し、運行管理・車両検修・施設保全をSTSPが担う体制になりました。



札幌市電240形248号車(札幌サンプラザ)a14

今や貴重なZパンタ。
昔はZパンタが路面電車の象徴的な装備といっても過言ではありませんでしたね。
ここ数年は道産電車の中にも、集電装置をシングルアームパンタに換装した車両が見られるようになってきました。



札幌市電240形248号車(札幌サンプラザ)a15

レールは車輪と接する箇所だけ敷いており、ブツ切りになっています。



札幌市電240形248号車(札幌サンプラザ)a16

車輪にはワイヤー付きの車輪止めをかませています。



札幌市電240形248号車(札幌サンプラザ)a17

248号車の傍は札幌サンプラザの業務用入口となっており、資材や食材などを納品する業者の自動車も出入りします。
観覧の際はくれぐれもご注意ください。



札幌市電240形248号車(札幌サンプラザ)a21

札幌サンプラザの東側には西5丁目・樽川通が延びています。
この道路が鉄北線の廃線跡です。



札幌市電240形248号車(札幌サンプラザ)a22

西5丁目・樽川通の路面をよく見ると、車道の中心に向かって盛り上がっているのが分かりますね。
この傾斜の仕方は鉄北線の道床を埋め込んだ痕跡だと思います。
旅行ジャーナリストの林順信(はやし・じゅんしん)さんも「市電の廃線跡は線路をそのままアスファルトで埋め立てた所が多い」と仰っていました。
『都電が走った街 今昔』、オススメです。



札幌市電240形248号車(札幌サンプラザ)a23

札幌市電240形248号車(札幌サンプラザ)a24

現在は鉄北線の北24条電停に代わり、バス停の北24条西5丁目停留所が置かれています。
北海道中央バスとジェイ・アール北海道バスが発着します。



札幌市電・電車事業所aas03
廃車後、電車事業所の旧洗車場に留置されていた213号車(2022年3月20日撮影)

角川社長が落札したもう1両、213号車は㈱北創の敷地内に設置されています。
こちらはクラウドファンディングの出資者を対象に、中吊り広告の出稿、車体側面への企業スポンサー看板掲載といったイベントを企画しているとの事。
近いうちに見に行ってみたいですね。


※写真は特記を除き2022年4月29日撮影
スポンサーサイト



最終更新日 : 2022-04-30

Comment







管理者にだけ表示を許可