引退後は札幌市営地下鉄南北線自衛隊前駅の南にある「札幌市交通資料館」で静態保存する予定です。
一方、子に当たるTc1形Tc1号車は1970年10月、M101号車のワンマン化改造に伴い早めに引退しており、交通資料館がオープンした1975年5月から屋外展示されています。
そして親のM101号車を交通資料館に迎えるに当たり、子のTc1号車にお色直しを施した・・・という話を最近知ったので、様子を見に行ってきました。
JR北海道 国鉄 札幌市電 札幌市交通局 路面電車 連結車 親子電車 Tc-1形 Tc-1号車 博物館
交通資料館は地下鉄南北線の高架下にあり、高架線の補強工事に合わせて2017年10月から休館が続いています。
なので高架線に並行する公道から、柵ごしにTc1号車を眺めるしかありません。
聞けば2020年8月に塗装更新を実施したといい、私は1年近く経ってようやくその事実を知った訳です。
長期休館中ゆえに「行ってみよう」という意識が無かったものですから、全く知る由もありませんでしたね。
南北線地上区間の界隈だと南平岸駅前の「らーめん つけ麺 NOFUJI」、澄川駅近くの「麺処まるはRISE」と「コーチャンフォー ミュンヘン大橋店」くらいしか通う所が無いしなあ・・・。
そう言えば中の島にあった「麺処まるはBEYOND」も最近、南平岸駅前に移転しましたね。
至近距離に人気ラーメン店が2つもある南平岸駅。
JR北海道 国鉄 札幌市電 札幌市交通局 路面電車 連結車 親子電車 Tc-1形 Tc-1号車 新塗装
話を戻して、Tc1号車の塗装を眺めましょう。
休館前の姿を知る者からすると、確かに見違えるほど綺麗な姿になっていますね。
車体の上半分をデザートクリーム、下半分をモスグリーンとしたツートンカラーは1958年導入の330形が初めて纏ったもので、1980年代前半まで札幌市電の標準塗装となりました。
親子電車も1961年のデビュー当時から、この標準塗装に彩られています。
中には550形や600形、320形のように、標準塗装への塗り替えと共に白帯を引いた車両も見られました。
ただし親子電車の場合、当初から上下ツートンの間に白帯を引いていたという訳ではありません。
M101号車は1970年10月にワンマン化しており、その時にワンマンカーの識別用として朱色の帯が加わりました。
ボギー車のワンマン化改造は1971年までに完了。
その後、1976年7月に連接車が運行を終了すると、全車ワンマンカーでの運行に切り替わったため、朱色の帯も白く塗り替えられたという訳です。
札幌市電 路面電車 連結車 親子電車 Tc-1形 Tc-1号車 両開き戸 両開きドア 両開戸 廃車
白帯追加の経緯を知った上で、お色直ししたTc1号車を眺めたら「おかしい」と思いませんか?
そう、全車ワンマン化より6年も前に引退したTc1号車が、現役時代には無かった白帯を引かれてしまっているのです。
JR北海道 国鉄 札幌市電 札幌市交通局 路面電車 連結車 親子電車 Tc-1形 Tc-1号車 旧塗装
2017年9月30日撮影
こちらは交通資料館の休館前に撮影したTc1号車。
デザートクリーム・モスグリーンのツートンは経年劣化により塗装が薄れているため、元々の色の濃さは塗り直し後と概ね同様だったのでしょう。
しかし上下ツートンの間に白帯は入っていませんでした。
JR北海道 国鉄 札幌市電 札幌市交通局 路面電車 連結車 親子電車 Tc-1形 Tc-1号車 旧塗装
2017年9月30日撮影
連結器側もこんな感じ。
白帯など何処にも引かれていません。
JR北海道 国鉄 札幌市電 札幌市交通局 路面電車 連結車 親子電車 Tc-1形 Tc-1号車 新塗装
これは一体どうした事か?
塗装変更後のTc1号車の手前に解説板があるのですが、よく見るとその下に何やら看板が増設されています。
柵越しにカメラをズームしてみましょう。
JR北海道 国鉄 札幌市電 札幌市交通局 路面電車 鋼製2軸ボギー電動客車
「鋼製2軸ボギー電動客車(TC1)」の解説板は休館前から存在するもので、これ自体は特に内容が変わっていません。
その下に追加された看板には「塗装ボランティア事業 札幌塗装工業協同組合 令和2年8月寄贈」とあります。
やはり2020年8月に塗装変更をしたという話は本当だったんですね。
JR北海道 国鉄 札幌市電 札幌市交通局 路面電車 連結車 親子電車 Tc-1形 Tc-1号車 新塗装
問題はその更に下に追加された解説文。
写真だと雑草が被って見づらいので、以下に文面を書き起こしましょう。
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このTC1の車体の色は、親子電車として運行していた当時(1960~1970年)の色とは異なりますが、今も単独で運行している親のM101が2021年度に営業運行を引退し、交通資料館に移設される予定であるため、親のM101と同じ色に、札幌塗装工業協同組合の皆さんにボランティアで塗装していただきました。
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・・・マジ!?
何と「親子電車として運行していた当時(1960~1970年)の色とは異なる」と知っていながら、現在運行中のM101号車と同じ塗装に仕立てたというのです!
いやいや、歴史保存の観点からするとそれはおかしいでしょう。
札幌市交通資料館を運営しているのは札幌市交通局ではなく、外郭団体の(一財)札幌市交通事業振興公社です。
同公社は英語表記を「Sapporo Transportation Service Promotion Corporation」としており、4つの単語の頭文字を取った「STSP」を公式の略称としています。
STSPは1988年11月に乗車券発売所や忘れものセンター等の業務委託先として発足し、以降は地下鉄駅で無料配布する地域情報誌『ウィズユー』の編集・発行、交通局職員が着用する制服の貸与業務受託、地下鉄3路線全49駅の管理業務受託・・・と業務範囲を拡大してきました。
その中には札幌市交通資料館の運営も含まれています。
STSP委託後の交通資料館を語る上で、忘れてはならないのが「2007年の悲劇」。
日本国内のバスでは極めて珍しいステンレス車体の観光バス「すずかけ」、1958~1971年に使用された藻岩山ロープウェイの初代ゴンドラ、南北線地上区間の全線シェルター完備が決まる前に開発された2両の高速電車用試験除雪車といった資料価値の高い車両達を悉く撤去、解体に追い込んだのです。
その代わりに市営バス展示室を新設したのですが、そこに入れたのはよりにもよって、いすゞキュービック(1994年式)と日野ブルーリボン(1987年式)の2台。
ステンレス観光バス「すずかけ」などの貴重な車両と天秤にかけた末に入れ替えたのが、2007年当時の全国各地で多く見られた路線バス車両というのは何ともはや。
確かに解体された車両達は良好な状態と言えませんでしたが、博物館ならば「如何にして歴史的遺産を保存するか」に知恵を絞るべきでしょう。
・・・まあ学芸員のいない典型的な「企業博物館」ですから、取り扱う資料の分析・研究が行き届いていないんだなあと思います。
JR北海道 国鉄 札幌市電 札幌市交通局 路面電車 連結車 親子電車 Tc-1形 Tc-1号車 新塗装
今回のTc1号車の塗装変更にしてもそうです。
1970年代後半の白帯追加よりも前の廃車なので、現役時代の塗装パターンではないと知っておきながら、善意のボランティアに余計な改変をさせたのです。
ハッキリ言って、STSPの歴史保存に対する意識は極めて低いと言わざるを得ません。
資料展示というのはただ集めて陳列すれば良いのではなく、モノが歴史の重要な語り部になるという認識を持って「ありのまま」を保存し、後世に受け継ぐ事が肝要なのです。
そのために全国各地の博物館で働く学芸員の方々が、如何にして資料を保管するか、劣化を防ぐか、補修を施すか・・・一生懸命に策を講じている訳です。
間違った塗装変更によって将来、交通資料館を見学しに来た人達に「親子電車は2両ともこの塗装だったんだ」という誤解を広めかねません。
STSPにはTc1号車の白帯を塗り潰していただきたい!
これから資料館入りするM101号車については、ワンマン改造によって車体前面に乗降中ランプ、車内に降車ボタンが設置されていますし、現行塗装のまま展示でも良いでしょう。
Tc1号車と同様に白帯なしの旧塗装とするなら、ワンマン設備の撤去と車掌台の復元が必須になります。
でもSTSPに復元してまで展示しようという気概は無いでしょうけど・・・。
札幌市、還暦の「親子電車」を10月に営業運転終了
Youtubeを漁ってみると、HTB(北海道テレビ放送)がTc1号車のボランティア塗装を取材していました。
興味のある方はこちらも併せてご覧ください。
札幌市交通資料館 長期休館中 鉄道博物館 札幌市営地下鉄地下鉄南北線 スノーシェルター
札幌市交通資料館 長期休館中 鉄道博物館 札幌市営地下鉄地下鉄南北線 スノーシェルター
地下鉄高架の補強工事が続き、未だに休館中の交通資料館。
当初予定では2020年春の再開予定でしたが、工期は更に長引いて2022年度の再開にずれ込みました。
しかし現地の様子を見ると展示室は取り壊されたままで、翌年にリニューアルオープンを控えているとは到底思えない状態です。
はたして交通資料館の再開は何時になるのやら。
【ブログ内関連記事リンク】
※写真は特記を除き2021年6月19日撮影
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最終更新日 : 2021-06-20