貨物駅構内でコンテナ積卸作業を担う中型フォークリフト
国鉄末期は「動車運転係」という駅員が運転したが、現在はJR貨物傘下の地域ロジスティクス11社に委託している
2018年5月20日、札幌貨物ターミナル駅の一般公開で撮影
しかし貨物駅構内の側線や貨物支線、機関区等を保有しているため、保線(線路・土木構造物の保守管理)を担う職場が全く無いという訳ではなく、保線と建築物・機械設備の保守管理を包括する「施設区」を構えました。
1990年代には施設区と電気区を統合して「保全区」を、更に特定地域の貨物駅・機関区・保全区等を統合し課制を敷いた「総合鉄道部」を開設し、その後も現業機関の業務見直し・組織改正を重ねていきました。
書籍『JR貨物15年のあゆみ』(2003年)によると同社は保全区の開設後、建築物・機械設備の保守管理について見直しを行なっています。
具体的には1995年、機械設備(フォークリフト・ボイラー等)の保守管理を拠点の保全区に集約。
続く1996年には建築物(駅舎・車庫・各種社屋・社宅)の保守管理も、拠点の保全区で行なうように改めています。
するとJR北海道の「工務所」(青函トンネル工務所を除く)、JR東日本・JR東海の「工務区」のように、保線・電気関係に受け持ちを限定する保全区が多くなりました。
これは機械・建築関係において、協力会社の能力活用を図った事によります。
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機械関係では、事後保全の体系と契約業務に協力会社の体制を確立し、基本契約を導入するうことで契約の簡素化を計り、使用者の利便性に寄与する体制とし、さらに機械関係の保守情報のシステム化を図ることで管理しやすくし、修繕費の大きな割合を占めるフォークリフトの個別管理をできるようにしました。これにより、フォークリフト修繕費の削減に大きく寄与しています。
1996年には、建築関係の保守体制を見直し、保守管理機能の一元化を図り、協力会社の体制を整備することで、緊急を要する修繕は、使用者による協力会社への修繕要請を直接行える体制とすることで、使用者の利便性向上を図りました。また、主として建築物の維持を担当する開発本部とのあいだで、区分を明確にすることで、保守に関する情報とその管理体制の整備を行いました。
《出典》
日本貨物鉄道株式会社(2003)『JR貨物15年の歩み』p.134
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JR貨物 国鉄 JR北海道 JR東日本 JR東海 JR西日本 JR四国 JR九州
コマツ(小松製作所)の軌道陸上兼用作業車「スーパーライナー」(型式:PC58UUT)
アームの先端に装備した4頭タイタンパーで道床を搗き固める
2018年5月20日、札幌貨物ターミナル駅の一般公開で撮影
1999年4月1日、JR貨物は保全業務の大幅な外注化に乗り出し、遠隔地においても社外能力を活用する事によって円滑にメンテナンスを実施できる体制を構築しました。
例えば保線の場合、JR北海道グループの北海道軌道施設工業㈱、JR東日本グループの仙建工業㈱・東鉄工業㈱、JR西日本グループの大鉄工業㈱・広成建設㈱・㈱レールテックといった旅客会社傘下の軌道工事会社や、静軌建設㈱など非JR系の業者に補修工事を発注するのが基本となっています。
特筆すべきは国鉄時代から直轄で実施してきた軌道検査を外注化した事で、請負業者の中から一定の教育を受けた社員が検査を行うようになりました。
また、JR貨物は軌道モーターカーこそあれど、マルチプルタイタンパーやバラストレギュレーター等の保線機械を所有していないため、機械保線がほぼ外注頼みとなる事は想像に難くありません。
電気関係でも技術開発の進展と共に、外注化の拡大を推進しました。
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1999年には、これまで部外能力を活用することのなかった軌道の検査に協力会社社員で一定の教育を受けたものに検査を行わせる体制を導入しました。
また、社員の技術力維持向上のため、直轄社員が行っていた保守作業を、指定した現業機関ではより多くの保守作業に携われるようにしたほか、まくらぎ、架線等の目視検査では、1人の社員が指導を行うことで保守レベルの均一化を図るとともに、OJT教育を充実できる体制としました。さらに、機械関係においても分散して保守を行ってきたものを一元化することで能率的な保守が行えるようにしました。
《出典》
日本貨物鉄道株式会社(2003)『JR貨物15年の歩み』p.134
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1999年には規制緩和、性能規定化の諮問委員会の答申を受け、国土交通省、経済産業省の関係規程の見直しが諮られる中で、電気設備における信号保安装置の電気信号機、電気転てつ機、軌道回路の電圧・電流・転換力などを定常的に測定し、機器などの状態監視を行う電気設備状態監視装置を開発導入しました。また、部外能力の活用の拡大を図るため、従来の電気設備検修工事の業務内容を見直し、設備管理を定常的に管理できる設備(測定データ、機器の調整データ等)は全面的に外注化を行い、目視による外観的検査のみ直轄で行う方式を採用するとともに、新技術の習得並びに技術力の育成を行うため、エリアを定め検査、修繕、取替工事を含めた直轄施工の業務体制を図りました。
《出典》
日本貨物鉄道株式会社(2003)『JR貨物15年の歩み』p.135
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外注拡大と併せて現業機関の再編も実施。
1998年度末に21ヶ所が存在した保全区は9ヶ所に減りましたが、それと引き換えに支社保全業務の核となる「保全センター」10ヶ所を新設しています。
また、保全課を構える総合鉄道部についても再編の対象となりました。
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(79)平成11年4月1日
※※(中略)※※
●現業機関の見直し
●「保全センター」の新設並びに総合鉄道部及び保全区の再編
全国に点在する設備の保守管理の効率化を目指し、従来の保全区、総合鉄道部の統廃合を行い、あわせて技術の継承と維持向上を踏まえ、各支社に核となる保全センターを設置し、支社業務の一部を取り込みながら保守業務を行う体制とした。なお新潟、金沢及び広島支店の保全業務は支社へ統合した。
(各支社の保全センター及び保全区の配置)
●北海道支社 札幌保全センター、旭川保全区
●東北支社 仙台保全センター
●関東支社 東京保全センター、隅田川保全センター、新潟保全センター、長岡保全区、高崎保全区、宇都宮保全区、新鶴見保全区、南松本保全区
●東海支社 稲沢保全センター
●関西支社 吹田保全センター、金沢保全センター、広島保全センター、百済保全区、岡山保全区、富山保全区
●九州支社 小倉保全センター
(廃止された総合鉄道部)
●関西支社 厚狭総合鉄道部
●九州支社 熊本総合鉄道部
●東北支社「盛岡総合鉄道部」の新設
東北支社盛岡地区においては、盛岡貨物ターミナル駅、盛岡機関区、長町機関区一ノ関派出、盛岡保全区の4つの現業機関が存在したが、効率的な業務執行体制を確立するためにこれらを統合して「盛岡総合鉄道部」を新設した。
《出典》
日本貨物鉄道株式会社(2003)『JR貨物15年の歩み』p.198
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この組織再編によって施設・電気関係の現業機関は、保全センター10ヶ所、保全区9ヶ所、総合鉄道部保全課7ヶ所の計26ヶ所となりました。
2002年には九州支社の一部遠隔地(鹿児島貨物ターミナル駅など)における施設管理をJR九州に委託しています。
JR貨物 国鉄 JR北海道 JR東日本 JR東海 JR西日本 JR四国 JR九州
資料を元に作成した保全技術センター(課制を敷いている場合)の職制イメージ図
続く現業機関の見直しは2002年10月1日。
JR貨物は「新しい保全体制」を旗印に掲げ、「保全技術センター」を各支社に開設すると共に、総合鉄道部保全課を廃し保全区に再編しています。
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(4)2002年10月1日
●本社組織・地方組織・現業機関の見直し
○新しい保全体制として、保全技術センターを各支社に1箇所ずつ設置し、支社保全グループ・保全室は廃止。
○保全区、総合鉄道部保全課を統廃合し、11箇所の保全区へ再編。
《出典》
日本貨物鉄道株式会社(2019)『JR貨物30年の歩み』p.216
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保全技術センターでは、センター所在地近傍を中心に全ての軌道検査と技術・要員上可能な作業を直轄で実施し、必要な技術を習得するとともに工事監督時に適切な指示ができる社員を育成できる体制とし、直轄作業で補えない大規模・特殊な工事は、工事立会いを実施して習得する体制としています。また、2015年の体制変更では、それまでの保全社員が広く浅く工事業務を担う体制から、工事事務所社員が数多くの工事や設計協議に従事することにより質的向上を図るとともに、人事をローテーションすることで経験を蓄積できる体制に変更しています。
《出典》
日本貨物鉄道株式会社(2019)『JR貨物30年の歩み』p.135
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保全技術センターは支社の非現業部門である保全部を、保全現業機関と直結する事によって効率的な体制の構築を図ったものです。
センター内の組織体制は企画課、工事課(箇所によっては工事係とした)、保全課の3本柱とし、総合鉄道部と同じく課長の配下に助役と各係職を置いています。
なお、工事課(工事係)については2009年5月、保全課に統合しています。
この組織再編に伴い軌道検査の外注を取り止め、再びJR貨物の全面直轄で軌道検査を行うように改めました。
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新入社員の配属が活発化した2009年5月には、新しい技術を習得し工事業務を拡充するとともに、若手社員への技術継承を確実なものとするため、工事課・保全課を統合し、工事業務の見直しを行いました。
《出典》
日本貨物鉄道株式会社(2019)『JR貨物30年の歩み』p.134
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北海道保全技術センター JR貨物北海道支社 札幌貨物ターミナル駅 函館本線
「北海道保全技術センター」の名前が記された看板
2020年10月18日、公道から撮影
2002年10月時点の保全技術センターと保全区は下記の通りです。
【北海道支社】
北海道保全技術センター
【東北支社】
東北保全技術センター
盛岡保全区
秋田保全区
【関東支社】
関東保全技術センター
新潟保全区
高崎保全区
東京保全区
新鶴見保全区
南松本保全区
【東海支社】
東海保全技術センター
【関西支社】
関西保全技術センター
富山保全区
金沢保全区
岡山保全区
広島保全区
【九州支社】
九州保全技術センター
JR貨物 国鉄 JR北海道 JR東日本 JR東海 JR西日本 JR四国 JR九州
資料を元に作成した保全技術センター(グループ制を敷いている場合)の職制イメージ図
ちなみに北海道支社・東北支社・九州支社については他支社に比べて業務量が少ないため、2002年6月25日に課制を廃して「次長ー担当課長」制に改めています。
これに伴い「課」の括りが無くなり、効率的かつ機能的な業務運営の実践に繋げています。
これら3支社は保全技術センターについても課制を廃しており、代わりにグループ制を導入して業務分担しています。
札幌貨物ターミナル駅輸送本部 北海道保全技術センター
北海道保全技術センターは札幌貨物ターミナル駅輸送本部に入居している
2020年10月18日撮影
ここで北海道保全技術センターの事例を見てみましょう。
同センターの概要については、JR貨物の電気係員・藤原睦洋さんが雑誌『鉄道と電気技術』2013年9月号(日本鉄道電気技術協会)に寄稿した「JR貨物北海道保全技術センターの紹介」に記されています。
北海道保全技術センターは札幌保全センターと旭川保全区を前身とし、北海道支社管内の各貨物駅・オフレールステーション・札幌機関区・苗穂車両所輪西派出の施設管理を担う現業機関で、札幌市白石区平和通16丁目にある札幌貨物ターミナル駅輸送本部に事務所を構えています。
なお、派出の類は一切無く、札幌の本所だけで道内貨物駅等における施設・電気設備の保守管理を手がけています。
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① はじめに
北海道保全技術センターは、JR貨物の北海道エリア内の電気(電力、電車、信号、通信)、軌道、機械、土木、建築の技術職場を統合し、札幌貨物ターミナル駅を拠点に設備の保守検査、修理、工事等の業務及び設備の維持、管理に伴う企画業務を行っている。組織は、保守管理・工事を行う「設備メンテナンスグループ」と企画業務を行う「設備マネージメントグループ」に分かれている。総勢34名のうち、電気関係社員は12名となっている。
近年、旧国鉄からの経験豊富なベテラン社員の退職も進み、10代~20代までの割合が約半分となり、若手中心の職場である。
② 保守エリア設備について
当センターの保守エリアは、北海道内全域にわたり、北は名寄、南は青函トンネルを越えた青森県新中小国、東は釧路までほぼ北海道全域の設備を保守・管理を行っている(図ー2)。平成25年4月1日現在における主な電気関係保守設備は次のとおりである。
・電力設備
電車線 0.6km
高圧電線 19.9km
高圧ケーブル 11.4km
電気融雪器 399ポイント
高圧配電盤 10基
・信号設備
連動装置(電子2台、継電5台)
信号機 232基
電気転てつ機 385台
軌道回路 84.8km
・通信設備
各種電話機 385台
各種無線機 576局
JR貨物は第2種鉄道事業者であり、本線設備を殆ど有していない。そのため、保守エリアが拠点ごとに点在し、遠方エリアでの障害発生時は、協力会社に初動対応を依頼する等して早期復旧に努め、旅客、貨物列車に影響を出さないように尽力している。
《出典》
藤原睦洋(2013)「JR貨物北海道保全技術センターの紹介」、『鉄道と電気技術』2013年9月号(日本鉄道電気技術協会)p.p.65,66
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JR貨物 国鉄 JR北海道 JR東日本 JR東海 JR西日本 JR四国 JR九州
資料を元に作成した保全技術センターの現行職制イメージ図
直近では2015年3月に保全現業機関の組織改正を実施しています。
この改正では保全技術センターから工事業務を切り離し、「工事管理事務所」を新設しました。
具体的には東日本工事管理事務所と西日本工事管理事務所の2ヶ所を設け、出先機関として東日本工事管理事務所は札幌工事支所・仙台工事支所、西日本工事管理事務所は名古屋工事支所・北九州工事支所を構えています。
これに伴い保全技術センターで担当する工事は、一部設備検査と緊急修繕に限定しました。
また、保全区については保全技術センターの傘下に組み込み、「メンテナンスステーション」に改組しています。
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2015年3月に保全技術センターと工事管理事務所を分け、保全区をメンテナンスステーションとして派出化しました。工事管理事務所は東日本・西日本の2箇所とし、札幌・仙台・名古屋・北九州の各所は工事支所として派出化しました。これは、保安監査における指摘事項を背景に、工事業務のノウハウを確実に次世代社員に継承すること、および責任を明確化することを目的に行われ、これにより6保全技術センター・7メンテナンスステーション、2工事管理事務所・4工事支所の体制となりました。
また、構内改良等の大規模工事を円滑に施行するため、神戸港(2003~04年)、郡山(2005~11年)、鳥栖(2005~06年)、百済(2007~13年)、南福井(2016年~)の各工事区を設置しました。
《出典》
日本貨物鉄道株式会社(2019)『JR貨物30年の歩み』p.134
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JR貨物は貨物駅構内にて線路の鉄マクラギ化を進めている
2018年5月20日、札幌貨物ターミナル駅の一般公開で撮影
2020年10月時点の保全技術センターとメンテナンスステーションは下記の通りです。
【北海道支社】
北海道保全技術センター
【東北支社】
東北保全技術センター
盛岡メンテナンスステーション
【関東支社】
関東保全技術センター
新潟メンテナンスステーション
東京メンテナンスステーション
南松本メンテナンスステーション
【東海支社】
東海保全技術センター
【関西支社】
関西保全技術センター
金沢メンテナンスステーション
広島メンテナンスステーション
【九州支社】
九州保全技術センター
以上、JR貨物における保全業務体制の変遷を取り上げました。
安全安定の貨物輸送を守るのは、機関車に乗務する運転士や検修員、貨物駅の駅員だけではないのです。
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最終更新日 : 2020-11-15