タタールのくにびき -蝦夷前鉄道趣味日誌-

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2020-09-11 (Fri) 23:53

[保存車両]三井芦別炭鉱の坑内軌道を走った「三池8トン有線電車」

三井芦別炭鉱坑内軌道有線電車a01

かつて日本有数の炭鉱地帯として名を馳せた、北海道の空知炭田。
空知管内の芦別市も石炭産業の一翼を担う炭鉱都市として栄え、三井や三菱といった財閥も鉱業所を構えていました。
1950年代に入り石油の台頭による「エネルギー革命」が起こると、芦別炭鉱でも1960年代に閉山が相次ぎました
そして最終的に1992年9月、三井芦別炭鉱の閉山を以って芦別炭鉱の歴史に終止符が打たれています。


JR北海道 国鉄 芦別駅 根室本線 三井芦別鉄道 鉱車 電気機関車 芦別市立図書館
三井芦別炭鉱坑内軌道有線電車a27

芦別では現在も市内各地で炭鉱の遺構を見る事が出来ます。
中には「旧三菱芦別鉄道辺渓隧道」や「旧三井芦別鉄道炭山川橋梁」など、石炭輸送に貢献した私鉄線の遺構もあります。
これらの遺構は芦別観光協会の公式HP「芦別市観光総合サイト」でも紹介されていますね。
しかし、炭鉱に詳しい方ならお分かりでしょうが、炭鉱に関わる鉄道は地上を走る私鉄だけではありません。
その物件は芦別市立図書館の敷地内で屋外展示されています。


JR北海道 国鉄 芦別駅 根室本線 三井芦別鉄道 鉱車 三井芦別炭鉱坑内電車軌道
三井芦別炭鉱坑内軌道有線電車a06

芦別市民会館の真向かいにある図書館西門から入場すると、植え込みの木々に囲まれた車両群が目につきます。
1直線に敷かれたナローゲージの線路に、小さな4両の車両が編成を組んで静かに佇んでいます。


JR貨物 国鉄 芦別駅 根室本線 三井芦別鉄道 鉱車 電気機関車 芦別市立図書館
三井芦別炭鉱坑内軌道有線電車a05

4両編成の先頭を飾るのは黒い電気機関車。
車高は小学校低学年の子供くらいの低さです。
車体側面には「NO-7」と番号が明記されています。


JR北海道 国鉄 芦別駅 根室本線 三井芦別鉄道 鉱車 三井芦別炭鉱坑内電車軌道
三井芦別炭鉱坑内軌道有線電車a04

電気機関車の手前には芦別市教育委員会が設置した解説板が立っています。
どうやら1996年5月から図書館敷地内で静態保存しているようです。
解説板によると、この電気機関車の名称は「三池8トン有線電車」と言い(※型式名は「MEL-8」)、1953年4月に三井三池製作所で製造されたとの事。
まさかの三池炭鉱生まれです。
当時の三井三池製作所は三井鉱山㈱から分社独立する前で、福岡県大牟田市旭町に機械工場を構えていました。

「約30年間に渡り三井芦別炭鉱の坑内で働いてきました」とありますが、新製当初から三井芦別炭鉱に配置されたのか否かは不明。
仮に新製当初からの配置だとすれば、単純に考えて1983年頃の廃車だったのでしょう。
ちょうど解説板にも「採掘区域の深部化に伴い、運搬の主力がバッテリー電車やベルトコンベヤーに移ったため、昭和57年には3台を残すのみとなりました」と書かれていますね。
最盛期の三井芦別炭鉱には同型車が37両も配置されていた・・・ともあります。
1992年9月の閉山後、芦別に残る三池8トン有線電車は図書館の1両だけとなりました。


三池8トン有線電車 MEL-8 三井芦別炭鉱 芦別市立図書館 鉱車 坑内電車軌道
三井芦別炭鉱坑内軌道有線電車a02

真正面から三池8トン有線電車(MEL-8)を眺めた様子。
車体幅は1.185mm、車高は1.225mmです。


三池8トン有線電車 MEL-8 三井芦別炭鉱 芦別市立図書館 鉱車 坑内電車軌道
三井芦別炭鉱坑内軌道有線電車a07

こちらは連結器。
一般的な鉄道車両の連結器とは大きく異なるタイプです。
少なくとも写真のような状態では、他の車両と繋ぐ事は出来ませんね。
中心には1本の棒が縦に貫通しています。


三池8トン有線電車 MEL-8 三井芦別炭鉱 芦別市立図書館 鉱車 坑内電車
三井芦別炭鉱坑内軌道有線電車a14

この連結器、どのように使うかと言うと・・・


三池8トン有線電車 MEL-8 三井芦別炭鉱 芦別市立図書館 鉱車 坑内電車
三井芦別炭鉱坑内軌道有線電車a07-2

・・・互いの連結器の窪みに「8の字型」の金具を入れ、そこに先述の金棒を上から縦一直線に突っ込んで、金具が抜けないよう連結器に固定するんですね
これで互いの車両がしっかりと繋がった状態になり、編成を維持しつつ坑内を走行できるという訳です。


三井三池製作所 三池8トン有線電車 坑内電車軌道 三井芦別炭鉱 鉱車 坑車
三井芦別炭鉱坑内軌道有線電車a09

それにしても植え込みの配置がなかなかに心憎く、真横から電気機関車を綺麗に撮れる位置がありませんでした。
仕方ないのでやや右側から撮影。
床下の大半は車体にすっぽりと覆われていますが、隙間の様子から1個の台車を履いた単車だと分かります。
車体全長は5.2mです。


菱形パンタグラフ 三井三池製作所 三池8t有線電車 電気機関車
三井芦別炭鉱坑内軌道有線電車a10

三井芦別鉄道の坑内軌道は架線集電式だったので、もちろん屋根の上にはパンタグラフを装備しています。
しかしそもそもの車高が思いっきり低いので、パンタグラフも一般的な鉄道車両では考えられない低さです。
桜谷軽便鉄道の方が上背がありますね。


三井三池製作所 三池8トン有線電車 坑内電車軌道 三井芦別炭鉱 鉱車 坑車
三井芦別炭鉱坑内軌道有線電車a11

車体側面中央には三井財閥の社章を掲げています。


三井三池製作所 三池8トン有線電車 坑内電車軌道 三井芦別炭鉱 鉱車 坑車
三井芦別炭鉱坑内軌道有線電車a12

一般的な電気機関車は両運転台構造ですが、三池8トン有線電車の運転台は片側にだけ設置されています。
乗務員室に屋根は一切無く、見事なオープンカーです。
この運転台とパンタグラフを見比べると、架線が頭上スレスレに引かれた坑道内でハンドルをさばく運転士はさぞかし大変だったろうなあ・・・と思います。


三井三池製作所 三池8トン有線電車 坑内電車軌道 三井芦別炭鉱 鉱車 坑車 運転台 乗務員室
三井芦別炭鉱坑内軌道有線電車a16

窮屈な乗務員室を見てみましょう。
マスコンハンドルは真横に設置されています。


三井三池製作所 三池8トン有線電車 坑内電車軌道 三井芦別炭鉱 鉱車 坑車 運転台 乗務員室
三井芦別炭鉱坑内軌道有線電車a15

一方、正面に付くのは円形の手ブレーキハンドル。
右下には無線機も付いていますね。
この狭いスペースでハンドルを扱いながら、マイクを手繰り寄せて地上の指令室と連絡をとるのも一苦労だったでしょう。


人車 鉱車 三井芦別炭鉱 貨物列車 坑車 炭鉱列車 芦別市立図書館
三井芦別炭鉱坑内軌道有線電車a17

電気機関車の後に連結された3両も見ていきましょう。
これら3両は現役時代、電気機関車に牽引されて坑道を行き来していました。


人車 鉱車 三井芦別炭鉱 貨物列車 坑車 炭鉱列車 芦別市立図書館 客車
三井芦別炭鉱坑内軌道有線電車a18

こちらの薄緑色ワントーンは人車です。
一般的に「人車」と言えば、手押しで客車や貨車を動かす人車軌道を指しますが、炭鉱の場合は坑内軌道で炭鉱労働者を輸送する車両を意味しました。


人車 鉱車 三井芦別炭鉱 貨物列車 坑車 炭鉱列車 芦別市立図書館 車内 座席
三井芦別炭鉱坑内軌道有線電車a19

片側3ドアの車内を覗いてみると、座席が進行方向の前後を向くように配置されています。
何れの座席も大人2人が座れる程度の幅で、車幅いっぱいのサイズです。
したがって車内に通路はありません。
座席の支柱には走行中の震動を軽減するためか、バネが付いています。


人車 鉱車 三井芦別炭鉱 貨物列車 坑車 炭鉱列車 芦別市立図書館
三井芦別炭鉱坑内軌道有線電車a20

この人車はニ軸車となっており、車軸が台枠に固定されています。
走り装置にサスペンションが一切無い事も、座席の柱にバネを付けた一因なのかも知れません。


人車 鉱車 三井芦別炭鉱 貨物列車 坑車 炭鉱列車 芦別市立図書館
三井芦別炭鉱坑内軌道有線電車a21

電気機関車には「NO.7」と番号が書かれていますが、人車に番号の類は一切見られませんでした。


人車 鉱車 三井芦別炭鉱 貨物列車 坑車 炭鉱列車 芦別市立図書館 貨車
三井芦別炭鉱坑内軌道有線電車a23

人車の後に繋がっているのは鉱車。
採掘現場から石炭を載せて地上まで運搬するトロッコです。
連結面には三井財閥の社章が付いています。


人車 鉱車 三井芦別炭鉱 貨物列車 坑車 炭鉱列車 芦別市立図書館 貨車
三井芦別炭鉱坑内軌道有線電車a22

真横から鉱車を眺めた様子。
こちらも台枠に車軸を付けた二軸車ですね。
側面中央には「78512」と車号を記しています。


人車 鉱車 三井芦別炭鉱 貨物列車 坑車 炭鉱列車 芦別市立図書館 貨車
三井芦別炭鉱坑内軌道有線電車a24

その後にもう1両、鉱車が連結されています。
しかし前の鉱車とは違うタイプ。
これはグランビー鉱車ですね。
グランビー鉱車とは転輪装置を車体に装備し、自動的に荷台を傾けて積載した鉱石を降ろせるようにしたトロッコの事です。


車 鉱車 三井芦別炭鉱 貨物列車 坑車 炭鉱列車 芦別市立図書館 貨車 トロッコ
三井芦別炭鉱坑内軌道有線電車a25

真横からグランビー鉱車を眺めた様子。
こちらも先の人車・鉱車と同様、台枠に車軸を付けた二軸車です。
車体側面には「71048」と車号を記しています。


人車 鉱車 三井芦別炭鉱 貨物列車 坑車 炭鉱列車 芦別市立図書館 貨車
三井芦別炭鉱坑内軌道有線電車a26

改めて坑内列車4連を眺めた様子。
昔はこのような列車が坑内軌道を行き来し、炭鉱の採掘現場を支えていたのです。



三井芦別炭鉱坑内軌道有線電車a28

ちなみにこちらが芦別市立図書館の庁舎。
2階にバルコニーがあり、そこからだと坑内列車4連を俯瞰できそう・・・と思ったのですが、残念ながらバルコニーは完全に封鎖されていました。



三井芦別炭鉱坑内軌道有線電車a29

最後に芦別駅から芦別市立図書館構内の有線電車までのルートを載せましょう。
有線電車が静態保存されているのは図書館構内の南西で、徒歩にして片道11分程度で移動できます。

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※写真は全て2020年7月24日撮影


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最終更新日 : 2020-09-11

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