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2020-05-09 (Sat) 00:26

札沼線石狩月形駅の輸送主任が支えた道内最後のスタフ閉塞

石狩月形駅スタフ交換x5
2018年1月8日、札沼線石狩月形駅にて撮影
下り普通列車の運転士にスタフ入りタブレットキャリアを渡す輸送主任

新型コロナウィルスを巡り、政府が北海道を含む13都道府県を「特定警戒都道府県」に指定した事を受け、JR北海道は札沼線北海道医療大学~新十津川間のラストランを、当初予定よりも20日早い2020年4月17日に繰り上げて実施しました
今回のラストラン前倒しに伴い、ワンマン列車の乗務を担当した石狩当別駅所属の運転士や、石狩太美以北の保線を担当した札幌保線所石狩当別保線管理室など、一足早く担当業務を失った現業社員も多かった事でしょう。
ただし書類上の事業廃止日は2020年5月7日のまま変更されず、本来の運行最終日だった5月6日まで3週間弱に渡り長期運休へ。
この休止期間中は今まで通り全駅の駅舎が開放されており、出発信号機も常に赤信号(停止現示)を出したままで、北海道医療大学駅には休止区間を塞ぐ車止めも設置されなかったと言います。
そして記事執筆のつい前日、0時を迎えると共に正真正銘、札沼線末端区間は85年の歴史に終止符を打ちました。


JR北海道 国鉄 札沼線北部 札沼北線 キハ40系400番台 キハ40形400番台
石狩月形駅スタフ交換x14
ホームに並ぶキハ40-402とキハ40-825
札沼線末端区間用のキハ40系400番台は2両しかないため、しばしば他の番台も運転された
2015年10月11日撮影

国鉄末期の1979年2月、札幌鉄道管理局が「札沼線営業近代化」を掲げて敢行した貨物輸送廃止に伴い、札沼線北海道医療大学~新十津川間では多くの交換駅が棒線化されました。
1980年代まで乗務員宿泊所を構えた浦臼駅でさえも交換設備が撤去され、列車交換可能な中間駅は石狩月形駅の1ヶ所を残すのみでした。
そんな末端区間は全区間単線で、閉塞は石狩当別~北海道医療大学間、北海道医療大学(※)~石狩月形間、石狩月形~新十津川間の3閉塞となっていたのですが、このうち石狩月形~新十津川間に限り「スタフ閉塞」を運用していました。
これは先述の貨物輸送廃止に伴い終点の新十津川駅が棒線化し、なおかつ1983年3月に札沼線桑園~石狩月形間がCTC化した事を受け、全区間で運用してきたタブレット閉塞を廃止した事によります。


JR北海道 スタフ閉塞 通票閉塞 非自動閉塞 駅長 石狩月形駅 運転取扱業務
石狩月形駅スタフ交換x16
2017年10月14日、「キハ40で行く石狩月形駅と秘境豊ヶ岡駅の旅」の序盤における一コマ
スタフ閉塞の仕組みを解説する石狩当別駅(石狩月形駅の管理駅)の杉本駅長

従前のタブレット閉塞は『運転取扱基準規程』第5款において「通票閉そく式」と呼称しており、同一閉塞区間の当務駅長同士で打ち合わせを行い、通票閉塞器を操作して所定の通票を取り出し、タブレットキャリアに格納して出発列車の運転士に渡すという方法です。
この通票が単線区間の走行に必要な、いわば「通行手形」という訳ですね。
単線区間を通票を載せた列車が走行している間は、他の列車が当該区間に一切進入できない状態になります。
また、通票を閉塞器に収めれば、後方の交換駅に停車中の後続列車に対し別の通票を発行して授受できますので、輸送障害時の対処もし易いというメリットがあります。

一方、スタフ閉塞は『運転取扱基準規程』第7款において「通票式」と呼称しており、通票閉塞器を使わずに通票とタブレットキャリアだけ使って列車の運行を制御するという単純な方法なんですね。
これは閉塞区間ごとに使用できる通票が常に1個だけと決まっているため、その通票が授受した交換駅に戻ってくるまで次の列車を出発させる事が出来ず、連続する複数の閉塞区間に導入すると柔軟な運用が出来ないというデメリットがあります。
しかし閉塞器を設置しない故に設備費用を削減できるため、日本国内においては盲腸線の末端の1閉塞区間で、なおかつ終点を棒線駅としている場合に重宝されてきました。
スタフ閉塞は「渡した駅に通票が戻ってくるか」が肝心なので、裏を返せば導入により終着駅を無人化し、人件費を削減する事も可能となります。
現に札沼線石狩月形~新十津川間でも、終点の新十津川駅は駅員を配置しない完全無人駅でした。


JR北海道 石狩月形駅 輸送主任 フライ旗 赤旗 スタフ閉塞
石狩月形駅スタフ交換x3
2019年6月9日撮影

ここからは石狩月形駅におけるスタフ授受の一連の流れを見ていきましょう。
石狩月形駅には管理駅である石狩当別駅から、運転取扱業務(スタフ授受・信号扱い)を担当する輸送主任が交代で派遣されていました。
輸送主任は助役と同じ金線1本入り赤帯制帽を着用。
助役なら名札に「石狩当別駅 助役」と表記されますが、輸送主任の名札は役職が省略されているため判別は比較的簡単です。
ホームに出る時は万が一の場合に列車を緊急停止できるよう、赤いフライ旗を携行します。


JR北海道 石狩月形駅 構内踏切 輸送主任 フライ旗 赤旗 スタフ閉塞
石狩月形駅スタフ交換x4
2019年6月9日撮影
クールビス実施中につき輸送主任はネクタイを省略している

上り列車(石狩当別方面)の入線時刻が近づくと、輸送主任は駅事務室を出て構内踏切の手前に立ちます。


JR北海道 石狩月形駅 構内踏切 輸送主任 フライ旗 赤旗 スタフ閉塞 非自動閉塞
石狩月形駅スタフ交換x10
2018年1月7日撮影
こちらは上下アノラック、長靴の防寒装備

月形刑務所の方向から上り列車の姿が見えたら、右手を高く挙げて進路に支障が無い事を伝えます。


JR北海道 石狩月形駅 構内踏切 輸送主任 スタフ閉塞 キハ40系400番台
石狩月形駅スタフ交換x2
2019年6月9日撮影

そして上り列車が2番線に入線。


JR北海道 石狩月形駅 構内踏切 輸送主任 フライ旗 赤旗 スタフ閉塞 非自動閉塞
石狩月形駅スタフ交換x7
2020年2月1日撮影

上り列車の入線時、輸送主任は構内踏切の駅舎側に立ち続け、踏切看守に当たります。
人によっては写真のように、赤いフライ旗を遮断機に見立てて水平に掲げます。


JR北海道 石狩月形駅 輸送主任 スタフ閉塞 非自動閉塞 踏切押しボタン
石狩月形駅スタフ交換x8
2020年2月1日撮影

列車が停まると輸送主任は一旦駅事務室へ。
まずは柱に据え付けた踏切押しボタンを忘れずに押します。
このボタンを押さないと石狩月形~新十津川間の踏切警報機と遮断機が作動しないのです。
踏切押しボタンを押した後は入室し、連動装置を扱って上下双方の出発信号機を操作します。



石狩月形駅スタフ交換x9
2018年1月7日撮影

信号扱いが済んだらホームへ。
必要に応じ緑色に塗装された金属製の箱と、列車に乗せて石狩当別駅に輸送する業務書類を持っていきます。
緑の箱には釣り銭が入っており、ワンマン列車の運賃箱に釣り銭を補充していきます。


石狩月形駅 輸送主任 スタフ授受 スタフ閉塞 学園都市線 タブレットキャリア
石狩月形駅スタフ交換x1
2019年6月9日撮影

そしてスタフ授受へ。
列車交換が発生する場合、まず上り列車(石狩当別方面)の運転士からスタフ入りタブレットキャリアを回収。
そのタブレットキャリアは駅事務室へは持ち帰らず、すぐさま下り列車(浦臼・新十津川方面)の運転士に渡します。
列車交換が発生しない場合は、上り列車の運転士から回収したスタフを駅事務室に持ち帰り、下り列車の入線が近づくまで保管します。

ところでよく「タブレット交換」と同じような感覚で、スタフの受け渡しを指して「スタフ交換」という言葉を使う鉄道ファンが見られます。
しかし実際の運用を見れば分かるように、列車交換がある時は回収したスタフをすぐ授受しており、しかも1閉塞区間で1種類のスタフしか使わないため、他の通票と交換する訳ではありません。
これを「スタフ交換」と呼ぶのは間違いだと言えるでしょう。



石狩月形駅スタフ交換x15
2019年11月17日撮影

そして下り列車の出発時刻。
輸送主任は出発に立会い、右手を挙げて出発指示合図を送ります。
これを視認した運転士は閉扉操作を行い、樺戸の北に向けて列車を走らせたのです。


信号テコ扱い所 信号テコ小屋 信号テコ扱所 運転事務室 石狩月形駅
石狩月形駅スタフ交換x12
2019年6月9日撮影

ちなみに駅舎のホーム側には信号テコ扱所の跡が見られます。
腕木式信号機が健在の頃は、ここに設置されたレバーを操作して駅構内の信号を制御していたんですね。


信号テコ扱い所 信号テコ小屋 信号テコ扱所 運転事務室 石狩月形駅
石狩月形駅スタフ交換x11
2018年1月7日撮影

冬になると信号テコ扱所跡は雪かき、除雪機の置き場として活用されていました。



石狩月形駅スタフ交換x13
2019年6月9日撮影

国鉄時代のローカル線では閉塞装置の取扱い要員だけ置いて、出改札業務は廃止するという有人駅が多く見られましたが、石狩月形駅は最後まで出札窓口が営業していました。
終日社員配置駅ではあるものの、窓口営業時間は毎日6:00~20:20に限定されており、このうち12:30~13:30と18:40~19:50は食事休憩のため営業休止となりました。
また、信号扱いの片手間で営業するため、運転取扱業務に追われていると対応できない事もありました。
なお、改札業務は一切しておらず、運賃収受・集札は無人駅と同様に乗務員が行っていました。



道新2020年5月26日朝刊第26面 第2社会
『北海道新聞』2020年5月8日付朝刊第26面より引用

5月8日の道新も道内最後の非自動閉塞が消えた事を、札沼線末端区間の廃止と共に報じています。
2017年に発表された書籍『釧路・根室の簡易軌道』の編集で知られる、釧路市立博物館の学芸員・石川孝織さんも取材を受けました。
以下に記事本文を抜粋しましょう。

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札沼線 静かに廃止
新十津川ー道医療大 駅名標を撤去

 【新十津川】JR札沼線の北海道医療大学ー新十津川間(47.6㌔)が7日、廃止となり、85年の歴史に幕を閉じた。列車の運行は新型コロナウィルスの影響で、廃止に先立つ4月17日に終了。終着駅の新十津川駅(空知管内新十津川町)はじめ廃止区間の16駅のホームに設置されていた駅名標は全て取り外された。
(小池啓人)

 撤去された駅名標は各駅のホームにある縦約90㌢、横約120㌢の看板で、中央に駅名、その下の左右に隣の駅名を表示していた。JR北海道は7日未明、石狩金沢(石狩管内当別町)から新十津川までの16駅の駅名標を順次撤去。このうち下徳富(新十津川町)、晩生内(空知管内浦臼町)、札比内(同月形町)の3駅は、駅舎に掲げられていた駅名板も取り外した。
 新十津川駅にはこの日、鉄道ファンらが訪れ、駅名標が無くなったホームを名残惜しそうに撮影するなどした。町外から来た男性は「昨日まであったものが無くなり(廃線の)実感が湧いた」と別れを惜しんだ。
 新十津川町は札沼線があった証しとして、駅名標を町内で展示することを希望しており、JRに寄贈してもらえるよう要請する予定だ。
 札沼線は1935年(昭和10年)、桑園(札幌)ー石狩沼田(空知管内沼田町)を結んで全線開通。戦時中は軍にレールが接収されたが戦後に復活した。だが利用者減などで72年、空知管内を走る石狩沼田ー新十津川間が廃止。今回の区間も2018年に廃止が決まった。
 ラストランは当初、今月6日の予定だったが、新型コロナ対策のため2度にわたり前倒しに。ただ、5月7日の廃止日は変わらず、その間は「運休」となった。

《出典》
『北海道新聞』2020年5月8日付 朝刊第26面 第2社会
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列車の往来管理 手渡しで 「非自動閉塞」消えた道内
進む電子化、全国でも減少

 【月形】JR札沼線の北海道医療大学ー新十津川間が7日に廃止となり、列車が区間内を走る際、人の手を介して誤進入などを防ぐ「非自動閉塞」の路線が、道内からすべて姿を消した。札沼線の非自動閉塞は、スタフ(通票)と呼ばれる「通行証」を運転士に手渡しする昔ながらの方式で、地方路線の廃止や電子化により全国でも残りわずかになっている。
 列車の往来を管理する方法は、機械制御による「自動閉塞」と、人の手と機械を併用する「非自動閉塞」に大別される。札沼線の「スタフ閉塞」は、通行証を介した「指さし確認」の目的で使われた。運転士は石狩月形駅(空知管内月形町)でスタフを受け取らないと、その先の新十津川駅(同管内新十津川町)方面に進めない決まりになっていた。
 札沼線のスタフは、長さ40㌢、幅35㌢の金属製の楕円形の輪に取り付けたカバーの中に入っていた。区間内に一つしかなく、運行トラブルの防止につながった一方、管理する駅員が必要となり、人件費がかさむなどしていた。
 鉄道に詳しい釧路市立博物館の石川孝織学芸員によると、JRでは非自動閉塞が減少し、道外のJRで運用されているのは、貨物列車を除くと2路線しかないという。
(坂口光悦)

《出典》
『北海道新聞』2020年5月8日付 朝刊第26面 第2社会
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石川さんが仰られている「2路線」とは、JR東海の名松線松阪~伊勢奥津間、JR西日本の越美北線越前大野~九頭竜湖間の事ですね。
越美北線と名松線では札沼線廃止区間と同じスタフ閉塞を運用していますが、名松線については松阪~家城間において「票券閉塞」という別の非自動閉塞を用いています。
現存する非自動閉塞の鉄道路線は他にも、由利高原鉄道、銚子電鉄、小湊鉄道、大井川鐵道、名鉄築港線、長良川鉄道、とさでん交通伊野線朝倉~伊野間、くま川鉄道といった私鉄が挙げられますが、これらを足しても少ない事に違いありません。
今後、更なる技術革新などで淘汰が進む可能性のある非自動閉塞。
運転保安の歴史を刻む意味でも、出来るだけ記録を取っていきたいですね。
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最終更新日 : 2020-05-09

新十津川駅保存... * by Miyai
こんばんは~! 新十津川駅周辺は今後、メモリアル公園に整備される予定です。駅舎とホームもそのまま保存される予定です。完成しましたら是非いらして下さい!新十津川町民でしたm(_ _)m

Re:新十津川駅保存... * by 叡電デナ22
Miyaiさん

どうも、こんばんは。

駅舎を保存する構想は風の噂で聞いていましたが、公園に整備されるんですね!
完成した暁には是非とも再訪したいです。

その時には物産館にも寄って「めはりずし」を食べます!

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新十津川駅保存...

こんばんは~! 新十津川駅周辺は今後、メモリアル公園に整備される予定です。駅舎とホームもそのまま保存される予定です。完成しましたら是非いらして下さい!新十津川町民でしたm(_ _)m
2020-05-09-00:56 * Miyai [ 編集 * 投稿 ]

叡電デナ22 Re:新十津川駅保存...

Miyaiさん

どうも、こんばんは。

駅舎を保存する構想は風の噂で聞いていましたが、公園に整備されるんですね!
完成した暁には是非とも再訪したいです。

その時には物産館にも寄って「めはりずし」を食べます!
2020-05-10-18:04 * 叡電デナ22 [ 編集 * 投稿 ]