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2019-09-21 (Sat) 23:25

2019/9苗穂工場一般公開[8] 鉄道工場で作ったジンギスカン鍋

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引き続き2019年9月7日、2年ぶりに開催されたJR北海道苗穂工場の一般公開について書きましょう。
前回は昼食を摂ってから組立科の旅客車解艤装場に行き、リモコン操縦の天井クレーンによる台車組込作業を見学したのでした。
組立科の玉掛け作業責任者が着用するヘルメットには、頭頂部に大きな緑十字、側面に1本の赤帯が入る事も既に記した通りです。
そろそろ14時を回り、一般公開の終了まで残り1時間程度となりました。
台車組込作業を見学した後は、機関車検修場を経由して構内の北東へ移動。
北の果てには2階建ての大きな木造モルタル建築があります。



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ここの2階には検修員の研修に使う教習室があり、外側の階段から入室できるようになっています。
・・・と言っても毎年開催の一般公開では立入禁止ですので誤解の無きよう。
教習室の管理を担当する部署は設備保全科といい、本来は工場内で検修に使用される各種機械・器具の検査および修理計画を担う部門です。
安全道場には作業現場で起こりうる様々な事故を模擬体験できる装置を多く配置し、音や衝撃、更には臭いまで再現するという拘りようです。
安全道場も一般公開で来場者に見せればタメになるのになあ・・・と苗穂工場へ足を運ぶたびに思いますね。
事故の怖ろしさを学ぶための工夫は鉄道業だけでなく、様々な業種で働く人々にとっても参考になるでしょう。


JR北海道 国鉄 JR貨物 札幌工営株式会社 札幌交通機械株式会社 SKK
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同じ木造モルタル造りの1階には生産科事務所が入っています。
「山明号」の記事でも触れましたが、苗穂工場の組織体制(JR貨物苗穂車両所を除く)は計画科5科と生産科3科に大別されます。
計画科に該当するのは総務科、工程管理科、品質管理科、技術開発科、設備保全科の各部門で、言わば苗穂工場の頭脳です。
対して生産科と総称される3科は実作業を担当し、前回記事でも紹介した組立科と、部品科、内燃機科の各部門が該当します。
これら3科は計画科の下部組織に当たり、特に組立科は配置人員が多いため科長の補佐役として総括助役を置いているそうで、事務所も同じ建物にまとめて入居しています。
教習室も実作業に従事する生産科の検修員を対象とした教育が主となるため、生産科事務所と同じ建物に入っている訳ですね。
一方、計画科は幹部候補生の総合職が多く在籍し、入社後に生産科で実作業の経験を積んでから、計画科に異動し企画・管理業務を担当するのがキャリアステップの基本だといいます。



苗穂工場組織図 1987年4月時点
分割民営化当初(1987年4月時点)の苗穂工場の組織図
『鉄道ジャーナル』1990年2月号 p.69より引用
掲載記事は柿沼博彦・高橋一宇「JR北海道苗穂工場の日常業務と車両開発」

ちなみに、苗穂工場では国鉄解体に伴い従前の「課」(非現業部門)と「職場」(現業部門)から成る組織体制を改め、運転所・機関区・発電所などと同様の科制による部署の再編を施行しました。
計画科は「課」(“本場”とも呼ばれた)を、生産科は「職場」をルーツとしています。
この時、生産科には組立科(旧:組立職場)、部品科(旧:部品職場)、内燃機科(旧:内燃機職場)の現行3科に加え、鉄工職場を改称した鉄工科も存在しました。
鉄工科は車体の修繕、溶接を担当しており、少なくとも1990年2月時点では稼働していた事が確認できますが、2019年現在では組立科が業務を継承しています。

なお、道外のJR車両工場でも同様の組織改正を行い、課、職場の別を問わず工場内の部署単位を「科」に統一しています。
しかし中にはJR東海浜松工場のように、本場を「科」とし現場を「職場」のままにしている箇所も見られます。


JR北海道 国鉄 JR貨物 札幌工営株式会社 札幌交通機械株式会社 SKK
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生産科事務所・教習室の真向かいには次なる目的地、鋳物作業場があります。
一般来場者に配布されたイベントマップでは「制輪子作業場」と表記されている施設ですね。
まさしく制輪子(ブレーキシュー)を製造する現場です。
国鉄時代は全国各地の工場が鋳物職場を設けていましたが、2019年9月現在で鋳物を製造しているのは苗穂工場とJR東日本長野総合車両センター(旧:国鉄長野工場)の2ヶ所を残すのみとなっています。


JR北海道 国鉄 JR貨物 札幌工営株式会社 札幌交通機械株式会社 SKK
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鋳物作業場の担当部門は品質管理科です。
品質管理科は外注管理、予備品管理、出場検査を担当する部門です。
中でも外注管理の対象は工場内で札幌交通機械㈱に委託している一部作業や、㈱宮坂商店に発注している廃車体の解体作業といったものが挙げられます。
この鋳物作業場でも実際に鋳物を製造するのは品質管理科の社員ではなく、業務委託先であるSKK(札幌交通機械)となっています。


JR北海道 国鉄 JR貨物 札幌工営株式会社 札幌交通機械株式会社 SKK
なえこう組織体制
苗穂工場公式HP(2018年3月31日閉鎖)に掲載されていた苗穂工場の組織図
総員670名の内訳はJR社員359名、札幌交通機械140名、札幌工営137名、サイバネット34名
札幌工営とサイバネットは2社とも札幌交通機械に吸収済みとなっている

現在はSKKが受託している鋳物製造ですが、元は吸収会社である札幌工営㈱が受託していました。
既に述べたように札幌工営は苗穂工場の構内運転・車両移動作業を担当していた訳ですが、何と言ってもメインはブレーキシューをはじめとした鋳物の製造でした。
2018年4月の吸収合併に伴い札幌工営は解散し、SKKに受託業務と人材が引き継がれています。


JR北海道 国鉄 JR貨物 札幌工営株式会社 札幌交通機械株式会社 SKK
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この頃に我々2人はTJライナーさんと合流し直す事ができ、ようやく3人で実作業を見ようという話になりました。
鋳物作業場では14:20から「鋳物注湯作業」の実演が開始されます。
まだ20分ほど時間が空いていたので場内を観覧する事に。


JR北海道 国鉄 JR貨物 札幌工営株式会社 札幌交通機械株式会社 SKK
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JR北海道 国鉄 JR貨物 札幌工営株式会社 札幌交通機械株式会社 SKK
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鋳物作業場に入ってすぐ左手には、銑鉄、鋼クズ(レールの破片)、リターン材といった製鋼原料にし直す鉄屑の集積場があります。
ここに集められた鉄屑を溶かして鋳物製造に活かすんですね。


JR北海道 国鉄 JR貨物 札幌工営株式会社 札幌交通機械株式会社 SKK
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集積場の脇には「分析室  Analysis Room  (分析装置)」との札を掲げた小屋が建っています。
ここでは溶鋼の成分分析を行うそうです。


JR北海道 国鉄 JR貨物 札幌工営株式会社 札幌交通機械株式会社 SKK
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先に見学した機関車検修場、旅客車解艤装場と同様、鋳物作業場にも天井クレーンが設置されています。
ここの天井クレーンは北広島の中山機械㈱が1991年3月に製造した物。
最大重量限界は2.8トンと小さく、車両の吊り上げに対応していないタイプですね。


JR北海道 国鉄 JR貨物 札幌工営株式会社 札幌交通機械株式会社 SKK
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奥に進むとSKKの作業員(工事係・工事技術係・工事技術主任)が、せっせと砂の造型に勤しんでいました。
これは注湯の前工程ですね。


JR北海道 国鉄 JR貨物 札幌工営株式会社 札幌交通機械株式会社 SKK
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構内入換に従事する誘導員や構内運転士は札幌工営時代の使い回しヘルメットを被っていましたが、鋳物作業場の係員はSKKで元から使われているのと同様のヘルメットを着用しています。
元々、鉄道ファンの間でも知名度の低い札幌工営ですが、更に歳月が経過すれば忘れ去られてしまうんでしょうね・・・。
『札幌工営○○年史』みたいな資料があれば読んでみたいけどなあ。


JR北海道 国鉄 JR貨物 札幌工営株式会社 札幌交通機械株式会社 SKK 安全第一
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緑十字のお膝元には「有機溶剤等使用の注意事項」が掲示されています。
人体への影響や、中毒が発生した時の応急処置について列挙。


JR北海道 国鉄 JR貨物 札幌工営株式会社 札幌交通機械株式会社 SKK
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でかでかと掲げられた「連絡合図の徹底」との安全啓蒙板。
場内に入り乱れる図太いパイプ。
如何にも工場らしい風景の先には・・・



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機械・工具の運搬に使うトロッコ用の線路が横に延びています。
そしてその沿線には・・・


JR北海道 国鉄 JR貨物 札幌工営株式会社 札幌交通機械株式会社 SKK
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左から順に硬度測定室、展示室、部品室があります。
・・・ん、展示室だと?
実演開始まで少し余裕がありますし、せっかくなので立ち寄ってみます。


JR北海道 国鉄 JR貨物 札幌工営株式会社 札幌交通機械株式会社 SKK
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・・・とその前に、展示室の入口に設置されている掲示板が気になったので閲覧。
札幌交通機械の名義で「平成31年度事故防止スローガン」と銘打たれた貼り紙があり、安全衛生と運転事故防止の標語が記されています。
「一人より 仲間で気付く(築く) 無災害 」
「安全は無理せず慌てず気を抜かずルールを守って事故防止」


JR北海道 国鉄 札幌車掌所 釧路運輸車両所車掌科 安全ポスター 事故防止標語
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こちらはJR北海道鉄道事業本部の2019年度事故防止標語ポスター。
「築くぞ安全 守るぞ命 正しい手順で正しい作業」とあり、標語は釧路運輸車両所の社員、写真は札幌車掌所の社員がそれぞれ発表しています。
車掌用シミュレーターを使った教習風景の写真が使われていますが、このシミュレーターは稲穂の社員研修センターに設置された物ではなく、最近になって各車掌所に導入されたシミュレーターでしょうね。
社員研修センターのシミュレーターは実際の車両を忠実に再現した造形ですし、ポスター写真の物はハリボテ感が強いんですよね
それに札幌車掌所や旭川車掌所などの室内にシミュレーターを設置し、なおかつリーダー(助役補佐)の中からシミュレーター担当を指定して、所内で実務研修を行うようになったという話を小耳に挟んだもので・・・。


JR北海道 国鉄 札幌工営株式会社 札幌交通機械株式会社 SKK 鋳物作業場展示室
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気を取り直して展示室に入りましょう。
室内では札幌工営が製作した数々の鋳物や、ブレーキシューの木型などが展示されています。


JR北海道 国鉄 JR貨物 札幌工営株式会社 札幌交通機械株式会社 SKK
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北海道鉄道技術館の正面玄関に掲げられた真鍮製看板も、札幌工営が製造した力作。
かつて同社が開設していた公式サイトでも紹介されていましたし、展示室にも木型が置かれています。


JR北海道 国鉄 JR貨物 札幌工営株式会社 札幌交通機械株式会社 SKK
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展示室に入って左手の棚には札幌工営が製造し、JR北海道の車両に実装された制輪子(ブレーキシュー)が並んでいます。
左から乙32改F(721系・785系)、乙32改Fフリコ(789系1000番台・キハ283系)、乙32F-810(733系・731系更新車)、乙32F(711系・キハ183系)、乙25改S(DD51形・キハ40系)、乙28改W(ED79形)です。
下の棚にはミニダルマストーブ、動輪、小樽駅の鐘が置かれています。


JR北海道 国鉄 札幌工営株式会社 札幌交通機械株式会社 SKK 鋳物作業場展示室
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札幌市電のブレーキシューも展示されています。
末期の札幌工営は札幌交通機械㈱の100%子会社であり、なおかつSKKが札幌市交通局の車両整備も受託しているため、親会社からの要請で市電用のブレーキシューを作っていたんですね。


JR北海道 国鉄 札幌工営株式会社 札幌交通機械株式会社 SKK 鋳物作業場展示室
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JR北海道 国鉄 札幌工営株式会社 札幌交通機械株式会社 SKK 鋳物作業場展示室
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JR北海道 国鉄 札幌工営株式会社 札幌交通機械株式会社 SKK 鋳物作業場展示室
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品質管理科鋳物作業場の制輪子製造プラントに関する解説板もあります。
これを見ればブレーキシューの工程が一目瞭然です。


JR北海道 国鉄 札幌工営株式会社 札幌交通機械株式会社 SKK 鋳物作業場展示室
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社籍・改造銘板も札幌工営が製造してきました。
これも現在はSKKに引き継がれています。

JR北海道 国鉄 札幌工営株式会社 札幌交通機械株式会社 SKK 鋳物作業場展示室
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お召し列車が掲出する菊の紋章も鋳物作業場で作られていました。
展示室に置かれている物は複製ですが、実物の製造も引き受けていたのは真に誇らしい事です。


JR北海道 国鉄 札幌工営株式会社 札幌交通機械株式会社 SKK 鋳物作業場展示室
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こちらは出入口の右手にある展示棚。
札幌駅コンコースのベンチを作った時の木型や、ダルマストーブが置かれています。


JR北海道 国鉄 札幌工営株式会社 札幌交通機械株式会社 SKK 鋳物作業場展示室
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そして下段の棚を見ると・・・何と道民には馴染み深いジンギスカン鍋が置かれているではありませんか!
中心に彫られた動輪マークが良い塩梅です。
その隣には何故かダンベル。
どういう事かと言いますと実は、札幌工営の鋳物製造は鉄道車両の部品に限らず、分割民営化後は一般消費者向けの製品も苗穂工場で産み出していたんですね。
一般消費者向けの鋳物は表札、食器、ストーブ、フェンス、SLグッズなど多岐に渡りましたが、この事実が意外にも鉄道ファンには知られていません!
寝台特急北斗星の企画設計やDMV(デュアル・モード・ビークル)の開発などで知られる柿沼博彦さんが、苗穂工場副工場長(当時)の高橋一宇さんと共に『鉄道ジャーナル』1990年2月号(通巻NO.280)に寄稿した記事にも、苗穂工場での鋳物製品製作について紹介されているので引用しましょう。

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 関連事業への取組み
 長年きずいてきた伝統ある技術力を他の分野にも応用できるはずだ――ということで1986年8月末、未開発研究室ができ、関連事業への実質的取組みがスタートした。種々意見が出され、それらについて一つずつ開発を進めてきた結果、徐々にではあるが実を結んできている。JR移行後、それらは技術・事業開発科が引き継ぎ、未来に花を咲かせるべく以下のようなものに取り組んでいる。

(※中略※)

 ●鋳物製品の製作
 鋳物製品の開発には2種類ある。一つは車両に使用されている制輪子であり、もう一つはインテリア製品である。
 制輪子は車両を600m以内に停止させられることと、安定した摩擦係数が得られること、そして耐熱性に優れていることが必要とされる。当工場では長年にわたって(72年間)培われてきた技術にさらに磨きをかけ、困難とされてきた130km/h用制御輪子の開発に成功し、実用化に一歩近づいたところである。インテリア製品としては、ストーブ、フェンスなどをつくり販売を進めている。

《出典》
柿沼博彦・高橋一宇(1990)「JR北海道苗穂工場の日常業務と車両開発」、『鉄道ジャーナル』1990年2月号、p.p.73~74(鉄道ジャーナル社)
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JR北海道 国鉄 札幌工営株式会社 札幌交通機械株式会社 SKK 鋳物作業場展示室
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ジンギスカン鍋やダンベルだけでも面白いのに、ステーキ皿まで作っています!
結構シンプルですが実用性重視な感じで良いですね。


展示室を眺めていると時間が経つのも早いもので、開始ギリギリになってしまいすぐさま実演会場へと向かいました。
次回に続きます。


2019/9苗穂工場一般公開[8] 鉄道工場で作ったジンギスカン鍋


※写真は特記を除き2019年9月7日撮影
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最終更新日 : 2019-10-05

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