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2019-09-15 (Sun) 17:43

2019/9苗穂工場一般公開[5] トラバーサーに進入する新型気動車H100形

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引き続き2019年9月7日、2年ぶりに開催されたJR北海道苗穂工場の一般公開について書きましょう。
前回は構内に同居するJR貨物苗穂車両所の機関車検修場で、釧路運輸車両所所属のDE10-1660を天井クレーンで吊り上げる玉掛け作業を一通り見学したのでした。
続いて11:30からは構内東側のトラバーサーBを使った「車両移動作業」が披露されるため、我々2人はやや急ぎ足で現場に向かいます。
赤レンガの機関車検修場の脇に構内移動用の線路があり、通路として開放されていたので道なりに進んでいきます。



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するとすぐそこにトラバーサーが!
・・・と言っても、これは車体移動作業の実演に使用されるトラバーサーではありません。
ほら、前回記事から本文中で「トラバーサーB」と、わざわざ「B」を末尾に付けて書いていますよね。
どういう訳かというと苗穂工場にはトラバーサーが2台ありまして、組立科第1旅客車検修場を挟むかたちで設置されているんですね。
そして工場従事員は第1旅客車検修場の西側にある方を「トラバーサーA」、東側にある方を「トラバーサーB」と呼び分けているのです。
一般来場者に配布されたイベントマップにもはっきりと、「トラバーサーA」、「トラバーサーB」と明記されています。



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トラバーサーAは札幌交通機械㈱が1981年8月に製造した物で、最大積載量は50トンに上ります。
苗穂工場の一部検修業務や構内運転業務(吸収合併した札幌工営より継承)などを受託するSKKですが、工場で使用する機械設備の製造・メンテナンスにも取り組んでいるのです。
SKKは札幌設備所(旧:札幌建築区および札幌機械区)、函館設備所(旧:函館建築区および函館機械区)、旭川設備所(旧:旭川建築区および旭川機械区)、釧路設備所(旧:釧路建築区および釧路機械区)からも駅舎・運転所などの機械設備の修理・交換・新設を受注しています。



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トラバーサーAをくぐり抜け、第1旅客車検修場へと入ります。



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第1旅客車検修場は例年通り椅子とテーブルが置かれ、くじ引きやチョロQレースを開催するゲームコーナーとして開放されました。
この検修場で車体修繕・改造などを担当する組立科には画伯が多く、以前は検修員直筆の安全啓蒙ポスターが多数展示されていたのですが、今年は残念ながら公開されていませんでした。
バラエティに富んだポスターは見ていて楽しいんですけどね・・・「アゴなしゲン」が描かれていたりねw
奥に安置されているキハ283系の辺りでは「高所作業車体験乗車」を開催する予定でしたが、直前にメカトラブルでもあったのか急遽中止となっています。



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第1旅客車検修場を通過すると、車両移動作業の実演会場に到着。
トラバーサーBとのご対面です。



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トラバーサーBの南西向きには運転室があり、ここに係員が乗り込んで操縦します。
運転中は赤いパトランプが点滅。



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トラバーサーBの製造元は国鉄浜松工場(現:JR東海浜松工場)で、1969年5月の製作と明示されています。
説明するまでもないとは思いますが、浜松工場があるのは静岡県浜松市です。
この大型機械を如何にして浜松から札幌まで輸送したのか気になるところ。
「特大貨物輸送」扱いで貨物列車に積載し、途中で青函連絡船に載せ換えたりして運んだのかなあ?


札幌交通機械株式会社 SKK トラバーサーB 車両整備業務
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予定通り11:30に実演がスタート。
組立科の助役がマイクを持って解説します。
JR北海道の検修員(車両係・車両技術係・車両技術主任)が着用するヘルメットは黒帯1本入りで、助役(科長・総括助役を含む)は黒帯2本、工場長・運転所長・運輸所長・運輸車両所長は黒帯2本の間に白帯1本を入れて識別線としています。
助役の話によると、これから第1旅客車検修場の非公開ピットに入庫している「ある車両」を、「アント」と呼ばれる車両移動機で押し込みトラバーサーBに載せるとの事。

そして助役と共に並ぶ、群青色の制服を着た6人の作業員は札幌交通機械㈱の社員です。
前々回の記事でSKK(札幌交通機械の公称)の構内運転業務を紹介しましたが、実はトラバーサーの運転もSKKに業務委託されているんですね。
SKKのヘルメットは役職を問わず白帯1本入りです。
右端に立つ背の高い男性は見たところ30代半ばくらいで、高齢な作業員ばかりの中では若い方ですが、助役の紹介によれば何と作業の指揮を執る課長補佐でした。


札幌交通機械株式会社 作業前点呼 トラバーサーB 車両移動作業 札幌工営株式会社
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11:34、課長補佐が前に立って作業前の点呼を執り行います。
作業手順で特に注意すべき事項を読み上げ、作業員達は内容をしっかり心に刻みます。
1人だけ白いゲートル(脚絆)を巻いている作業員が見られますが、この方がトラバーサーの運転士ですね。
国鉄後期(1975年7月~1987年3月)は諸機掛をルーツに持つ工作運転係という中間職が、各工場でトラバーサーを操縦していました。
工作運転係は動力車運転士(工場内のみ乗務する構内運転士)の職務も継承し、入出場車両の入換えにも従事していた訳で、元は車両製造・整備会社だったSKKが工作運転係の業務を概ね受託しているのも面白い話ですね。
ちなみに国鉄職員局が規定した「工作関係職員の職制及び服務の基準」(1961年3月制定/1975年7月改正)において、工作運転係の職務内容は下記の通り明示されています。

*************************************************************************
【工作運転係】
動力車の運転及び運転整備
動力機器その他諸機械の操縦及び保守
自動車の運転及び整備並びに物品の積卸し

《出典》
国鉄職制研究会(1978)『国鉄における職制の構造』(鉄道研究社)p.255
*************************************************************************

ところで現在はSKKが受託する庫内での車両移動作業ですが、こちらも入出場車両の操車・牽引運転と同じで元は吸収会社の札幌工営㈱が受託していたものです。
過去にハローワークが受理した札幌工営の求人を漁ると、2017年10月24日~2017年12月31日に「工場内一般作業員(車両整備)」という職種での募集があり、仕事内容欄の3行目には「移動機(アント)を使用して、鉄道車両を各修繕建屋に移動する作業 他」とあります。
この車両移動作業も2018年4月の吸収合併に伴い、SKKが引き継いだという訳ですね。
先述したとおり車両移動作業を担当する係員のヘルメットには白帯が入っていますが、これも札幌工営時代の物を使い回しています。
元々のSKKのヘルメットは帯が一切付きませんからね。
ついでに言うと第2旅客車検修場には第3旅客車塗装場が併設されており、こちらでの塗装作業も元は札幌工営が受託していましたが、やはり吸収合併後はSKKが担当しています。


札幌交通機械株式会社  トラバーサーB 車両移動作業 札幌工営株式会社
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点呼を終えて11:36より作業開始。
アント(車両移動機)の運転士が第1旅客車検修場に入っていきました。
暫くすると何やらエンジン音が響き渡り、トラバーサー前に立つ誘導係が緑色のフライ旗を振って合図を送ります。


札幌交通機械株式会社  トラバーサーB 車両移動作業 札幌工営株式会社
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11:37、誘導係が赤旗を頭上高く掲げました。
そして再び緑旗を振ると・・・


札幌交通機械株式会社  トラバーサーB 車両移動作業 H100形 H100-1
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何とJR北海道の新型一般気動車、H100形「DECMO」(デクモ)がゆっくりと向かってきました!
誘導係はH100形の正面に立ち、白銀のニューフェイスを一旦停止させます。


札幌交通機械株式会社  トラバーサーB 車両移動作業 H100形 H100-
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JR北海道初の電気式気動車の登場に会場はざわめき立ち、誰もが一斉にカメラを構えました。
助役の解説もテンションが上がります。


札幌交通機械株式会社  トラバーサーB 車両移動作業 H100形 H100-1
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小休止を経て11:38、H100形が前進を再開しました。
最後尾にアントを連結して押し込んでいるため、乗務員室には誰もいません。


札幌交通機械株式会社  トラバーサーB 車両移動作業 H100形 H100-1
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ゆっくりとした足取りでDECMOがトラバーサーに入っていきます。


札幌交通機械株式会社  トラバーサーB 車両移動作業 H100形 H100-1
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車体側面には愛称の「DECMO」を示したロゴマークが付いています。


札幌交通機械株式会社  トラバーサーB 車両移動作業 H100形 H100-1
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車番はトップナンバーのH100-1。
濃淡緑の帯には斜体フォントで「H100  Diesel Electric Car」との表記が入っています。


札幌交通機械株式会社  トラバーサーB 車両移動作業 H100形 H100-1
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積載完了まであと一息・・・!


札幌交通機械株式会社  トラバーサーB 車両移動作業 H100形 H100-1
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安全にトラバーサーを動かすには、もう一押し必要です。
ほんの僅かなズレでも思わぬ事故に繋がるものです。


札幌交通機械株式会社 トラバーサーB 車両移動作業 H100形 H100-1
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11:39、ようやくDECMOの積載が完了しました。


この後はトラバーサーの運転となる訳ですが、画像が多いので今回はここまで。
次回に続きます。


【2019年9月7日開催 苗穂工場一般公開の記事一覧】
2019/9苗穂工場一般公開[5] トラバーサーに進入する新型気動車H100形



※写真は全て2019年9月7日撮影
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最終更新日 : 2019-10-05

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